「熟年離婚」あなたは大丈夫? それとも…

写真拡大

 2023年6月、俳優の田中美佐子さんと、お笑いコンビ「Take2」の深沢邦之さんの離婚が話題になりました。結婚当時、「年の差婚」「格差婚」と話題になっていたことが思い出されます。田中さんは63歳、深沢さんは56歳での熟年離婚になります。

 全体の離婚件数のうち、熟年離婚が占める割合は21.5%(2020年)です。大変な時期を乗り越え、ようやく仕事も落ち着き、これから老後を楽しもうというときになぜ離婚するのか。そこには、さまざまな理由がありました。「恋人・夫婦仲相談所」所長である筆者とともに見ていきましょう。

熟年離婚の可能性を感じている夫婦は30%超

 Q.E.D.パートナーズ(川崎市)が2022年、既婚者200人を対象に実施した「老後の夫婦関係」に関する調査があります。この中にある「仕事を引退してから夫婦の時間が増えることについてどう思うか」という問いを見てみると、「とても憂鬱(ゆううつ)」と回答したのが7.5%、「憂鬱」と回答したのが11.0%でした。合わせて18.5%が、老後の夫婦関係に不安を感じていることが分かります。

 そして、「熟年離婚の可能性があると思うか」については、「あるかもしれない」が27.5%、「将来離婚を考えている」が7.0%でした。回答者全体の34.5%もの夫婦が、離婚の可能性を感じながら生活しているという結果が出ているのです。既に離婚を考えている人が7%もいるというのも驚きです。

 さらに、「夫婦で老後に楽しみにしていることがあるか」という問いに対しては、「ある」が43.0%、「ない」が57.0%という結果に。半数以上の夫婦が、老後に楽しみを感じていないことがうかがえます。老後に楽しみがないのであれば、一緒にいてもむなしいだけでしょう。離婚を考える気持ちも分かります。

 なお、この調査では、熟年離婚に「老後資産」が関係しているという推測をしています。

 老後の資産構築が「問題ない・多分大丈夫」と回答した人のうち、「離婚するかもしれない」人が15.7%、「将来離婚を考えている」人が5.6%だったのに対し、「老後の資産構築がダメそう・絶対無理」と回答した人では、「離婚するかもしれない」人が36.9%、「将来離婚を考えている」が8.1%という結果になったのです。“金の切れ目が縁の切れ目”といいますが、どうやらそのケースは夫婦にも当てはまるようです。

「息子が寝たきりになるかもしれない」ことをきっかけに…

 実際に「熟年離婚を考えたことがある」という人の話を聞く機会がありました。

 修一さん(72歳、仮名)には、一人息子の敏明さん(35歳、同)がいます。修一さんは妻の信子さん(70歳、同)と死別後、啓子さん(仮名)と再婚。修一さんと敏明さんは、再婚が原因で大きなけんかをして、絶縁状態になってしまいました。一切やりとりをしない状態が続いていたのですが、ある日、敏明さんが倒れて入院したという連絡が入ります。

 敏明さんには軽度の精神疾患があり、生活保護を受けていましたが、それを修一さんは知りませんでした。そして、修一さんが駆けつけたときには、敏明さんの意識はない状態。医師から「おそらく、目を覚ましたとしても寝たきりの状態になる」と宣告されます。激しく落ち込んだ修一さんは、その事実をしばらく啓子さんに伝えることができませんでした。

 事実を知ってから2週間ほどたったときに、修一さんが啓子さんにかけた言葉は「離婚してくれ」でした。

 突然のことに驚く啓子さんが理由を聞くと、「息子が寝たきりになってしまうかもしれない。そうなったら家を売却してお金を作り、自分が介護したいと思っている。啓子に大変な迷惑をかけてしまう。そうしたくないから離婚してほしい」と。啓子さんは、「そうなったら一緒に敏明さんの介護をする。離婚なんかしない」と修一さんに伝えました。

 その後、敏明さんは目を覚まさないまま亡くなりました。今、悲しみに暮れる修一さんを啓子さんが支えながら、二人は暮らしています。

 修一さんは、相手のことを思いやる気持ちで離婚を切り出しました。そして、啓子さんはどんなに大変なことが待っていようとしても一緒にいると固い決意を持って、離婚を拒みました。美談に聞こえますが、熟年で再婚を決意した啓子さんだからこその覚悟だと思いました。年を重ねてからの結婚・離婚は、既に確立されたライフスタイルや、人間関係の形を変えることになります。よほどの覚悟でなければ踏み込めません。

 夫婦のベースは、弱ったときこそ寄り添い、力づける気持ちではないでしょうか。年齢を重ねると体の不調、メンタルの弱さなどが出てきて、自分の思い通りに動けなくなります。どちらかが足腰が不自由になったり、介護が必要になってしまったりもするかもしれない、そんなときに、助ける気持ちがなくなっていたらどうなるのでしょう。

 30代の頃から、相手のことを「好き」「尊敬している」「信頼している」という感情はなく、生活や子育てのためにだけ一緒に暮らしていると感じている人たちに、夫婦仲相談所でたくさん会っています。向き合わないまま結婚を続けると、いざ、熟年期にパートナーが弱ったとき「お世話したくないから別れよう」という思考になってもおかしくないでしょう。

「熟年離婚をするかもしれない」と回答した人は、「うちらには思いやりなんてない」という不安を感じているのではないかと思うのです。

 30代、40代の今こそ、相手と自分を見つめ、どうシニア期を生きていきたいのか、幸せな老後を過ごすにはどうしたらいいのか、立ち止まって考える時間をつくってください。