カバン使って店員を下から盗撮、暗ければ内蔵ライト発動 日本にはびこる盗撮犯の実態
「医師が露天風呂で女性を盗撮」「有名受験塾の講師が教え子を盗撮」など、耳を疑うような事件が連日、報じられている。
昨年(2022年)1年間で、盗撮犯の検挙件数は5737件と過去最多となったが、この数字は明るみに出たものに過ぎず、氷山の一角と見るべきだろう。2023年7月には、性的部位や下着の盗撮を罰する「性的姿態撮影処罰法」(撮影罪)が施行されたが、どれだけ抑止力となるのかどうか、定かではない。
私はTVディレクターとして、長年、盗撮犯や被害者たちと会ってきた。コロナ禍で外出自粛となり、夜の街から人が消えた時も犯行はやまなかった。日本に広がる、盗撮の実態をシリーズで追っていく。(ジャーナリスト・竹輪次郎)
●「コロナだろうが何だろうが盗撮する」
「あいつらはコロナだろうが何だろうが盗撮する。外出自粛なんて関係ないんです」
筆者は痴漢などを取り締まる生活安全課の刑事が、そうぼやいているのを聞いたことがある。
2020年から2022年まで在宅勤務の推奨や自粛要請で人出は大幅に減ったにもかかわらず、検挙件数は増え続けていた。警察庁によれば、2019年は3953件、2020年は4026件。2021年は5019件。2022年は5737件と増加し続けている。
犯罪の性質上、盗撮犯のほとんどは捕まらない。文字通り被害者に気が付かれないように撮影するため、被害にあったことすら分からないことがほとんどだ。先にあげた検挙件数は氷山の一角で、その5倍も10倍もいるだろう。それだけ盗撮は身近で、増えている犯罪なのだ。
●「盗撮は人に危害を加えるわけではない」
ではなぜ盗撮が増えているのだろうか。筆者は盗撮犯が語っていたある言葉を思い出す。
「盗撮は別に人に危害を加えるわけではない。レイプや痴漢に比べてずっとまともで、しかも捕まらない行為なんだ」。
盗撮は犯罪でなく趣味で一ジャンルであると、もっともらしく盗撮の"安全性”を語っていた。この盗撮犯は大学の講師(当時)だけあって、屁理屈がうまかった。
彼の発言を肯定するつもりは全く無いが、盗撮犯の心理は的確にとらえている気がする。彼らは大体「人に危害を与えるほど大胆に行動は出来ないが、撮影するくらいは良いだろう」、そう考えているフシがある。しかしそれが性的な欲求を満たすための都合の良いロジックであることに当人は気が付かない。
こうして、盗撮犯たちは罪の意識が希薄なまま、盗撮を繰り返していく。
これまでの事件の取材から言えば、盗撮犯は捕まった時には大量の映像をスマホなりパソコンなりに保存しているケースが多い。警察の取り調べに対しては「初めてやりました」と言うようだが、実際のところ、初犯で逮捕されるケースはほぼ無く、数百件なり数千人を撮影した後に検挙されるケースがほとんどだ。
最初はビクビクしながら周囲の目を気にしながらやるので、盗撮も成功しない代わりに検挙もされない。だんだん慣れてきてエスカレートしていく。
盗撮画像が大量に集まり出すと、盗撮犯は仲間づくりを始める。インターネットの掲示板やX(旧ツイッター)など様々なSNSを通じて仲間を作り始める。そして仲間同士で、盗撮の技術、盗撮スポット、逮捕されたときの対処方法、関連する法令など情報交換を行う。
こうして技術も知識もある盗撮犯が生まれていくのだ。彼らが集まる目的は、もちろん撮影画像を交換することだが、徒党を組むことで、罪の意識はより希薄になっていく側面もあるのではないだろうか。
●カリスマMr.研修生、巧妙手口で売り上げ1億5千万円
今年(2023年)2月、迷惑防止条例違反(卑わい行為)で京都府警によって逮捕、起訴された46歳の男もまさにそういうタイプだった。初公判の冒頭陳述によれば、商業施設内にあるアパレルショップの店員にカバンに仕掛けた隠しカメラを持って近づきスカートの中を撮影するという手口で、初公判では被害女性が少なくとも100人以上に上った。インターネット上で知り合った盗撮愛好家から手口や逮捕されにくい方法などを教わったという。
男は、盗撮した女性の映像を販売していた。映像の流れはこうだ。
男が隠しカメラを持ってショップ店員に近づき、会話する。盗撮目的であるとは知らず、接客するショップ店員。おすすめの服を探している間に、カメラがスカートの中に入り込み下着の撮影を行う。また違う服を探しに別の場所に店員が動けば、カメラは女性を追いかけて商品探しに気を取られているところでスカートの中を撮影する、という具合だ。
