J2ヴァンフォーレ甲府のACL出場は黒字か赤字か アウェー旅費&国立ホーム開催費用などを聞いてみた
J2からAFCチャンピオンズリーグ(ACL)の晴れ舞台に出場しているヴァンフォーレ甲府だが、地方のスモールクラブだけに、かかる経費の節約を強いられながら戦わざるを得ないという。初戦のオーストラリアでのアウェー戦や、10月4日に開催する東京・国立競技場でのホームゲーム開催など、ここではACL出場で見込まれるお金の収支をチームスタッフに聞いた。
渋谷駅の地下に掲載されたヴァンフォーレ甲府のACL告知ポスター(写真提供:ヴァンフォーレ甲府)
去年の天皇杯でJ2ヴァンフォーレ甲府が初優勝を成し遂げたことは、日本サッカー史に残る下克上であり、金字塔でもあった。しかも天皇杯優勝チームは、自動的に翌シーズンのACL本戦の出場権が与えられる。
ただ実際に蓋を開けてみると、与えられたご褒美は、必ずしも大歓迎と言えるようなものでもなかった。地方のスモールクラブにとって、ACL出場がいかに大変なのかは前編で競技運営部の植松史敏副部長が話してくれた通りだが、ACL常連クラブと比べて経営規模が違うのだから、それも仕方がない話だ。
たとえば、今回のACLに出場する浦和レッズ、川崎フロンターレ、横浜F・マリノスは、2022年度の年間売上で国内トップ3のビッグクラブだ。ACLディフェンディングチャンピオンの浦和は81億2700万円、川崎は69億7900万円、横浜FMも64億8100万円の年間売上がある。
一方、J2に降格してからもう6年目を迎えてしまったヴァンフォーレの年間売上は、15億6400万円しかない。つまり、ビッグクラブの約5分の1。J2でも中位以下の経営規模なのだから、メルボルン遠征時に39歳のピーター・ウタカがエコノミー席に座って一般客と同じ機内食を食べざるを得ないのも頷ける。
ビジネスクラスは庶民派ヴァンフォーレにとっての夢、憧れの世界。確かにACL出場は嬉しい話だが、それほどの節約を強いられながら戦わざるを得ないのも現実なのだ。
「天皇杯優勝で1億5000万円の臨時収入があり、2022年度の黒字が確定したので喜んでいたのも束の間、初経験となるACL出場が財政的にどのような影響があるのかが心配になったので、決勝戦の翌日にはJリーグの財務部に電話していました。また、その月のうちに運営の植松とともにACLの常連クラブの担当者に時間をいただき、いろいろとヒアリングをさせていただきました」
そう話してくれたのは、経理を担当している管理部の横澤康晴副部長だ。ヒアリングを終えると、やはり横澤さんの心配は的中。予想通り、「ACL単体で収支をプラスに持っていくのは難しい」という結論に至ったそうだ。
【アウェー試合の出費+国立開催費が大きい】では、ACL出場によって、ヴァンフォーレにはどんな支出、負担が発生するのか。
「大きな柱で言うと、アウェー戦の旅費です。ヒアリングで得た情報をベースに中国、韓国、オーストラリアへの遠征を想定して予算を立てたのですが、航空券代や現地の宿泊ホテル代を含め、アウェー3試合で約7000万円を見積もりました。
もうひとつ大きかったのは、ホームゲーム3試合を国立競技場で開催することによる支出です。1階席のみの限定使用にしたのですが、スタジアム使用料、警備費、甲府から東京までの選手スタッフの移動、それとACLでは相手チームの空港からホテル、ホテルからスタジアムの輸送、練習場の確保はホーム側の負担なので、それも計上します。
それでいくと、小瀬(JITリサイクルインクスタジアム)で開催するよりも5〜6倍の出費になってしまいます。しかも普段の客単価が2500円くらいなので、わざわざ交通費をかけて東京まで来てくれるファンの方に高額なチケット代をお支払いいただくのは申し訳ないという話になり、通常のチケット代に近い価格に設定しました」
逆に、ACL出場によってどのような収入が得られるのか。
「まず、JリーグからACLサポートという名目で1億円の収入があります。ただ、この1億円を何に使うかはクラブの自由なので、ここはACLに出場するために必要なチーム強化費として考え、ACL単体の予算組みには含めずに予算を立てました。
