日本にある貨物駅は、かつての「広大に枝分かれする」形から、スリムな構造に変わりつつあります。なぜそのような変化が起きているのでしょうか。

昔ながらの「枝分かれだらけ」貨物駅が減ったワケ

 JR貨物を中心に、全国およそ240駅ある貨物駅。現在、その構内構造を「手の平型」からスマートな「F1のピットイン型」へと変える“肉体改造”が徐々に進んでいます。


貨物列車のイメージ(画像:写真AC)。

 いわゆる「手の平型」というのは「ヤード式」と呼ばれ、昔ながらの重厚長大で大掛かりなスタイルです。本線から分岐した引込線が駅構内で何本も枝分かれし、それぞれが行き止まりになっているもの。上空から見ると、根元となる引込線が「腕」、枝分かれした線が「指」に見えるというわけです。

 枝分かれ線には「着発線」(列車の出発・到着用)、「仕分線」(貨車の編成替え用)、「貨物積卸(積み降ろし)線」「空車留置線」など、作業別の名前があり、線路が幾重にも複雑に絡み合う光景は圧巻です。東京の旧汐留駅や、いまだ健在の隅田川駅、大阪では旧梅田貨物駅が「手の平型」の典型です。

 日本の貨物列車の方式は、現在の“何でも積み込んで運ぶコンテナ”という形ではなく、40年ほど前まで「車扱い(しゃあつかい)」というのが主流でした。「車」とは貨車のことで、荷物と貨車とは基本的に“一心同体”で、荷物の種類ごとに多種多様な貨車が造られ、これを最小単位にして何十両も数珠つなぎにして貨物列車が編成されたのです。

「車扱い」の貨物列車は駅に到着後、本線を走って来た機関車と、駅構内で活躍する小型の「入替機関車」が一旦交代します。そしてスイッチバックして貨物列車を後ろ向きに駅構内へ入れると、貨車を1両ずつ小分けにしながら「仕分線」「貨物積卸線」「空車留置線」などに振り分けます。

 作業が終わると、その駅が終点の貨車とサヨナラし、新たな貨車を仲間に加え、今後の作業効率も考慮して貨車の順番を入れ替えるなど、パズルのような複雑な編成を完成させてようやく再出発。入替機関車は本線用の機関車に再びバトンタッチし、次の貨物駅へと出発進行、というのが一連の流れです。

 貨車の入替業務全般をコントロールする要員は「職人技」の持ち主です。貨車の“交通整理”がうまく行かないと、あっという間に駅構内は大渋滞となってしまいます。

時代の流れについてこれなかった貨車

 ところが「手の平型」をベースとした「車扱い」の貨物列車は、貨車の入れ替えに「手間・暇・コスト」がかかり過ぎるため、スピードを求める時代にそぐわなくなります。1980年代に入ると、国内物流の主役は迅速さと小回りのよさに優れるトラック輸送へと完全にシフトします。

 加えて“親方日の丸”の旧国鉄ではストライキが頻発したほか、「荷物の到着は貨物列車に聞いてくれ」という態度で、スピード輸送どころか定時輸送すら“夢のまた夢”の鉄道貨物に対し、大口の荷主たちが見切りをつけたことも、トラック・シフトを加速させました。

 この結果「車扱い」は急速に衰退し、旧国鉄は鉄道貨物の再起を図るため、「トラックとの連携」を重視する方向に。積み替えやすく、迅速・低コストの「コンテナ化」へと大きく舵を切るのです。

 1980年代後半に旧国鉄は分割民営化されJRグループに衣替えすると、この流れはさらに加速。多種多様な車扱貨物の専用貨車はほぼ“絶滅”し、現在残っているのは、石油類を運ぶ「タンク車」やセメント・石灰石運搬車、レール輸送の「長物車」、超重量の変圧器を運ぶ「大物車」くらいです。


かつて新橋駅東側にあった汐留貨物駅。典型的な「手の平型」の構造(画像:国土地理院)。

 ただし、在来の「手の平型」では、入替機関車とのバトンタッチや、バックによる駅構内への入線など面倒な作業は相変わらずで、コンテナが得意とする迅速性とは程遠い状況でした。

 そこでJR貨物が導入を決意したのが、「F1のピットイン型」です。正式名は「E&S」(「Effective & Speedy」Container Handling System)と言い、直訳では「効果的で迅速なコンテナ取扱いシステム」となります。

「コンテナを迅速積み降ろし」に特化の最新貨物駅

 ここでは本線と並行して線路(着発線)を何本か引き、線路の横には広いホームを設置。コンテナ列車が到着すると、ホームで待機する大型フォークリフト、トップリフターが数台がかりで一気にコンテナの積み降ろしを行い、作業が終了すると貨物列車はそのまま直進して本線に戻ります。

 コンテナ貨車の入れ替えは通常行わず、コンテナの積み降ろしだけに専念します。また入替機関車も不要な例が大半で、本線を走る電気機関車がそのまま駅構内に入線します。これにより従来の「手の平型」に比べシンプルでスムーズな貨物扱いが可能となりました。

 いわば本線上で直接荷捌きを行うため「発着線荷役方式」とも呼ばれ、F1などレーシングカーがタイヤ交換や燃料補給のためにピットインし、待機するスタッフが素早く作業を行い、あっという間に作業を終えてクルマがそのまま直進して本ルートに合流する姿とよく似ています。

 ほかにも工夫があります。大型フォークリフトなどが積み降ろしをする場合、線路上空の架線が邪魔でしかも非常に危険となります。そこで架線の位置は可能な限り高くしておき、機関車はパンタグラフを思い切り伸ばして入線、到着したら安全のために荷捌き部分の架線だけ電気を切るというシステムが導入されているのです。

「ピットイン型」と呼ばれるE&Sは1986年の岐阜貨物ターミナル駅が最初で、ほかにも横浜羽沢駅(神奈川、東海道貨物線)、吹田貨物ターミナル駅(大阪、東海道本線)、北九州貨物ターミナル駅(福岡、鹿児島本線)など、現在30駅以上あり、今後も徐々に数を増やすようです。