日本代表ベストメンバー招集がもたらす停滞感とリスク「選手ファースト」と言えるのか?
カナダ戦(10月13日)、チュニジア戦(10月17日)を戦う日本代表メンバー26人が、以下のように発表された。
GK
前川黛也(ヴィッセル神戸)、大迫敬介(サンフレッチェ広島)、鈴木彩艶(シント・トロイデン)
DF
谷口彰悟(アル・ラーヤン)、板倉滉(ボルシアMG)、中山雄太(ハダースフィールド)、町田浩樹(ユニオン・サン・ジロワーズ)、毎熊晟矢(セレッソ大阪)、伊藤洋輝(シュツットガルト)、冨安健洋(アーセナル)、橋岡大樹(シント・トロイデン)、菅原由勢(AZ)
MF/FW
遠藤航(リバプール)、伊東純也(スタッド・ランス)、浅野拓磨(ボーフム)、南野拓実(モナコ)、古橋亨梧(セルティック)、守田英正(スポルティング)、三笘薫(ブライトン)、前田大然(セルティック)、旗手怜央(セルティック)、伊藤敦樹(浦和レッズ)、上田綺世(フェイエノールト)、田中碧(デュッセルドルフ)、中村敬斗(スタッド・ランス)、久保建英(レアル・ソシエダ)
カナダ戦、チュニジア戦の日本代表メンバーを発表する森保一監督
ドイツ戦(9月9日)、トルコ戦(9月12日)のメンバーから外れた選手はシュミット・ダニエル、中村航輔、鎌田大地、堂安律、森下龍矢で、加わったメンバーは前川、鈴木、南野、旗手、中山となる。鎌田、堂安はコンディション不良とのこと。加わった選手の顔ぶれにも特に驚きはない。
森保一監督は先月の代表戦に続き、今回もベストメンバーと思しき選手を招集してしまった。11月に行なわれる2026年W杯アジア2次予選にも、ほぼ同じメンバーを揃えるのだろう。来年1月に行なわれるアジアカップしかりである。
毎度ベストメンバーで臨むこの強化策には、異議ありと言わざるを得ない。森保監督は今回のメンバー発表会見でも、何度か口にしたが、代表チームは勝つことが一番大事だと常々言っている。勝利にこだわる。勝利することがサッカーを応援してくれるファンの思いに報いることになる、と。
そうだろうか。日本代表を応援するファンとひと口に言っても、層はさまざまだ。確かに、昨日ファンになったばかりの人、まだサッカーのコンセプトをあまり理解していない人は、勝てば喜び、負ければ悲しむ。シンプルに反応するかもしれないが、ファンの年季が長くなると反応の仕方は複雑になる。
【過密日程のなか日本に呼ぶ意味は?】
これから行なわれようとする試合のグレードは見えている。カナダ戦、チュニジア戦にどんなメンバーで向かうことが、2026年W杯でベスト8入りを目指そうとしたとき効果的か。4年に1度のサイクルを何度か経験した人は、いま現在、日本代表は何コーナーを回っているか、ペース配分について敏感になる。目の前の試合はどれほど重要か。勝利追求とテストのバランスについて考えようとする。
視聴率アップを狙うテレビ局が「絶対に負けられない試合だ」と煽っても、年季の入ったファンは簡単に乗ってこない。彼らはテレビ局や番組をスポンサードする企業が、ベストメンバーを好む体質であることを理解している。三笘や久保といった人気選手を呼んでくださいとスポンサー企業が要請しているのではないかと、半分、疑ってかかる人も多いだろう。
長年、日本代表を応援しているファンは世界情勢にも詳しくなる。チャンピオンズリーグ(CL)、ヨーロッパリーグ(EL)を戦う選手の数は、今回、招集されたメンバーの中に10人ほどいる。鎌田、堂安を加えれば12人だ。彼らがどれほどの過密日程で選手生活を送っているか、それを理解している人もかなり増えている。
また、サッカー観戦などで欧州に旅行したことがある人なら、時差がどれほどキツいかも知っている。日本が欧州からどれほど離れているか。「極東」と呼ばれる理由は、地球儀をぐるっと回せば一目瞭然となる。
欧州で活躍する日本代表選手は、今回26人中22人だ。85%を占める。フィールドプレーヤーの先発が100%、欧州組で占められそうなことが予想できる。だが、選手起用にはバランス感覚が不可欠であると感じるファンは増えている。1999年、フィリピン相手の五輪予選の消化試合に小野伸二を招集して、小野がその試合で重傷を負い、その後長期離脱を余儀なくされた過去を知る人ならなおさらだ。
選手こそが日本サッカーの宝。「選手ファースト」の見地に立ってメンバーを選ぶべき。森保監督の勝ちにこだわる姿勢、その結果としてのベストメンバーの選択は、日本サッカー界のためというより、自分ファーストに起因する保身に思えて仕方がない。その勝利至上主義は歪んで見える。
【W杯予選アジア枠増、CL・EL出場者急増の現実】
2006年W杯予選のアジア枠は8.5だ。4.5だった従来からほぼ倍増したことになる。アジア予選で敗退する可能性は限りなくゼロに近い。CLとEL出場者の急増、すなわち過密日程で連戦する欧州組の増加とともに、日本サッカーが初めて経験することになるこの現実と、森保監督はどう向き合うか。続投を機に第1期と何を変えるか目を凝らしてきたが、残念ながら何も変わっていない。
口をついて出るのは目先の勝ちにこだわる姿勢ばかり。勝つためにはバリエーションのある戦い方が必要だと、5バックで戦うことを、この日の会見でも正当化した。5バックになりやすい3バックで戦う監督を、自分を守るための戦術、保身以外の何ものでもないと一刀両断したのはイビチャ・オシムだったが、森保監督はそれを、賢くしたたかな戦い方だと肯定する。サッカー監督には勝利と同時に追求すべきものがある。本質的で持続的な強化である。そのことを森保監督は理解しているだろうか。あるいは全く重要視していない可能性さえある。
ひたすら勝ちにこだわるだけでオッケーな競技もあるかもしれない。一戦必勝の甲子園を今から戦おうとしている監督なら、わかる気はする。それを強く否定する気にはならない。だが、2026年に本番を迎える日本代表サッカーは違う。毎度招集される欧州組の選手たちは、何よりその事実に気づいているはずだ。自身が所属するクラブの監督にあって、森保監督に足りないものがある、と。
欧州での過密日程で戦いながら、重要度が低い代表の試合にも」毎回招集される選手が気の毒に見える。一刻も早く「選手ファースト」に転じないと、2026年W杯に幸は訪れない。筆者はそう考える。