記事のポイント

広告主はエージェンシーにスリムで専門的なアプローチを求めており、インハウス化のトレンドがありながらもエージェンシーへの期待値は高い。

カールスバーグは変革を求め、全体のメディア予算管理をデジタル専門エージェンシーに委託し、柔軟かつ選択的なアプローチへ移行。

エージェンシーはプログラマティック広告のアプローチをパフォーマンス重視にシフトし、クライアントのブランド広告への投資を超える効果を提供することが求められる。


エージェンシーが(またしても)自己改革に取り組んでいる。

しかし、今回はこれまでとは違う。多くのエージェンシーのトップにとって、それはこの上なく現実的な問題となっている。彼らの多くにとって、改革はもはや好みの問題ではなく、生命線だ。適応できない者は危険な賭けをしているのと同じで、大口顧客を失うリスクがある。一夜にしてそうなることはないかもしれないが、迫り来る脅威には違いない。

広告主は、変化を望むと口にするだけでなく、実際にそれを要求することで、緊張の度合いを高めている。彼らが言うところの「未来のエージェンシー」を形成するために、具体的な措置を講じているのだ。

とはいえ、そのような進歩的な広告主は、今のところ一握りにすぎない。むしろ、最大手のエージェンシーグループの下に、グローバルに統合されたブリーフが送られてくるのは、年に1、2回程度だろうというのが、メディアアドバイザリー企業メディアセンス(MediaSense)の戦略担当マネージングパートナー、ライアン・カンギサー氏の推測だ。しかし、今後2、3年で、そのようなブリーフの提出は格段に増えるはずだという。

「エージェンシーへの期待はかつてないほど高い」



初期の兆候を見るかぎり、その見立てはおそらく正しい。

コカ・コーラ(Coca-Cola)は2021年に、クリエイティブ、メディア、データ業務の大半をWPPに統合することで前例を作った。ネスレ(Nestle)も今年、小規模ながらヨーロッパでこれに続いた。このような大きな動きだけでなく、一部のマーケティング調達担当幹部は、報酬という厄介な問題に、徐々にではあるが確実に取り組んでおり、一部のエージェンシーに対して、明確な線引きを避けつつも、積極的な支払い条件について再考するよう促している。

加えて、エージェンシーの側も、以前に増して合理的で統合されたアプローチをとるようになっている。これらすべての要因を合わせると、広告主が今や、単にコスト削減を追求するだけでなく、エージェンシーへの期待をより強く主張できる立場にあることは明らかだ。

ダノン(Danone)のメディアおよび統合ブランドコミュニケーション担当グローバルヘッド・バイスプレジデントのキャサリン・ロティエ氏は、「ダノンでは、ブランドの統合されたコミュニケーションプランニングの実現に必要な戦略的管理を提供し、また、あらゆる種類のコミュニケーションの専門家を集める手助けをするという点で、メディアAOR(指定広告代理店)に対する我々の期待はかつてないほど高まっている」と話す。

「しかし一方で、データおよび分析におけるエージェンシーの人材危機は、より多くの専門知識を社内に戻すことを我々に促し、またリテールメディアの成長は、サプライ、eコマース、データ、メディアおよびコンテンツの分野にまたがって、より機敏に動ける専門エージェンシーと関わりをもつことを我々に迫っている」。

インハウス化のトレンドが意味するものは



これは単なるうわさのレベルではなく、この変化の波を裏付ける具体的な証拠がある。

たとえば、インハウス化のトレンドだ。それはもはや、広告主とエージェンシーの戦いの場とはみなされていない。むしろ、両者がより緊密に協力する機会と捉えられるようになりつつある。インハウス化とはすなわち、広告主がマーケティング活動をよりコントロールできるようになることであり、必ずしもエージェンシーにとってマイナスにはなるとは限らない。

米DIGIDAYが先ごろ、ベビーリスト(Babylist)、トゥデイティックスグループ(TodayTix Group)、およびリキッドデス(Liquid Death)のマーケターに聞いた話からも、そのことが明らかに見てとれた。ただし、彼らの言葉を鵜呑みにしてはいけないことを、最近の調査結果が物語っている。

メディアセンスと世界広告主連盟(WFA)が共同で実施した調査によると、広告費が500億ドル(約7兆4770億円)を超える多国籍企業の回答者70人のうち、4分の1近く(24%)が、現在のエージェンシーモデルは将来に向けた準備が整っていると考えている。彼らの望みは、エージェンシーがより迅速に動いてくれることだ。実際、回答者の実に45%が、エージェンシーが自社のニーズに応える方法について、より柔軟な態勢を積極的に模索している。

