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いわゆるコンサート的な意味合いでの“ライブ”というよりも、1人の人間が舞台上で剥き出しの自分自身を表現する、総合芸術としての“ライブ”を観た、という感覚が近いかもしれない。声優・シンガーソングライターの楠木ともりが、1stアルバム『PRESENCE / ABSENCE』を携えて全国6都市を巡ったライブツアー“TOMORI KUSUNOKI LIVE TOUR 2023 『PRESENCE / ABSENCE』”。そのファイナル、9月2日に行われた東京・TOKYO DOME CITY HALL公演で、彼女は驚くほど純粋に、自らをさらけ出していた。自分という“存在”がここにいることを証明するために。そして、同じ時間や気持ちを共有し合える人々の“存在”を確かめるために。

TEXT BY 北野 創

“存在”と“不在”が織り成す、感情豊かで起伏に富んだステージング



“存在(=PRESENCE)”と“不在(=ABSENCE)”、表裏一体ともいうべき2つのコンセプトに貫かれたアルバムの世界観を反映した今回のツアー。それぞれ生け花とドライフラワーをあしらって“存在”と“不在”の二面性を表現した二脚の椅子、鉢植えをぶら下げた照明など、アルバムのビジュアルともリンクする“花”をモチーフにした舞台セットがステージを彩るなか、ライブは『PRESENCE』と『ABSENCE』の各収録曲を行き交うような形で進行していった。

幕開けを飾ったのは『PRESENCE』のリード曲「presence」。楠木自身が作詞・作曲を手がけた、“なんで?なんで?”“これでいいのか?”と自問自答しながらも最終的には“僕でいいんだ”と光明を見出すロックナンバーだ。迷いもそのまま乗せた歌詞が彼女らしいし、楽曲自体も爽快さを軸にしつつどこかもがきを感じさせるところがポイントだが、そういったもやもやを吹き飛ばそうとするような体当たりの歌声が、ライブならではの迫力を増加させる。そこから「行けるか、東京!」と檄を飛ばして、TOOBOE提供のワイルドなファストチューン「青天の霹靂」に突入。身を屈めながらの吐き捨てるような歌唱に、客席も熱狂的な掛け声やクラップで応える。今回のツアーは、コロナの禍中でメジャーデビューした彼女にとって、待望の声出し解禁ライブということもあり、ファンの熱気もいつも以上のものを感じさせる。



軽い挨拶のMCを挿み、メジャーデビュー曲「ハミダシモノ」で“はみ出し者”としての矜持を力強く示すと、続いてCö shu Nie提供の「BONE ASH」を披露。バックバンドの激情的な演奏もさることながら、楠木の身も心も振り絞るようなパフォーマンスが狂おしい光景をステージに現出させる。自ら作詞・作曲を行う楠木にとって、他アーティストから歌詞を含む楽曲提供を受けるのは、1stアルバム『PRESENCE / ABSENCE』における新しい試みの1つだったわけだが、どの楽曲も違和感なく溶け込んでいるのは、各アーティストがそれぞれの視点を通した“楠木ともりという存在”を楽曲に落とし込んだのに加えて、彼女自身の表現力と感応性の高さ、各楽曲の世界観に没入する憑依的な資質の賜物だということを、生のステージで改めて実感することができた。

それら激しいサウンドの2曲に続いては、バラード調ながらも感情を激しく揺り動かす2曲を連続で歌唱。家族や身近な人々への気持ちを形にした「バニラ」では、例えどれだけ時間が経ったとしても在り続ける大切な“声”と“思い出”の残り香を、バンドのドラマチックな演奏と共に表現。ドライフラワーをあしらった側の椅子に座って歌われた「absence」は、彼女が退職したマネージャーとの日々を思い返して書いた楽曲で、その“不在”を嘆くように、どこか弱々しさも感じさせる感傷的な歌声で届ける。根幹にあるテーマは近いながらも、それぞれ“存在”と“不在”のアングルを持つ対照的な2曲が続くことで、ある種のストーリー性と同時に、彼女自身の表現における“二面性”という本質が浮かび上がってくる。



それをより如実に体感できたのが、次のMCパート。楠木は先ほどまでのシリアスな雰囲気から一変し、天真爛漫かつ気さくなノリで観客との交流を楽しむ。ライブでは毎回、目についた客席のファンに向けて直接話しかけがちな彼女だが、この日は観客の声出しも解禁ということで、『PRESENCE』と『ABSENCE』の2枚のアルバムのうち片方しか購入していない人に手を挙げさせてその理由をあくまでも優しく詰問するなど、軽妙な語り口で笑顔の絶えない時間を作り上げる。緊張と緩和、その絶妙なバランス感覚もまた、楠木のライブにおける大切な要素なのだ。

