この記事は、小売業界の最前線を伝えるメディア「モダンリテール[日本版]」の記事です。

「ファンフレーション(Funflation)」は、買い物客が耐久消費財を回避する理由を説明するために、小売業者がこぞって使っている最新のバズワードで、この夏にコンサートへの支出や、旅行への繰越需要が記録的な盛り上がりを見せた頃から使われるようになった。

しかし、人々が商品よりも体験のためにお金を使うことを選ぶという考えは決して新しい現象ではなく、各ブランドは体験ベースの経済に便乗する方法を探し続けている。

この新たに広まった用語は、経済が不安定で、家計が縮小するなかで、歌手テイラー・スウィフトの1000ドル(約15万円)を超えるチケットや値上げしたディズニーテーマパーク(Disney theme parks)など、人々が体験のために喜んで支払う費用が驚異的に高くなっていることを指している。この用語の使用は、ベストバイ(Best Buy)のCEOを務めるコリー・バリー氏がフォーチュン(Fortune)のモストパワフルウィメンサミット(Most Powerful Women Summit)で口にしたコメントから火が付いたものだ。

「食品、燃料、宿泊のコストはパンデミック前より20%上昇しているのに対して、賃金は17%しか上昇していないので、貯金を切り崩すことになる。そして、こうした人々は楽しみを優先している。人々は、体験に喜んでお金を支払おうとしている。これがファンフレーションと呼ばれるものだ。このため、人々は高価な電子機器には現在のところ大きな関心を抱いていない」と、バリー氏は述べている。

バリー氏のコメントは、ベストバイがCOVID-19によるロックダウンのあいだに、人々が居住空間やホームオフィスの改修を行ったことで、大幅な前倒し需要が見られた後、2年間にわたって売上が減少しているのを受けたものだ。同社は8月、四半期の国内収益が7.1%減少したのを見て、2024年の収益の予測を、452億ドル(約6兆7800億円)のハイエンドから、445億ドル(約6兆6800億円)に引き下げた。ベストバイや、同様の売上減少に見舞われているほかのブランドにとって、「ファンフレーション」はCEOがコントロールできない状況に対する便利なコンテキストというわけだ。

家の改修より家を出ることに関心を持つ消費者



人々は住居の改修よりも、家を出ることに関心を持っている。後払いプラットフォームのアファーム(Affirm)は、最新の四半期において旅行やチケットの需要が前年比で45%も上昇した。イベントブライト(Eventbrite)の2023年のトレンドレポートでは、調査への回答者の80%はコスト上昇を理由に予算を引き締めているものの、70%近くは2023年のイベントに、前の年と同じ金額を支出することを計画していると回答している。これは、人々がコンサートなどのイベントを好み、それ以外の形式の自由裁量支出を切り捨てていることを示唆する。それと関係して、米国における回答者の54%は、物理的なギフトよりもライブのチケットを贈られたほうが嬉しいと回答していることも判明した。

耐久消費財を生産しているブランドにとって、イベントのトレンドに対応するのは、新規顧客を呼び込む方法のひとつだ。それが、この夏に公開されたグレタ・ガーウィグ氏の大ヒット作が話題となるなか、ブランド各社がバービーピンク(Barbie pink)色の商品を売り込んだり、スウィフト(Swift)ショーを見るためにテーマに合わせた衣装が流行した理由になっている。Z世代やミレニアル世代は特に、X世代よりも2.5品多く、テーマに沿ったコンサート用の衣装を買い求めることが、スタブハブ(StubHub)が9月に実施した調査で判明した。

