こちらに写っているのは「くじら座(鯨座)」の一角。縦横が満月の視直径の15分の1程度(1.88×2.07分角)に相当する視野の中央に、明るい光点を取り囲むリング状の天体が小さく見えているのがわかりますでしょうか。


【▲ 重力レンズ効果を受けて像がリング状になった遠方の銀河「HerS J020941.1+001557」(Credit: ESA/Hubble & NASA, H. Nayyeri, L. Marchetti, J. Lowenthal)】

欧州宇宙機関(ESA)によると、このリング状の天体は今から約110億年前の宇宙に存在していたとされる銀河「HerS J020941.1+001557」(ASW0009io9、略して「9io9」とも)の像で、地球との間に位置する銀河がもたらした重力レンズ効果を受けています。


重力レンズとは、手前にある天体(レンズ天体)の質量によって時空間が歪むことで、その向こう側にある天体(光源)から発せられた光の進行方向が変化し、地球からは像が歪んだり拡大して見えたりする現象です。HerS J020941.1+001557の場合、リングの中央に見えている約20億光年先の楕円銀河「SDSS J020941.27+001558.4」による重力レンズ効果によって、像がリング状に歪んで見えています。このように重力レンズによってリング状になった天体の像は、一般相対性理論にもとづいて重力レンズ効果を予言したアルベルト・アインシュタインにちなんで「アインシュタインリング」と呼ばれることもあります。


冒頭の画像は「ハッブル宇宙望遠鏡(Hubble Space Telescope:HST)」の「広視野カメラ3(WFC3)」で取得したデータ(近赤外線のフィルターを使用)をもとに作成されたもので、2024年最初の“ハッブル宇宙望遠鏡の今週の画像”として、ESAから2024年1月1日付で公開されました。なお、HerS J020941.1+001557は大量の銀河の画像の中から重力レンズ効果を受けた銀河の像を一般市民の手で捜索する市民科学プロジェクト「SPACE WARPS」によって発見されたということです。


 


《記事中の距離は天体から発した光が地球で観測されるまでに移動した距離を示す「光路距離」(光行距離)で表記しています》


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ESA/Hubble - So near, or so far?

文/sorae編集部