「お手」「おかわり」教えるべき?

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 飼い主の声かけに従って、犬が「お手」「おかわり」をする様子は、従順でかわいらしいものです。「お手」と「おかわり」はしつけの一環ながら、「お座り」「待て」「伏せ」などと比べると「芸」のイメージが強いという人もいるようで、「必ず教えないとダメ?」「日常生活には必要がない気が…」といった疑問の声も聞かれます。

「お手」と「おかわり」は、犬にとって必須のしつけなのでしょうか。ますだ動物クリニック(静岡県島田市)院長で獣医師の増田国充さんに聞きました。

「信頼」と「従順」を示すサインの一つ

Q.そもそも、犬の「お手」と「おかわり」は、飼い主と犬にとってどのような意味を持つものなのでしょうか。

増田さん「犬はもともと群れ社会で生活する動物で、主従関係が構築されています。一説によると、そうした中で前肢を差し出すことは、自分より目上の者に対する信頼の証とされています。つまり、『お手』や『おかわり』をすることが、相手に対して信頼を置き、従順であることを示しているサインの一つという見方ができるかと思います。

おうちの人が出した『お手』の指示に対してしっかりと反応できることは、ご家族と犬との関係が良好である可能性が高いことや、犬自身がTPOをわきまえて自制できることが多いため、診察や処置といった犬にとって不安を抱くような状況でも、高い確率で協力的であるように感じます」

Q.「お手」と「おかわり」は、飼い犬に必ず教えた方がいいのでしょうか。

増田さん「必ず『お手』や『おかわり』をマスターしなければならない、ということではありませんが、おうちの人のコマンド(指示)をきちんと理解し、行動できることが重要な意味を持ちます。

家庭の中で、犬が家族の人の指示をきちんと行動に移せることは、ヒト社会で生きていくために必要な知識と技術になります。この部分がうまくいかないと、おうちの人にかみついたり、お留守番や散歩が上手にできなかったりするといった問題が生じることがあります。犬の一生を良好な関係で、なおかつ双方にストレスなく過ごすためにも、一定のルールを築いておく必要があるわけです。

トレーニングが行き届いた犬は、人間からのコマンドに対してさまざまな芸を身に着けることができますが、その基本となるのが比較的習得しやすい『お手』や『おかわり』でもあるのです」

Q.「お手」と「おかわり」を教えるのに適した時期はあるのですか。

増田さん「犬は生後2〜3カ月ごろまでが『社会化期』と呼ばれる時期です。脳がまさに発達するタイミングであり、人間や他の犬との接触を通じて感覚や運動機能を向上させる時期にあたります。学習能力も非常に高いため、この時期に良好なコミュニケーションを取りながら、『お手』や『おかわり』を覚えていくとよいでしょう。

とはいえ、この時期は自分の名前を覚えたり、トイレトレーニングをしたりと学ぶことが多いです。そのため、これらをきちんと覚えていきながら、『お手』や『おかわり』『お座り』などのコマンドを習得していくことになります。成長には個体差があるので、ひとくくりにはできませんが、基本は他のトレーニングと同様に『上手にできたら褒める』を繰り返しましょう。効果的におやつやフードを使用することも有効となる場合があります。

『お手』の場合、犬の正面に向き合って、『お手』と言いながら前肢を軽く持ち上げます。そして犬の前肢を下ろすことを繰り返します。できた場合はしっかり褒めて、おやつを与えるとよいでしょう。上手にできたことが犬にとって自信につながり、おうちの人との絆が深まる手段となります。

生後2〜3カ月ごろの時期から基本的なコマンドを覚えられるのが理想ですが、時期を逃したからといって諦めることはなくてよいと思います。繰り返しの経験を経て習得できることがあるからです。なかなかコマンドが覚えられない場合は、ドッグトレーナーさんに相談してみましょう」