東武の特急「スペーシアX」(筆者撮影)

2023年は、本当にアツい1年だった。列島各地で真夏日数(最高気温30℃以上)を更新し、群馬県の館林では、真夏日90日(9月までの集計)も記録され、これは同地域での歴代1位だったという。さすが北関東の夏は暑い。

しかし、アツかったのは何も気温だけではない。鉄道に関する話題でも北関東はかなりアツかったのではないか。

スペーシアXのこだわり

浅草から日光・鬼怒川方面へ延びる東武鉄道。昨年7月15日に華々しくデビューした「スペーシアX(N100系)」は、従来の東武の看板特急列車「スペーシア(100系)」の後継車両である。日光東照宮陽明門に塗られた胡粉をイメージした白い車体に、窓周りなどを黒でまとめたシックなデザイン。窓も「六角形」で作られており、観光特急としての「和のおもてなし」を感じる外観だ。

従来の100系スペーシアのイメージを一新しただけでなく、車内の設備はこだわりを極めた。6両編成の各車は、コックピットラウンジ(1号車)、プレミアムシート(2号車)、スタンダードシート(3〜5号車)、5号車の一部にボックスシート、コンパートメント(6号車)と多彩なバリエーションが用意されている。さらに6号車には、運転室寄りの位置に「コックピットスイート」が用意されており、最上級の旅を味わうことができる。

目的地への移動としての鉄道という役割だけではなく、移動そのものが旅先での楽しみとなる、移動体験が思い出になる列車といえる。

スペーシアXはチケットの人気が高く、東武鉄道関係者によると「特にコックピットスイートは、満席に近い状態が続いている」という。スペーシアXに何度も乗車したというリピーターの間からも、「スイートはなかなか入手することができない」という声が聞こえる。

だが、3月16日のダイヤ改正では一部の特別座席の料金を改正するほか、スペーシアXをさらに2編成追加導入し、増発する予定だ。そのため、チケット購入のチャンスが増えることは間違いない。

大人気の宇都宮ライトライン

続いては、8月26日に宇都宮駅東口―芳賀・高根沢工業団地間が開業した「宇都宮ライトライン」だ。


宇都宮ライトレールHU300形(筆者撮影)

同線は軌道法に基づき敷設された路面電車の新規路線で、宇都宮駅から鬼怒通りを東へ進み、鬼怒川橋梁を渡ってグリーンスタジアムを経由し、芳賀・高根沢工業団地に至る路線である。沿線には地元住民が頻繁に使う病院やショッピングモール、また多くの人が就業する工業地帯がある。これまでは渋滞を気にしながら自動車で行くしかなかった場所であったが、ライトラインの開業によって、利便性が飛躍的に向上した。

そのことを実証するように、開業以来利用者も予想を超えて伸び続けている。開業から82日の11月15日には、乗客数100万人を突破した。これは、計画当初の需要予測よりも2週間早い突破であり、沿線住民が待ち望んでいた交通期間であるという存在が実証されたといえる。

使用されている車両はHU300形という型式がつけられ、「H」は芳賀、「U」は宇都宮を意味し、300は3連接車両を意味している。3つの車体が連節構造で製造された車両は、定員160名。大型バスが1台で70名ほどの定員なので、1編成でバスの約2倍強の乗車定員となる。

カラーリングは「雷」をイメージ。これは、「雷の多い宇都宮」イメージと、「LIGHT=明るい」を彷彿させるものである。個人的には、自動車といっしょに走行する区間においても、この塗装は警戒色としても有効だ。ただ、沿線マイカー利用者が運転する自動車との接触事故が多発しており、その多くが自動車側に過失があるものの、安全対策が急務になっている。

ライトラインの平日7時台は、下り芳賀・高根沢工業団地方面行きの列車の混雑ぶりが著しく、早々に、10月23日から平日ダイヤのみ、ダイヤ改正を実施したうえ、イベントなどの開催で混雑が予想される日においては、臨時列車を増発するほどの人気ぶりだ。

11月29日に発表した公式発表によると、開業3カ月の1カ月間(10月26日〜11月25日)でも、利用者が約39万人。これは、当初の予想を1.3倍も上回っている。今後も沿線開発の影響もあり、利用者はさらに増えると見込まれる。

そのことに対してこれからも、いろいろな施策が盛り込まれていくことであろう。宇都宮ライトレールの担当者によると、「今後のダイヤ改正に合わせて、快速運転の実施も検討している」という。

再び、東武鉄道に話を戻そう。東武鉄道の野田線(アーバンパークライン)大宮―柏―船橋間が鉄道ファンを中心に注目されている。同路線には、昨年車歴60周年を迎えた8000系という車両が多数運行されている。

南栗橋車両管区・七光台支所に、動態保存車として長らく休んでいた8000系8111編成が復活し、11月1日から野田線(アーバンパークライン)での営業運行が開始された。

8111編成は、他の8000系車両とは異なり、旧前面(60年前登場当時のスタイル)のままで、塗装も旧塗装であるロイヤルベージュとインターナショナルオレンジをまとっており、ほかの編成の中でもひときわ目立つ存在となっている。


東武鉄道8111編成(筆者撮影)

この8111編成は、よくありがちな臨時列車などのイベント用として特別な運用をしているわけではなく、ほかの編成とともに、一般運用されている。しかも、所有者は東武博物館なので、東武博物館が東武鉄道に貸し出すという扱いであるのも非常に興味深い。

沿線では、連日同列車を撮影しようと多くの鉄道ファンが、沿線でカメラを構えているのを見かける。筆者が8111編成を撮影した際に、近くに居た鉄道ファンに聞いた話では、「2023年の東武鉄道は大きな話題が多く、かなり攻めていた」そうだ。筆者も同感だ。

このように、昨年の夏以降は、北関東周辺の鉄道事情が大きく変化した、非常にアツい年だったといえるだろう。

2024年は上毛電鉄に注目

さて、今年の北関東はどうなるのだろうか。気になるのが、上毛電気鉄道である。同線は、西桐生と中央前橋を結ぶローカル私鉄路線である。

上毛電気鉄道の公式発表によると、東京メトロ日比谷線で運行されていた03系車両を導入し、改造したのち800形として、2月下旬の営業開始を目指しているそうだ。


東京メトロ日比谷線の03系(筆者撮影)

従来使用していた700形(元京王3000系車両)の一部置き換えを行う目的ということで、段階的に導入していくようだ。

2024年も北関東の鉄道の話題に熱い視線を送りたい。

(渡部 史絵 : 鉄道ジャーナリスト)