しかし彼らは、自分たちが望むレベルの柔軟性を達成することは、多数の小規模エージェンシーがさまざまな市場に散在する現状では難しいと理解している。そのため、調査に回答したマーケターの3分の1以上(37%)が簡素化に熱心であり、より少数の緊密に統合されたパートナーを通じて業務を合理化することを目指している。

変化のためには経済的な意味が必要



カールスバーグ(Carlsberg)が今年、世界的なメディア予算の取り扱いを任せる先として、ウェーブメーカーグローバル(Wavemaker Global)やゼニス(Zenith)ではなく、デジタルの専門知識で知られるアイプロスペクト(iProspect)を選んだとき、キーワードは間違いなく柔軟性だった。カールスバーグのマーケターは、エージェンシーに対するアプローチを、不必要かもしれないサービスも含めてすべてを購入するビュッフェスタイルから、購入するものに関してコントロールがきく、より選択的なアラカルトモデルに移行することを決定したわけだ。

「(アイプロスペクトと)契約を結ぶ決め手になったのは、一貫性だ」と、カールスバーググループでデジタルマーケティングおよびメディア担当のグローバルディレクターを務めるヘナ・マートソラ氏は、当時DIGIDAYに語っている。「戦略的思考という点で、エージェンシーの中央レベルに一貫性があった。彼らは、我々の既存のブランド構築の枠組みを、実行可能なメディアアプローチおよびエグゼキューションに変えられることを示してみせた。それは中央のチームだけでなく、地域市場でも明らかだった」。

しかし、そのような変革は、エージェンシーにとって経済的に意味がなければ起こり得ないことを忘れてはならない。現在のエージェンシーは、広告主がこうした変化のために相応の対価を支払うべき理由を、説得力をもって主張する上で、これまでになく有利な立場にある。結局のところ、エージェンシーはCMOたちが長年求め続けてきたことを、少なくとも一定程度は達成したからだ。彼らはよりスリムに、より専門的に、より迅速になった。CMOたちは目下、これらの変化が、エージェンシーとの関わりを深める理由として十分なものかどうかを慎重に見極める必要がある。

メディアマネジメント企業イービクイティ(Ebiquity)のCEOであるニック・ウォーターズ氏は、「多くのエージェンシーがクライアントに向かって、『エージェンシーにどのようにオーガナイズしてほしいか教えてほしい』と尋ねる失敗を犯している。クライアントが本当に知りたいのは、エージェンシーがブリーフに基づいて、自分たちのニーズをどれだけ理解しているかということなのに」と話す。「我々がこの夏に関わった大規模なピッチから、それが明確に見てとれた」。

事業全体の冗長性や重複を一掃



今後数カ月のあいだに何が起ころうと、ひとつ確かなことは、この変化していく状況において、エージェンシーが自分たちの役割の正当性を主張し、擁護し続けるだろうということだ。特にメディアエージェンシーにその傾向が強く、大手エージェンシーグループは広告主により包括的な提案をするために、従来からある部分を削り続けている。そのような提案とは多くの場合、クリエイティブとメディアをより緊密に組み合わせようとするものだ。

たとえば、IPGの動きがそうだ。IPGは、パフォーマンス部門であるキネッソ(Kinesso)、デジタル中心のリプライズ(Reprise)、マーテクを専門とするマターカインド(Matterkind)というブランド(とその全従業員6000人)を、キネッソ(KINESSO)というひとつの部門(と損益計算書)に統合した。

構造的な変化だけでなく、エージェンシーは他の様々な面でも進化している。注目すべき変化のひとつは、プログラマティック広告へのアプローチだ。広告主が購入できるものだけに注力するのではなく、広告主が購入すべきものにより重点を置くようになっている。投資額でブランド広告を上回ると予想されることから、この変化は、エージェンシーがよりパフォーマンス重視となる傾向の高まりと密接に結びついている。場合によっては、エージェンシーは機会があれば、クライアントに直接メディアを販売するという大胆な行動に出ることさえある。

「エージェンシーは、事業全体の冗長性や重複を一掃したことで、これまで以上に統合された形で事業を展開しやすくなっている」とカンギサー氏は言う。「まだ完全にそこに到達したとまではいえないが、エージェンシーは、マーケターのニーズに適切に対応する能力に関して、これまでよりも自信が持てる状況になっている」。

[原文:‘Expectations have never been higher’: Advertisers and agencies are navigating closer ties amid tensions]

Seb Joseph(翻訳:高橋朋子/ガリレオ、編集:分島翔平)