イーハンは空飛ぶクルマの実用化競争で世界の先頭を走る。写真は中国の航空安全当局から型式証明を取得した「EH216-S」(同社ウェブサイトより)

中国製の「空飛ぶクルマ」が、実用化に向け大きな一歩を踏み出した。

空飛ぶクルマの開発を手がける億航智能(イーハン)は10月13日、同社が開発中の電動垂直離着陸機(eVTOL)の「EH216-S」が、中国民用航空局(民航局)から「型式証明」を取得したと発表。これにより、イーハンは(国家レベルの)航空安全当局から型式証明を取得した世界初のeVTOLメーカーとなった。

型式証明の取得は、航空安全当局が機体の安全性にお墨付きを与える「耐空証明」の取得プロセスにおいて、最も困難なステップとされる。多岐にわたる試験と評価、それらにかかる多額の費用と長い時間を要するうえ、失敗すれば巨額の損失が避けられない。

審査過程の9割超をクリア

空飛ぶクルマの商用運行の実現は、耐空証明の取得が大前提だ。メーカーは型式証明を取得した後、機体の量産段階で設計品質を確保できることを証明して「生産許可証」を取得し、最終段階の耐空証明の審査に進むことになる。

「型式証明の取得に必要な作業量は、耐空証明取得までの総作業量の9割超を占める。生産許可証の取得にかかる時間は、これまでに費やした時間よりはるかに短い」。イーハンの董事長(会長に相当)を務める胡華智氏は、財新記者の取材に対して楽観的な見通しを語った。

EH216-Sは完全自動操縦の2人乗りeVTOLで、16基のプロペラを電動モーターで駆動して飛行する。その外観は巨大なドローンのようであり、伝統的な航空機とは大きく違う。


中国民航局は空飛ぶクルマの早期実用化を積極的にサポートしている。写真はイーハンと民航局が開催した型式証明の授与式典(同社ウェブサイトより)

「生産許可証の取得の難易度は、機体製造の複雑さの度合いによって決まる。空飛ぶクルマの構造は伝統的な航空機に比べて単純であり、(イーハンの)許可取得にそれほど時間はかからないだろう」。ある中国のeVTOLメーカーの創業者は、財新記者の取材に対してそうコメントした。

民航局のサポートの思惑

空飛ぶクルマは航空機産業における「新種」だけに、機体の安全性の審査プロセスにおいてジェットエンジンやレシプロエンジンを用いた伝統的な航空機の基準をそのまま適用するのは難しい。

業界の常識で考えれば、イーハンが3年に満たない時間でEH216-Sの型式証明を取得したのは異例のスピードだ。言い換えれば、イーハンが世界に先駆けて型式証明を取得できた裏には、民航局の積極的なサポートがあったと考えられる。


本記事は「財新」の提供記事です

中国の航空機産業は、伝統的な航空機においては欧米諸国に立ち遅れている。それだけに、民航局は空飛ぶクルマの実用化で中国が世界をリードできるよう後押しし、耐空証明の(世界レベルの)審査基準づくりにおいて主導権を確保したいとの思惑があるとみられている。

(財新記者:方祖望)
※原文の配信は10月13日

(財新 Biz&Tech)