お次は「みんなが動いて楽しめるようなブロック」とのことで、まずはライブの定番曲となりつつある「もうひとくち」を披露。オーディエンスは横揺れのグルーヴに合わせてクラップするのみならず、“ドーナツ覗いたら”の部分で指を輪っかを作るといった楠木の愛らしい振りをマネするなど、思い思いのスタイルで体と心を揺らせて楽しむ。続くmeiyo提供の「StrangeX」では、甘やかなささやきボイスと異国情緒溢れるストレンジポップなサウンドで不可思議な世界観を演出。そして彼女はステージ下手側の生花をあしらった椅子に座ると、変拍子交じりのアップナンバー「Forced Shutdown」を歌い始める。1番は座りながら爆発しそうな感情を抑え込むかのように、その後、立ち上がってからも感情の波に溺れるかのように、自らを激しく発露させるその姿には、ある種の生々しさが感じられる。そこからピアノの幻想的なイントロを経て、楠木の「雨が……」というつぶやきを合図に「遣らずの雨」へ。土砂降りのように打ち付ける音の雨の中で、遠ざかってしまった“君”へのどうしようもない悲しみを叩きつける。

初の声出し解禁ツアーで確かめ合うことのできた、お互いの“存在証明”



その後のMCで楠木は今回のツアーのコンセプトについて語る。人生で初めてのイベント出演にて、この日の会場となったTOKYO DOME CITY HALLに立ったことがあるという彼女。「そこから何年も出会いと別れを繰り返して、やっと1つの夢が叶うというときに、みんなを失いました」と、コロナ禍によって絶たれてしまったファンとの交流について語る。「“届けたい”と思えるあなたが目の前にいなくて、どんな顔をしてくれているのかもわからなくて、何を表現したいのかもだんだんわからなくなって、いっそ全部辞めちゃいたいなと思って。でも、自分でもよくわからない意欲に負けて、私はここまで歩き続けてきてしまいました」――これまでの活動における悔しさを素直に吐露する彼女の言葉を、観客は一言一句漏らすまいと静かに聞き入る。

「そんななか作った1stアルバム、そしてこのツアーは、自分の“存在証明”をしたいという思いで作ってきました。あのときは誰も自分のことを知らない人でいっぱいだった会場が、今、自分に少しでも興味を持って出会ってくれた人でいっぱいなんだと思うと、十分に存在証明をしてこられたんだという気持ちで胸がいっぱいになります」。

「このアルバムでは“二面性”というメッセージも込めていますが、みんなにとって、自分にとっての好きなところ、嫌いなところ、色々あると思います。でも、そんなあなたにとってあなたの嫌いなところは、私にとって、すごく愛おしくて。同じようにみんな自身も、あなたのことを愛してほしいなって、すごく思っています。少なくともそれが、私の頑張る理由だったと、すごく思います」。

「どんなに、自分が今いる場所で“あなたなんか必要ない”と言われても、自分で自分のことを“必要ないな”と思っていても、私のライブに来たらそんなことを思わなくていいです。私にとっては、そんなあなたが必要だし、あなた自身がそう思える場所を、私は絶対に作り続けます。絶対に約束します」「今日ここで過ごした時間を、あなたにとっての“存在証明”として、これから先、楽しかったなって思い出してくれますか?」「その先で、また私が用意する、みんながいてもいい場所に、会いに来てくれますか?」。

時折涙声になりながらも、自らの胸中とこのツアーに込めた想いを、自分の言葉でしっかりと伝える楠木。ネガティブな部分も含めた自身の気持ちを、ここまでつまびらかに語るのは、おそらく怖くもあったと思うのだが、そうやって“自分”というものを包み隠さず伝えるのが彼女にとっての“存在証明”であり、自分と同じ気持ちを抱えている誰かに届けるための表現方法なのだろう。そしてその想いが伝播したことで、今、こうしてTOKYO DOME CITY HALL公演が成立しているのだ。彼女は、「私は色んなところで、デビュー当時から、自分のことが好きじゃないって言ってきて」「でも、今回のツアーを通して、みんなの前でこうして堂々と、やりたいこと、伝えたいことを話せる自分は、ちょっとだけ好きかもな、って思わせてくれたツアーでした。みんな本当にありがとう」と、心からの感謝の気持ちを伝えた。

