人間は無意識のうちに複数の感覚を重ね合わせており、実際に「オレンジ色の飲み物からオレンジの風味がする」「温かさから赤色やオレンジ色などの暖色を連想する」といった経験がある人もいるはず。このように複数の知覚が互いに影響を及ぼし合うことはクロスモーダル現象と呼ばれており、新たな研究では「嗅いでいる匂い」が色の知覚に影響を及ぼすことが示されました。

Frontiers | Odors modulate color appearance

https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fpsyg.2023.1175703/full



Research reveals how smell can influence our perception of colour - Articles - School of Life Sciences - University of Liverpool

https://www.liverpool.ac.uk/life-sciences/news/articles/research-reveals-how-smell-can-influence-our-perception-of-colour

Our sense of smell changes the colors we see, show scientists - Science & research news | Frontiers

https://blog.frontiersin.org/2023/10/06/frontiers-psychology-cross-modulation-sense-of-smell-color-vision/

What You Smell Can Change The Way You Perceive Color : ScienceAlert

https://www.sciencealert.com/what-you-smell-can-change-the-way-you-perceive-color

嗅覚・味覚・視覚・聴覚・触覚といった人間の感覚はそれぞれが完全に独立しているわけではなく、実際にはある程度感覚の「クロスオーバー」が起きています。過去の研究では、被験者に特定の匂いを嗅がせながらコンピューターの画面上を移動する点を見せ、その点がどれほどの速さで移動すると感じるのかを調査しました。その結果、「レモンの香り」を嗅いだ被験者は点がより遅く動いているように見え、逆に「バニラの香り」を嗅ぐと点の動きがより速く見えることが判明しています。

また、イギリスのリヴァプール・ジョン・ムーア大学で上級講師を務めるリャン・ワード氏らが2021年に行った研究では、「キャラメルの香り」がこげ茶色と黄色、「コーヒーの香り」が焦げ茶色と赤色、「サクランボの香り」が桃色・赤色・紫色、「ペパーミントの香り」が緑色と青色、「レモンの香り」が黄色・緑色・ピンク色に関連していることが示されました。

今回ワード氏らの研究チームは、人間の「嗅覚」が色の感覚に与える影響について調べる新たな実験を行いました。実験には、消臭剤や香水を身につけておらず、色覚や嗅覚に障害がない20〜57歳の男女24人が参加しました。

被験者らは不要な感覚刺激がない隔離室でスクリーンの前に座り、空気清浄機で4分間消臭が行われた後に、「キャラメル・コーヒー・サクランボ・ペパーミント・レモン・無臭」からランダムに選択された香りが超音波ディフューザーで室内に放出されました。



その後、ランダムな色が付いた正方形がコンピューター画面上に表示され、被験者に「スライダーを動かしてこの正方形の色を調整し、最終的にニュートラルな灰色にする」というタスクが与えられました。スライダーは「黄色から青色」に変化するものと「緑色から赤色」に変化するものの2つがあり、被験者は匂いを嗅がされた状態でそれぞれのスライダーを動かし、正方形を灰色に戻しました。なお、被験者には「特定の匂いを放出する」と知らされることはなく、ただコンピューター画面のタスクを実行するように伝えられただけだったとのこと。

実験の結果、被験者の色の感覚は「その時嗅いでいる匂い」によって左右されることが判明しました。5つの香りのうちペパーミントを除く4つの香りを嗅いだ被験者は、その香りから連想されることが示されている色に偏った灰色を作り出す可能性が高かったとのこと。

たとえば、コーヒーの香りを嗅いだ被験者はより赤茶色っぽい灰色をニュートラルな灰色だと認識しやすくなり、キャラメルの香りを嗅ぐとより黄色っぽい灰色をニュートラルな灰色だと認識する傾向が強まったと報告されています。

ワード氏は、「実験の結果、レモン・キャラメル・サクランボ・コーヒーの香りについて、灰色の知覚が予想されるクロスモーダルな対応に偏る傾向が見られました。この『overcompensation(過補償)』は、感覚入力の処理におけるクロスモーダルな連想の役割が、異なる感覚からの情報(ここでは匂いと色)の知覚に影響するほど強いことを示唆しています」と述べました。