【西田宗千佳連載】簡単そうに見えて難しい、「リアルなMR」を実現するまで
Vol.132-2
本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマはMetaが発売を開始したVRデバイス「Quest 3」。開発までの経緯、特にMR機能の実現にいたるまでを解説する。
Meta
Quest 3
実売価格7万4800円〜
Meta Quest 3の最大の特徴は、外部の様子をカラーかつ立体感のある形で見られる「Mixed Reality(MR)」を重視したことだ。
MetaのMRへの取り組みは、2021年から始まる。Meta(旧Oculus) Questは外部認識のために搭載されているセンサーを使い、自分の周囲の様子を表示する、「パススルー」するところからスタートした。もともとはカメラとして搭載されていたものではなく、あくまで「センサー」であり、モノクロで解像度も低い。それを複数組み合わせ、ディスプレイ側にはモノクロによる周囲の映像が見えるように工夫した……という流れだ。
その後、Metaが採ったアプローチはスタンダードなものになり、多くのVR用HMDで使われた。そもそもMetaの発想自身、完全なオリジナルというわけではなく、いろいろな企業や研究者が試したものでもある。
コストをかけずに「周囲の安全を確認したい」というニーズを満たすには良いやり方だが、一度「外の様子もわかる」となれば、カラーかつ自然な表示を求めたくなるもの。そこで、多くのHMDがカラーカメラの搭載によるMR機能の搭載へと進んだ。
ただ、カラーで画質が良く、さらに立体感が自然なMR機能となると、ハードルは一気に高くなる。
理由のひとつはもちろんコスト。きちんとした立体感を実現するには、前提条件として、カラーで画質の良いカメラを「目に近い位置に2つ」搭載する必要がある。モノクロで解像度の低いセンサー向けよりもパーツのコストは当然上がる。
だが問題はそれだけではない。2022年秋に発売された「Meta Quest Pro」は、発売当初22万円(1500ドル)と高価だった。カラーカメラを搭載しても問題ない価格であり、実際カラーのパススルー機能を搭載してはいたが、画質も立体感もいまひとつだった。
その理由は「処理能力」にある。ただし、CPUやGPUの性能だけが問題なのではない。それらとカメラ、メモリーをつなぐ経路である「バス」の性能も重要だ。
VR機器とPC、スマートフォンの最大の違いは、つながっているセンサーの数にある。
たとえばPCの場合、カメラはついていてもせいぜいひとつか2つ。スマートフォンは2つから5つくらいに増えるが、どれも常に動いているわけではなく、必要なときに使うだけだ。
だがVR機器の場合、カメラ(センサー)は5つから6つ搭載されている。それがほぼ常に動作しているので、CPU・GPU・センサーとの間では、大量の情報が「流れ続けている」ことになる。経路であるバスが太く、コントロールも容易な形になっていなければ、いくらCPUやGPUが速くても、クオリティの高いMR機能は実現できないのである。
Quest Proに使われていたプロセッサーである「Snapdragon XR2+ Gen 1」では、カラー+3DのMR機能をコントロールするには性能が足りなかった。そのため、モノクロの立体映像に解像度の低い色映像を乗せるような形で再現されていた。
一方Quest 3では「Snapdragon XR2 Gen 2」が採用され、性能が劇的に向上した。最も目立つのはGPU性能の向上なのだが、カメラを複数コントロールするためのバス性能なども上がっている模様だ。そのため、クオリティの高いMR機能が実現できている。
なお、アップルが2024年に発売を予定している「Vision Pro」は、Quest 3よりもさらに高画質で自然なMRが実現されている。カメラは5つ搭載されていて、どれも高画質なものと見られる。Vision Proはカメラとディスプレイのコントロールのため、メインのプロセッサーである「M2」とは別に「R1」という、カメラやディスプレイをコントロールする専用の新プロセッサーが搭載されている。だから高画質なのだが、それは35万ドル(約52万5000円)という高価なハードウェアだからできることでもある。
では、MR機能はどんな可能性を持っているのか? 次回はそこを解説していく。
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