絶不調だった「バーガーキング」が急回復した理由
ここ最近好調なバーガーキング。その理由はどこにあるのでしょうか?(編集部撮影)
バーガーキングはコロナ禍で逆転したのか
「バーガーキングは逆転したな」
個人的な話だが、コロナ禍になってから、さまざまなところに歩いて出向くことが増えた。2020年の初頭は電車に乗りたくないという理由だったが、そのうち健康になるからと思って徒歩が習慣になった。現在でも5kmくらいだったら歩く。
そして、歩くと、タクシーや電車で移動していたときに見えなかった飲食店に気づく。コロナ禍のときは、人との接触がないフードデリバリーが大流行した。あるいは、1人で入店でき、黙食が可能な店が求められた。そこで、これまで利用したことのなかった店やチェーンを経験した人たちが多かったはずだ。
さらに、これは言い訳なのだが、徒歩でかなりの距離を歩いているから、ファストフードを食べてもいいだろう、と気が緩む。運がいいことに私は、コロナ禍で体重の増加はなかったが、ファストフード店舗への訪問回数が増えた。その代表格がバーガーキングだ。
個人的に、私は四谷三丁目店によく行き、あとは赤坂見附店、信濃町、渋谷と続く。デリバリーが多く、店内客も個人が大半だ。注文はディスプレイ上で完結する。食していると、続々とデリバリーの配達員がやってきて商品を運んでいく。
そこで、まずはあくまで感覚的だが「バーガーキングは逆転したな」と思うようになった。なぜ逆転かというと、バーガーキングはコロナ禍前には、不調が伝えられ、もはや日本でのビジネスが成立しないのではないか、とすら言われていたのだ。それが現在では絶好調。
そこで当稿ではバーガーキングは実際に好調なのか。そして好調である施策の良さを述べる。そして、それはコロナ禍という社会的事象を利用した上手さがある。
もっとも施策だけで企業の巧拙を語るのは片手落ちだ。味の良さもあげなければいけない。たとえば私の家族はバーガーキングを好きな比率が高いが、セットの価格は安いものから高いものまであり、高価なセットはファストフードにしては美味でほかとは違う、という感想を抱いている。そこで同社の名誉のために、味の良さを前提としたうえでという意味で、お読みいただきたい。
(撮影:坂口孝則)
バーガーキングの業績
ところでバーガーキングは日本では非上場企業であり、財務状況は同社のホームページ等で公告されていない。官報などで確認する必要がある。それで情報が歯抜けになるものの、近年の業績を見てみよう。
なお本来は売上高や経常利益を示したいところ、非上場企業は貸借対照表の要旨を公開することになっているため、当期純利益と利益剰余金(これまでの該当企業が稼いだ利益の蓄積分)であることはご容赦願いたい。
・令和4年末時点(2022年末時点):当期純利益+1億6531万1000円、利益剰余金1億8283万3000円
・令和2年末時点(2020年末時点):当期純利益▲5億2684万円、利益剰余金8億4813万8000円
・令和元年末時点(2019年末時点):当期純利益▲14億6492万9000円、利益剰余金13億7497万9000円
・平成30年末時点(2018年末時点):当期純利益▲10億9115万円、利益剰余金▲45億7009万1000円
*なお、令和5年は株式会社ビーケージャパンホールディングスのデータであり、令和3年以前は株式会社バーガーキング・ジャパンのデータとなっている
こう見ると、毎年かなり当期純利益がマイナスだったところ(純損失と呼ぶほうが正しい)、それがコロナ禍で好転し、ついに純利益が出るようになっている。
なお、貸借対照表の要旨だけなので売上高の全容はわからないものの、一部の公開された情報を紡いでいくと、平成30年(2018年)に売上高87億円だったところ、現状では200億円を超えるようだ(バーガーキングが3年で店舗倍増、売り上げ200億円超え。好調の背景にコロナ禍と値上げの波/Business Insider Japan)。
バーガーキングは、さまざまな企業によって運営されてきたブランドだ。1993年から2001年までは西武商事やJTが運営、うまくいかずに一度は日本撤退。2007年に再上陸すると、そこから2019年まではロッテ・韓国ロッテリアが運営したが、なかなかうまくいかずに、香港の投資ファンドに売却された。現在は、その投資ファンドが設立したビーケージャパンホールディングスが運営している。そんな歴史を考えると、ついに利益が出るようになった現状は、なかなか感慨深いものがある。
バーガーキング続伸の理由
さきほどコロナ禍での私の経験を述べた通り、バーガーキングはデリバリーが可能なファストフードであり、さらに黙食が可能な業態だった。この強みがあり、同社に追い風を吹かせた。
さらに、私が注目したのは、私が爆笑してしまった同社の取り組みがあったためだ。というのは2020年に同社が「BK TOWN ROOM」を開始した。なぜ私が笑ったかと言うと、なんとこのキャンペーンは消費者の近くに店舗をオープンするのではなく、消費者がバーガーキングの店舗の近くに引っ越そう、というものだったのである。
<お客様より「店舗が近くに無い」の声や「近くにお店を作って欲しい」などの新規出店のご要望を多くいただいており、バーガーキング®ではお客様の声やご要望にすぐにお応えできないことに日々心を痛めておりました。
上記のお客様の声やご要望について社内で会議を重ねた結果、お客様にバーガーキング® のお店の近くに引っ越していただくことで解決できないだろうか、と考えバーガーキング® 店舗の近隣のお部屋探しができる物件情報サイト「BK TOWN ROOM」をスタートすることにいたしました。>
もちろん私も野暮ではないので、これが冗談だとわかっている。ただ、それでもなお、笑って、そこまで人気なら、と店舗の訴求性をあげるのに成功している。
そして次に同社は大胆不敵なPRを行った。X(旧Twitter)でなんと「店舗を増やしたいのですが、物件探しに困っています。バーガーキングにぴったりの空き物件をぜひ紹介してください。実際に成約した場合には10万円差し上げます!」と投稿した。
(出所:バーガーキング公式X)
可能ならこの投稿を読んでほしいが、返信は愛のあるコメントであふれている。もちろん例外はある。ただし、同社の熱烈なファンと店舗を作ろうとしている。
同社がどれだけ狙ったかは知らないが、ファンベースを強固なものとし、一緒に店舗を設立すればストーリーにもなるだろう。
また、これまた、どれほど同社が狙ったかは知らないが、この反応を分析することによって熱く希望する地域と、そうではない地域の差分も把握できるだろう。マスも重要だが、現時点で熱烈なファンを囲い込むことは常に正しい。
バーガーキングの再生は、コロナ禍をキッカケにしているものの、ファンベースとSNS戦略のあざやかな成功を示している。
(坂口 孝則 : 調達・購買業務コンサルタント、講演家)