そのほかのブランドも、ポップアップ店舗やパートナーシップで限定版商品を提供し、「ファンフレーション」の源に直接迫ろうとしている。英国のラグジュアリー百貨店のフランネル(Flannels)はこの夏、オックスフォードストリート(Oxford Street)の「フランネルエックス(Flannels X)」ハブで、歌手ビヨンセによるルネッサンス(Renaissance)ワールドツアーの5日間のロンドン公演で、公式グッズを販売した。ツアーグッズのほかにも、ビヨンセとバルマン(Balmain)がデザインしたクチュールコレクションや、既製品の限定版も数点展示した。グッズ販売のスポットは10日間開設されたため、チケットを持たないファンでも商品を購入し、ルネッサンス時代に関するマルチメディア展示を見ることができた。

買い物客が買い物のためにお金を貯めることができるデジタルウォレットシステムのアクルーセービングス(Accrue Savings)の創業者兼CEOのマイケル・ハーシュフィールド氏は、イベントと提携することができるブランドは、オーディエンスを拡大して売上を伸ばす「非常に大きなチャンス」があると語る。マテル(Mattel)のカウントによれば、100以上のブランドがこの夏、バービーとのブランドコラボレーションを行った。今年、バービーとホットウィール(Hot Wheels)のブランドアパレルを継続的に出しているギャップ(Gap)とマテルのパートナーシップも、その一例だ。

ハーシュフィールド氏は、「消費者は体験を望み、若い人々もまた体験を望んでいる。これは小売企業がスターや、アスリート、ミュージシャンとの関係を築くことで、実現可能なのだ。私たちは常にパートナーに、ロイヤルティと関係を見つける必要があると伝えている」と述べている。

体験を重視する小売企業



ブランド自身が体験となる機会もある。実験的なポップアップ店舗、1回きりのイベント、インタラクティブなショールームがその例だ。

「これまで小売の役割は、商品を入手する場所だった。現在商品を入手する場所は、消費者の手のなか、ポケットのなかだ」と、語るのは、体験型玩具屋のキャンプ(Camp)の共同創設者であるベン・コーフマン氏だ。「オンラインで買い物をするのではなく、店舗を訪れるのには、理由が必要だ。その理由は体験だ」。キャンプは、コーフマン氏がまだバズフィード(BuzzFeed)のCMOだった2018年に創設され、音楽、パフォーマンス、楽器の演奏、そしてブランドグッズなど、テーマ性のある没入型の体験を店舗で提供している。現在のキャンプはリトルマーメイド(The Little Mermaid)、ミラベルと魔法だらけの家(Encanto)、ブルーイ(Bluey)など、子ども向けのファンダムをテーマにしている。

商品以外のサービスを行おうとしているブランドの最近の例として、アロヨガ(Alo Yoga)やブオリ(Vuori)などは、フィットネスクラスで買い物客を引きつけている。オンラインのベビーレジストリと子育てプラットフォームのベビーリスト(Babylist)は、インスタ映えするショールームをビバリーヒルズに開設し、買い物客が模型の車にカーシートを取り付けたり、大人サイズのベビービョルン(Baby Bjorn)に座ったりする体験ができる。アワープレイス(Our Place)はベニスの旗艦店で料理教室をはじめ、アルド(Aldo)は、自社のフットウェア技術を広めるため、空気でふくらませる「ピローウォーク(Pillow Walk)」などのポップアップ活動を試みている。

アクルーセービングスのハーシュフィールド氏は、「体験経済に便乗するため、ポップアップ店舗を提供する小売企業が増えると予測している」と語る。

「ファンフレーション」という用語は、マスコミを喜ばせるにエグゼクティブたちのあいだで人気になりつつあるバズワードだが、コーフマン氏は、それがオーガニックに使用された例はまだ見たことがないという。しかし、eコマースとモバイルショッピングの時代には、それも驚きに当たらないと同氏は述べる。人々はやるべきことを探しており、そのために喜んでお金を払うからだ。

「キャンプは、まさにその穴を埋めるために創設された。人々は家から出たがっているし、何かをしたがっている」と、同氏は述べている。

[原文: How retail brands are trying to cash in on ‘funflation’]

Melissa Daniels(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Image via Camp