そして「今の気持ちのままで聴いてほしい曲」と説明して、彼女が歌ったのは、ハルカトミユキが提供した「それを僕は強さと呼びたい」。言葉にできない複雑で割り切れない気持ち、誰かにお仕着せられたのではない自分だけの感情を声にする強さを、凛々しい歌声で届ける彼女。その毅然とした姿に勇気をもらっている人もきっと多いはずだ。最後は胸元に手を置いて、今にも想いが溢れそうな表情で、ステージから見える光景を噛み締めるように歌い終えると、「最後はみんなで一緒に歌ってね!」と呼び掛けてライブ人気の高い「アカトキ」を披露。グルーヴィーな演奏とクラップで一体になっていく会場。サビの“アップデートしていこうよ”というフレーズでは大合唱が巻き起こる。終盤、そのフレーズを楠木の掛け声に合わせて何度もリフレインで歌い合い、その日の思い出を最高のものにアップデートして、ライブ本編は締め括られた。



盛大な「ともりコール」を受けて、ツアーTシャツ姿でステージに戻ってきた楠木は、夏の終わりを感じさせる「眺めの空」をアンコールで披露。感情を乗せた力強い歌唱と歌詞で描かれている情景が、この日このときのシチュエーションと相まってセンチメンタルな気分を加速させる。その後のMCで、ライブ恒例となっているグッズ紹介(グッズは本人自らデザインを手掛けるなど、これも彼女の作品の一部として欠かせない要素の1つだ)、そして新情報としてライブBlu-ray「Kusunoki Tomori Birthday Live 2022『RINGLEAM』」が11月1日にリリースされること、彼女のバースデー当日となる12月22日にライブイベント“TOMORI KUSUNOKI BIRTHDAY LIVE 2023”を神奈川・パシフィコ横浜 国立大ホールで開催することを告知。ワンマンとしては過去最大級の会場ということで、歓喜の声に包まれる。

そして最後は「楽しい思い出を作る準備、できていますか!」と呼び掛けて、彼女のライブではタオル曲として親しまれている「僕の見る世界、君の見る世界」をプレゼント。満面の笑みで歌う楠木、グッズのタオルやこぶしを掲げて楽しそうにはしゃぐオーディエンス。それぞれの見ている世界は違うかもしれないけれど、ライブという時間を共有している、今、この瞬間だけは、同じ世界を見ている――そんなことを感じさせてくれるほど、幸せな空間を作り上げて、この日のライブは終幕した。“ハミダシモノ”だろうが“ひとりぼっち”だろうが受け止めてくれる強さと優しさが、そこには確かに感じられたし、それこそが楠木ともりの目指す“ライブ”という場所なのだろう。この日の思い出は、その場にいたすべての人々の“存在証明”として、心の中に残り続けるはずだ。



<セットリスト>

M01. presence

M02. 青天の霹靂

M03. ハミダシモノ

M04. BONE ASH

M05. バニラ

M06. absence

M07. もうひとくち

M08. StrangeX

M09. Forced Shutdown

M10. 遣らずの雨

M11. それを僕は強さと呼びたい

M12. アカトキ

―ENCORE―

EN01. 眺めの空

EN02. 僕の見る世界、君の見る世界

●ライブ情報

楠木ともり「TOMORI KUSUNOKI BIRTHDAY LIVE 2023」

2023年12月22日(金)

open 18:00 / start 19:00

会場:パシフィコ横浜 国立大ホール

チケット料金:全席指定 7,700円(税込)

※未就学児童入場不可

オフィシャル1次先行受付期間

9月19日(火)12:00〜10月1日(日)23:59

お問い合わせ

H.I.P. 03-3475-9999

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●リリース情報

Kusunoki Tomori Birthday Live 2022『RINGLEAM』

2023年11月1日発売

【完全生産限定盤(Blu-ray+フォトブック+三方背スリーブ仕様)】

価格:¥9,900(税込)

【通常盤BD(Blu-ray)】

価格:¥7,150(税込)

<収録曲>

01. narrow

02. 熾火

03. アカトキ

04. よりみち

05. 山荷葉

06. タルヒ

07. 遣らずの雨

08. ロマンロン

09. absence

10. alive

11. バニラ

12. もうひとくち

13. 僕の見る世界、君の見る世界

特典映像:全会場ドキュメント

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関連リンク



楠木ともり オフィシャルサイト

https://www.kusunokitomori.com/

楠木ともり オフィシャルX(旧Twitter)

https://twitter.com/tomori_kusunoki

楠木ともり オフィシャルYouTube

https://www.youtube.com/channel/UCYU-61cZHXE0P48ZCxvs4cQ