FOMCの経済予測、どう読み解く?(写真:新華社/アフロ)

「金利」は、近年の経済を読み解くキーワードです。その先行きを読むためのカギは、アメリカの中央銀行であるFRB(Federal Reserve Board、連邦準備制度理事会)が年8回行うFOMC(Federal Open Market Committee、連邦公開市場委員会)の動向です。その基本的な読み解き方を金利為替コメンテーターで、金融翻訳家の工藤浩義氏による新著『FRBの仕組みと経済への影響がわかる本 FOMC経済見通しと議長記者会見の読み解き方』より抜粋するかたちで解説します。

PCEインフレーションの予想を読む

下図は、2023年3月22日に公表されたFOMC経済見通し(Summary of Economic Projections、通称SEP)に「経済予測の中央値、中央傾向、および範囲」として示された経済指標の中で、「PCE(個人消費支出)」について書かれたものと、そこから変動幅の大きい食品とエネルギーに関するデータを除いた「コアPCE」に関するグラフです。

(※外部配信先では図表などの画像を全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください)


(本書より引用)

PCEは、物価上昇率の判断にFRBが注目している指標です。

データは、年間の物価上昇率を表します。当該年の第4四半期を基準に、前年の第4四半期からの1年間に、どれだけ指数が変化したかをパーセンテージで表したものです。以下、「コアPCE」に注目して、FOMC参加者が現時点で持っているインフレ感を把握することが、なぜ重要なのかを説明していきます。

この図の下図を見ればわかるように、2020年から2021年にかけてコアPCEインフレ率は上昇し、2021年から2022年にかけては横ばいで推移しています。

2023年、2024年、2025年は予測値です。中央付近の横ラインが「予測の中央値」、アミかけの枠は「予測の中央傾向」(最高値から3つ、最低値から3つを除いたもの)、上下のT字は「予測の幅」を示しています。

FOMC参加者による回答の中央値で見ると、毎年切り下がっています。すなわち、今後徐々に景気後退が進むと見込んでいるわけですが、景気が現状とそれほど変わらないか、逆に景気回復方向に動く可能性もあり、その場合は予測値よりも上振れすることになります。

もちろん、予想以上に景気悪化が進む可能性もゼロではありません。その場合は下振れです。しかし、予測が上か下かといえば、昨年から横ばいで推移した2022年までの実績値からは、上に行く(予測値ほどインフレが収まらない)可能性のほうが高いと考えられるはずです。

つまり、予測の中央値から上方に参加者の思惑が厚くなっているということです。これが、仮に2021年から2022年にかけてインフレ率が急低下していれば、それほど上方に厚くなるとはいえないでしょう。

インフレ感が異なれば、当然、策定する金融政策も異なってくると考えられます。このように、同じ予測値でも、過去の動きから現時点のFOMC参加者の思惑がどこにあるのかを知っておくことは重要です。実際に、こうしたFOMC参加者のインフレに対する予測バイアスをSEPの図から確認することができます。

PCEインフレーションの誤差を読み解く

次の図は、PCEインフレ率の予想範囲として予測の中央値とともに、「予測結果がこの範囲内に入る可能性が70%である」として示される、70%信頼区間(confidence interval)の影の部分が示されたものです。


(本書より引用)


そして、実際のFOMC参加者の予測バイアスは、同じ図の下部に「FOMC参加者による、各自の経済予測を取り巻く不確実性とリスクの評価」として示されています。

上の2つがPCEインフレ率、下の2つがコアPCEインフレ率です。表の見方は、上段左の「PCEインフレに対する不確実性」(Uncertaintyabout PCE inflation)に関しては、点線で前回2022年12月時点での回答が示されています。

前回は、回答者19名の全員が「高まっている」(Higher)と答えています(右数字が人数)。実線部分が今回の回答ですが、回答者の総数18名(注:前回から理事が辞任して回答者1人減)のうち、17名が「高まっている」と答え、1名が「概ね同じ」(Broadly similar)と答えています。

点線で示された2022年12月時点の予測(December projections)に比べると、全員が「高まっている」と答えたのではなく、1名だけは「概ね同じ」と答えて、その他全員が「高まっている」と答えています。

したがって、全体として12月時点よりは弱まっているものの、PCE、コアPCEのどちらで見ても不確実性(uncertainty)は高く、インフレリスクは上振れ(Weighted to upside)と見ていることがわかります。

これは前ページ図の説明で述べたように、過去の経緯から想定される「予測の中央値から上方に参加者の思惑が厚くなっている」ことと一致します。

FFレートはコアPCEインフレ率と関連付けて見る

FOMC参加者が持っているPCEインフレ率の予測バイアスがわかったら、政策金利の予測も、こうしたバイアスを加味して見ます。

政策金利であるFFレートの予測も、PCEインフレ率と同様にSEPに示されています。


(本書より引用)

PCEインフレ率で見た図と同様に、予測の中央値と「予測結果がこの範囲内に入る可能性が70%である」として示される、70%信頼区間が示されています。

ただし、FFレートの場合はPCEインフレ率と異なり、“Actual"と書かれている過去の実績を見る必要はありません。今後の予測に影響しないからです。

むしろ過去の数値を確認するのであれば、SEPに記載されている「変数」である、「実質GDP成長率」、「失業率」、「コアPCEインフレ率」に焦点を当てるべきです。

この中で、最も影響が端的に表れるのが「コアPCEインフレ率」です。FFレートの予測の中央値は、先に見た「コアPCEインフレ率」の予測の中央値に関連付けて見るべきです。

なぜなら、すでに述べたように、「物価の安定」と「雇用の最大化」という「デュアル・マンデートを達成するために必要な金融政策」を前提にPCEインフレ率の予測が作成されており、「デュアル・マンデートを達成するために必要な金融政策」が予測されたFFレートとなっているはずだからです。

そのうえで、コアPCEインフレ率については、「予測の中央値から上方に参加者の思惑が厚くなっている」ので、FFレートについても中央値をそのまま見るのではなく、「70%信頼区間で中央値よりも上方に振れる可能性が高い」と見るべきです。

PCEと異なり、FFレートには「FOMC参加者自身による不確実性とリスクの評価」はないので、このような見方が重要です。

金利の根っこはFOMCが決める


米国の政策金利は、FF(Federal Funds)レートです。FFレートとは、FRS(連邦準備制度)に加盟する銀行が連邦準備銀行に預け入れる資金が不足しているときに他銀行に無担保で資金を借りる際に適用される金利のことです。

このFFレートの変動が、商業銀行の住宅ローン金利や預金金利に影響を与え、債券市場では債券の取引価格、すなわち利回りを決める重要な要因の1つです。

このように、FFレートは米国内の金融市場で各種の金利水準決定に大きな影響を与えます。さらに米国内にとどまらず世界中の中央銀行や資金取引に影響を与えることになるため、米国内・国外を問わずに多くの関係者から注目される金利になっています。

このため、FFレートを決定付けるFOMC会合と、その結果が、開催前から注目され多くのメディアを賑わすことになるのです。

(工藤 浩義 : 金利為替市場コメンテーター、金融翻訳家)