東京五輪の野球日本代表【写真:Getty Images】

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「野球と五輪の不思議な関係」第3回 ロサンゼルス大会後の五輪野球を考える

 28年ロサンゼルス五輪の追加競技に野球・ソフトボールが決まった。野球と五輪の付き合いは意外と古く、100年以上前の1912年ストックホルム大会から。公開競技、正式競技昇格と除外を経て、今回は追加競技として復活した。追加競技とは? 大谷翔平は参加するの? 将来的に野球は五輪で見られるの? 野球と五輪の不思議な関係から考える。全3回の第3回。野球の生き残りに求められる変革と、その課題。(文=荻島 弘一)

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 ロサンゼルス大会後の五輪野球を考えるとき、忘れてはならないのは近年のIOCの競技への考え方だ。世界的な普及度、テレビ視聴率などの人気、男女平等などとともに、目立つのは「少人数」と「短時間」。このキーワードが五輪生き残りのカギになる。

 ロス大会ではラクロスとクリケットも「復活」する。フラッグフットボールも過去にアメリカンフットボールが公開競技として行われているから復活組といえる。ただし、同じ復活でも、野球以外の3競技は大きく形を変えての再登場。いずれも「五輪仕様」になった。

 最も分かりやすいのがフラッグフットボール。1932年ロス大会で公開競技として行われたのは大学の東西対抗戦だった。アメリカンフットボールが普及のために考案したのが非接触型でタックルの代わりに腰のフラッグを取り合うフラッグフットボール。国際アメリカンフットボール連盟(IFAF)が統括し、世界選手権も行われている。

 NFLが今年からプロボウル(オールスター戦)で実施するなど、アメリカンフットボールとの関係性も深い。従来のアメリカンフットボールなら開催期間や競技人数などで五輪入りは不可能だっただろうが、1チーム5人で競技時間も短縮して五輪に戻った。

 ラクロスはロス五輪のために変わった。男女で異なっていた人数や試合時間を統一し、さらに21年には10人から6人にして、試合時間も短縮した「SIXES」を導入。昨年の非五輪競技によるワールドゲームズでは初採用され、日本男子が3位に入った。

 攻防が激しく入れ替わり、よりスピーディーになってテレビ「映え」も期待できる。とはいえ、120年前に正式競技として行われていた競技とは別物。ワールドラクロスが「21世紀の五輪の枠組み」に合わせ、五輪入りのために開発したのが6人制だ。

復活するクリケットも競技システムを大幅に変更

 クリケットも「途中でティータイムがある」ほど試合時間が長く、五輪での実施は不可能だと思われてきた。1900年パリ大会の時も1試合が2日がかりだった。大きな変革は2003年に英国で始まったT20という試合形式。試合時間は2時間半程度になった。

 長い間、五輪には消極的だった国際クリケット評議会(ICC)は、21年に五輪入りを目指すことを表明。大幅に短縮された試合時間と競技人口3億人、ファン25憶人という世界的な広がりを武器に追加競技入りした。

 大きく形を変えながら五輪に復活した他の団体競技に対し、野球は公開競技として行われていた100年前から基本的に同じ。28年大会のルールは発表されていないが、7イニング制が採用されても9人制は変わらないだろう。

 IOCには五輪競技になるための暗黙の了解があるように思えてならない。団体競技の人数はサッカーやホッケーの11人まで、時間は長くてもマラソン以下。それよりも多人数で長時間かかる競技は五輪で生き残れない。

 野球は9人制だが、多くのベンチ入りメンバーが必要。過去の五輪では登録メンバーは24人だった。11人制のホッケーは16人、サッカーも新型コロナの影響で特例として東京大会は22人だったが、基本は18人が登録される。同じ9人制のソフトボールも15人。負担が大きい投手が多く必要とはいえ、野球だけがとびぬけて人数が多い。

 試合時間も東京五輪の日本代表戦はいずれも3時間超。4時間近い試合もあった。テレビ放送の問題などでパリ大会で除外される陸上の50キロ競歩と同程度。世界野球ソフトボール連盟(WBSC)は7イニング制やピッチクロック導入などで時間短縮をはかっているものの、マラソンより短時間にするのは難しい。

 15人制のラグビーは7人制で五輪入り。8時間を超す競技だったトライアスロンは五輪のために大幅に距離を短縮し、レース時間を2時間強にした。多くの競技が、変革している。何よりも、IOC委員は「五輪のために僕たち変わりました」という姿勢が好物。五輪競技として安泰な一部の競技を除けば、変革こそが定着するカギになる。

野球界が普及を進める「ベースボール5」に活路か

 もちろん、野球界にも動きはある。WBSCは18年に「ベースボール5」という5人制野球を発表。男女混合の5イニング制で、ボール1つでできる。試合時間も20分程度。アフリカなど、これまで野球、ソフトが盛んでなかった地域での普及も積極的に行っている。

「少人数」「時短」「男女平等」で、専用の施設や用具も不要。IOCが求める要素をすべて満たした競技だ。26年にセネガル・ダカールで行われるユース五輪での実施も決定。将来的な五輪競技定着を目指してスタートを切ることになる。

 野球やソフトボールを見慣れた日本人にも、小学生の時の遊びを思い出せばイメージしやすい。これがWBSCが出した五輪への生き残り策。仮に五輪競技となれば本格的に取り組む選手が増える可能性もあるし、日の丸を背負って手打ち野球をする大谷翔平も見てみたい気はする(投手はいないので二刀流はできないし、年齢的に難しいだろうが)。野球と五輪の関係には、まだまだ続きがありそうだ。

(荻島 弘一 / Hirokazu Ogishima)

荻島 弘一
1960年生まれ。大学卒業後、日刊スポーツ新聞社に入社。スポーツ部記者としてサッカーや水泳、柔道など五輪競技を担当。同部デスク、出版社編集長を経て、06年から編集委員として現場に復帰する。山下・斉藤時代の柔道から五輪新競技のブレイキンまで、昭和、平成、令和と長年に渡って幅広くスポーツの現場を取材した。