女性の顔にモザイクなど加工はほどこされていない。女性の声もそのままだ。映像にして1本5分から10分。値段は1本1000円ほど。収録時間から考えると高価に思えるが、これが飛ぶようにとれた。
男が販売する際に使っていた名前は「Mr.研修生」。映像を出せば出すだけ売れて、何十人ものショップ店員の盗撮映像を販売していったという。そして、いつしかMr.研修生は盗撮のカリスマと呼ばれる有名人になった。売り上げは販売を始めておよそ7年間で総額1億5千万円に上った(初公判冒頭陳述より)。
逮捕時、Mr.研修生が使っていた機材はとても巧妙だ。カバンのタブにレンズを偽装。このレンズの映像はカバンの中にあるiPhoneで録画される。しかもこの画像は手元のアップルウォッチで確認できる仕組みになっていて、スカートの中が暗ければ、カバンの取っ手に仕組んであるスイッチを押すと照明が点灯。スカートの中を明るく撮影できるようになっていた。
公判では明らかになっていないが、彼が実際に販売していた動画一覧を見るとMr.研修生は赤外線カメラを駆使した盗撮も行っていた。赤外線を通す特殊なカメラを使うと、たとえ厚手の柄物のスカートを履いていても下着が透けて見える。
万が一、撮影しているのを他人に見られたとしても、身体全体を撮影しているだけなので、下着の盗撮をしているとは思われないだろう。Mr.研修生は、捕まらないために、機材の改良を重ねて撮影を継続していったのだ。
初公判で男がカリスマに上り詰めるまでの過程を検察はこのように説明した。
「高校卒業後、予備校で寮生活になって自由に生活が出来るようになってから盗撮をするようになった。その当時から興味を持っていた女性の下着を観たいとの思いを実現させるため、盗撮用に家庭用ビデオカメラを購入した。盗撮がばれないように、カバンに隠すなど工夫した。次第に小型のカメラを使うようになり、靴にカメラをつけるなど試行錯誤するようになった。
当時、アダルトビデオ店でショップ店員の盗撮ものが今以上に売られていて、実際に商品を観て、そのようなジャンルがあることは知っていた。自分もショップ店員の盗撮をしようと思った」
実際にショップ店員を盗撮している動画に刺激を受けて、真似してみようと考えたのだという。そして研修生はカリスマにまで上り詰めた。販売サイトで使っていたMr.研修生の名前も先にやっていた先輩のあとに続くという意味が込められているのだろうか。
●超巨大! 盗撮の闇マーケット…取る人、売る人、買う人、観る人
Mr.研修生が真似してみようと思わせた盗撮ビデオは、現在はインターネットで広く販売されている。成人向けビデオのジャンルは今や非常に細分化していて、「盗撮モノ」はもはや1つのジャンルとして確立している。
こうしたビデオは、盗撮映像を専門に扱う「盗撮サイト」で売られていることが多い。いわゆる盗撮風のやらせ動画を売っている場合もあるのだが、"本物"も多い。実際、筆者が取材した事件の動画を、盗撮サイトで目にすることもあった。
"本物"があるということで、劣情をそそり犯罪を助長するという批判があるかもしれない。でも実情に目を背けるだけでは、事態の改善はしないと考えて、問題を提起する。例えば温泉施設の盗撮映像には18歳未満の未成年がいるケースもある。盗撮問題は児童ポルノ問題でもあるのだ。
サイト上にある映像は商品ごとに買い切る形か、サブスクかどちらかの形式をとっている。買い切り形式であれば映像ごとに料金を払って動画をダウンロード出来る。サブスク形式であれば、我々がよく知る大手の動画配信サービスとなんら変わらない。サイトにある動画が見放題になる。
盗撮と一口に言っても、さまざまなジャンルに分類されている。それは主に撮影場所によって変わる。「トイレ」「更衣室」「風呂(露天風呂・脱衣場)」「学校内」「民家」「ラブホテル」「風俗店」「パンチラ(駅、商業施設)」などで、これらは後述する盗撮サイト上でのジャンル分けだ。Mr.研修生の犯行のように、短いスカートを履くことも多いショップ店員を狙ったジャンルも古くから存在する。
Mr.研修生がいくらカリスマだと言っても、あくまでも1ジャンル1個人だ。その個人が1億5千万円も稼いでいることを考えると、いかに盗撮サイトが多くの購入者に支えられているかが分かる。
撮る人、観る人、売る人、買う人、それらが一体となって盗撮マーケットが存在している。