Cookie 以降の世界。重視すべきはAI、測定戦略、リテールメディアのうち、どれ?
記事のポイント
大手エージェンシーグループと比較して、独立系エージェンシーはCookie廃止により、ビジネスの重視やクライアントのニーズに合わせて柔軟なアプローチを取る可能性がある。Cookieからの移行において、「データパートナーシップ」と「ツールの確保」が鍵となる可能性がみえ、データセットのテストや検証、新しいデータプロバイダーの導入が行われている。一方でリテールメディアの活用により、クライアントにオーディエンスプランニングやコマースアクティベーションを提供できるようになりるという。現在進行中のCookie廃止に伴い、独立系エージェンシーは新しいオーディエンスの特定、AIのテスト、それに伴う測定の変更に備えたデータツールの拡充に関心を移している。その変更は、独立系企業にとって、大手のエージェンシーグループの場合とは異なる印象を与えるかもしれない。
独立系エージェンシーであるトンブラス(Tombras)のプログラマティック担当シニアバイスプレジデント兼メディア担当責任者のアレクサンダー・ポッツ氏は、大手エージェンシーグループと比較して、独立系エージェンシーはCookie廃止に対してより「多面的なアプローチを用いる可能性がある」と述べる。
「(独立系エージェンシーは)ビジネス重視のクライアント独自の能力やニーズに合わせてカスタマイズ可能なものを使用し、彼らの収益への見返りをアピールすることになる」とポッツ氏は言う。
新しいオーディエンスの確立
フルサービスエージェンシーのMGエンパワー(MG Empower)はこのほど、クライアントと協力して「ダイナミックターゲティング戦略」を策定し、オーディエンス増加のための領域を特定していると、同社でMGメディア部門責任者を務めるルーシー・ウォーカー氏は説明する。これには、クライアントのコア顧客セグメントを理解し、Cookie廃止後にそれらのオーディエンスにリーチするためのコンテンツ戦略を開発することが含まれる。
「これに加えて、我々はメディアプラットフォームが立ち上げたAI機能をテストし、まずそれらがうまく機能するか、拡張可能か、ブランドセーフかを確認するために、プラットフォームを注意深く監視してきた」とウォーカー氏は付け加える。
同氏はまた、戦術的な見込み客育成キャンペーンを利用してブランドの新しいオーディエンスを発掘することにも言及した。クライアントとより緊密に連携してマーケティングカレンダーを見直し、キャンペーンを調整することで、エージェンシーはセールスを求めているオーディエンスを特定し、彼らをロイヤルカスタマーにすることができる。
「従来、セールスの少ない時期やブラックフライデーの前に見込み客育成を行う傾向があったが、我々はブランドと協力して、より戦術的に見込み客育成を用いて、ブランドの重要な瞬間とつながる時期に焦点を合わせてきた」とウォーカー氏は言う。
データの機能や測定の拡大
多くのエージェンシーにとって、Cookieからの移行の主要部分は、適切なデータパートナーとツールを確保することでもある。ピュブリシス・ヘルス・メディア(Publicis Health Media)の最高デジタル責任者であるレイ・ロスティ氏が言及するように、この戦略は「ソリューションに関しては1回で確実に仕留められる銀の弾丸ではなく、複数に分かれて効果を出す銀の散弾銃を探している」という感じだ。
ピュブリシス・ヘルス・メディアは、新しいパートナーの検証のために、データの情報提供依頼書(Request For Information:RFI)を作成し、パートナーの各データセットをテストした。「これによって、我々は彼らのアクティベーションにおけるオーディエンスの重複を監視できる」とロスティ氏は説明する。
Cookie廃止に伴うもうひとつの課題は、データのスケールと測定だ。そのため、各エージェンシーがテストを続けるなかで、ベンチマークや測定基準を時間をかけて再設定する必要があるだろう。「サードパーティCookieの数は人の数よりも多いため、メディアの規模、平均CPM、フリークエンシーに関する過去のベンチマークを参照する方法は、おそらく一新されるだろう」とロスティ氏は言う。
MMMとMTAのハイブリットアプローチ
測定に関して、エージェンシーのデータ戦略にはサードパーティCookieに依存しないデータプロバイダーの拡充も含まれている。これにより、より多くのパートナーに類似したモデルを構築することができるだろう。これは、ファーストパーティデータを使ってデータパートナーシップを拡大し、規模を拡大するために大手エージェンシーも行っていることであり、「独立系エージェンシーではエクスペリアン(Experian)やトランスユニオン(TransUnion)との既存のパートナーシップがある」と、クロスメディア(Crossmedia)のマネージングパートナー、リー・ビール氏は説明する。
また、同氏は「これらの企業は、独立系エージェンシーにも同じ機能を提供している。それにより類似モデルを作成し、ファーストパーティデータから時計回りに、透明性をもって展開するためのインサイトを作成することができる。エージェンシーとして、明確にプライバシーを管理された方法でクライアントのファーストパーティデータを利用し、作業できることは力強い」と話す。
これはアジャイルインパクトモデリング(AIM)と呼ばれるもので、マーケティングミックスモデリング(MMM)とマルチタッチアトリビューション(MTA)のハイブリッドアプローチだ。ビール氏によると、AIMは集計された売上データを使って「両方の長所」を提供するため、同社は昨年からクライアントにAIMを使用しているという。
「クロスメディアはこのあいだに、ビジネスアナリストへの投資、データや技術者の雇用、チャネル別戦略の見直しなど、旧来型の広告戦略にも回帰している」と、ビール氏は付け加える。
リテールメディアのその先へ
スパーク・ファウンドリー(Spark Foundry)のコマース担当エグゼクティブバイスプレジデントであるエイプリル・カーライル氏は、エージェンシーが長期的にCookieの代替案を検討するなかで、リテールメディアの成長もまた、「来るべき移行(による影響)を緩和する方法のひとつとなっている」と語る。
「(リテールメディアネットワークは)フルファネル・メディアパートナーとなり、真のクローズド・ループ・レポーティングによって検証され、アドレスを特定できる豊富なファーストパーティデータにもアクセスできるようになった」とカーライル氏は述べる。
同氏は、「エージェンシーがこうしたリテールメディアに関するインサイトを活用できれば、クライアントにオーディエンスプランニングやコマースアクティベーションを提供し、最終的に売上につなげることができる」とも話す。
また、「Cookie廃止によるもうひとつの結果は、エージェンシーが用いてきたターゲティングの欠陥を修正することでもある」と付け加えた。同氏によると、現在のターゲティングアプローチでは、エージェンシーはDSPで、たとえばターゲットとするオーディエンスが何を楽しんでいるか、といったような「仮説の束」を使って活動しているという。
「無数の異なるデータプロバイダーと、すべての異なるターゲティングパラメーターを横断することになる」とビール氏と述べ、「彼らがどこからデータを取得するのかわからないが、それらを用いてお金を使うことになる」と言う。
さらに、「理論的にはこれはうまくいくが、結果としてエージェンシーは精度が低く、間違ったターゲットに行き着くこともある」と同氏は言い添える。そのため、全体的に見ればこのような変化のいくつかは、エージェンシーと広告業界にとって「健全な」ものであるとも同氏は考えているようだ。
[原文:Independent agencies shift to post-cookie tools: AI, new measurement strategies and retail media]
Antoinette Siu(翻訳:藤原聡美/ガリレオ、編集:島田涼平)