その他では、グループステージのアウェー3試合に対し、AFC(アジアサッカー連盟)からトラベル・コントリビューション(旅費の補助金)として1試合につき6万ドル(約900万円)をいただけます。遠征費の補填は予算に計上しておりますが、勝てば1試合につき5万ドル(約750万円)、引き分けなら1万ドル(約150万円)、ラウンド16に勝ち進めれば10万ドル(約1500万円)の賞金に関しては勝敗が読めないので、予算からは外しています。
ACLでは唯一ユニフォームの胸にスポンサーを入れることができるのですが、リーグ戦のユニフォームスポンサーでもある『はくばく』様が支援をしてくださることとなってACLを戦い抜くうえで大きな支えとなりました。『はくばく』様には長年手厚いサポートをいただいているのですが、今回も手を差し伸べていただき、本当に感謝しかありません」
【国立ホームのチケット売り上げが伸びている】では、横澤さんは収支をどのように見積もっているのか。ACL単体でプラスにできるのか、それともマイナスになってしまうのか。そこが最も気になるところだ。
「以上のような支出と収入を見積もった結果、当初ACL単体でマイナス8000万円を見込みました。もちろん、大きな後ろ盾のないヴァンフォーレの場合、年間の黒字はマストなので、ACL以外を含めた場合は黒字になるように予算を立てていますが」
ACLだけでマイナス8000万円ということは、単純に考えれば、他の予算を最低8000万円分削らなければならない。やはり、ACL出場はヴァンフォーレにとっては大きな負担になってしまうようだ。
奇しくもこの夏、AFCは来シーズンからのレギュレーション変更を決定。優勝賞金を3倍にするなど、出場クラブへの分配金を大幅にアップさせることも発表した。
「1年遅いよ!」という声が山梨方面から聞こえてきそうだが、これもやむなし、だ。
ただ、横澤さんの目には希望の光が映りつつあるという。一体、どういうことか。
「当初、国立開催の有料入場者数を2〜3000人くらいで見積もっていたのですが、筆頭株主の山日YBSグループの協力もあり、渋谷と新宿で効果的なプロモーションをできました。田舎のクラブが東京の人気スポットでインパクトのあるポスターを掲示したことで、かなり反響をいただき、ここにきて急激にチケットの売り上げが伸びています。すでに予想の4倍近くが売れているので、いまは嬉しい悲鳴といったところです」
10月4日(水)19時キックオフのブリーラム・ユナイテッド(タイ)戦。たとえばゴール裏は2000円、バックスタンドでも3500円、その間にも2500円、3000円と、国立の観戦チケット代とは思えないような低価格設定が、反響の要因のひとつになっているという。
この勢いなら、ACL単体での黒字化も視野に入ってきたのではないか。
【目指せ!チケット収入6000枚以上】「現在のチケット収入の伸びを考えても、さすがにプラスに持っていくのは難しいと試算しています。そもそも当初の予算では、国立開催によって1試合につき1700万円ほどのマイナスを試算していますし、アウェー戦にかかる経費は補填を考慮してもマイナス2700万円を想定していますので、なかなかACL単体で黒字に持っていくのは厳しいですね」
え? それでも赤字なのか。ならば、あとどれだけチケット収入を増やせばプラスが見えてくるのか。
「そうですね、国立の1階席がフルで埋まると2万2000〜3000人なのですが、今回でいうと、2戦目、3戦目も1試合につき6000枚以上のチケット収入が見込めるようだと、もしかしたらACL単体での黒字が視野に入ってくる可能性があります」
平日水曜日の夜に、山梨県から6000人以上の集客はあまりにも非現実的だ。こうなると、首都圏の山梨県出身者、Jリーグ各クラブのサポーター有志、あるいは仕事帰りのサッカーファンの力を借りなければ、ヴァンフォーレのACL出場の赤字は確定だ。
これは大変だ。よし、こうなったら自分もチケットを買うしかない。それで、何人集客できるのかを楽しみにしよう。そして、勝って750万円が転がってくることを祈ろう。