心肺蘇生法(CPR)を受けて蘇生した人の脳で、意識がない間も思考や記憶と結びついた脳波パターンが確認されたことがわかりました。これらの人は「意識が高まり、強く明快な体験をした」と述べており、研究者らは、いわゆる「臨死体験」が「現実の新たな次元へのアクセス」につながる可能性を指摘しています。

AWAreness during REsuscitation - II: A multi-center study of consciousness and awareness in cardiac arrest - Resuscitation

https://www.resuscitationjournal.com/article/S0300-9572(23)00216-2/fulltext



Patients Recall Death Experiences After Cardiac Arrest | NYU Langone News

https://nyulangone.org/news/patients-recall-death-experiences-after-cardiac-arrest



People Experience ‘New Dimensions of Reality' When Dying, Groundbreaking Study Reports

https://www.vice.com/en/article/pkamgm/people-experience-new-dimensions-of-reality-when-dying-groundbreaking-study-reports

ニューヨーク大学グロスマン医学部の研究者らは、アメリカやイギリスの25の病院と協力して研究を行いました。

2017年5月から2020年3月に病院でCPRを受けた567人の患者のうち、退院できるほど十分に回復できたのは10%未満でした。その中で、生存者のうちの4割はCPR開始から1時間経過後でも、脳活動がほぼ正常な状態に戻っていました。

こうした患者に対して実施された脳波検査では、より高い精神機能と関連するガンマ波、デルタ波、シータ波、アルファ波、ベータ波のスパイクが検出されていたとのこと。

CPRを受けた患者は「父に会った」「ベッドの横に立っていて、何が起きているのかを把握していた」「亡くなった祖母が『もう戻らなければいけない』と言ったのが聞こえた気がした」といった死の経験や、「医師らが私の体に電極をつけていた」「誰かが胸を強く圧迫していた。かなり痛かった」といったCPRそのものの体験、「ICUで目が覚めた」「パートナーが私の名前を呼び、息子が『お母さん』というのが聞こえた」と昏睡状態からの覚醒などについて語り、「意識が高まり、強く明快な体験をした」と報告しています。調べでは、これらの臨死体験は幻覚や妄想、錯覚、夢、CPRによる意識状態とは異なることがわかりました。

研究者らはこのことについて、死にゆくフラットな脳が、自然な抑制系のブレーキをかけるのをやめることによる「脱抑制」の影響だと考えているとのこと。「脱抑制」状態では、幼少期から死に至るまでの記憶の明確な想起、いわゆる「記憶の走馬灯」を見ることがあり、こうした状態が「現実の新たな次元」へのアクセスを開く可能性があり、人が死んだときに何が起こるかを体系的に探求する道が開かれるかもしれないと研究者らは指摘しています。

研究に携わるサム・パルニア准教授は「これまで医師たちは、心臓からの酸素の供給が止まって約10分経過すると、脳は不可逆な損傷を受けることになると長らく考えてきました。しかし、我々の研究では、CPRを続けると、脳波電気的な回復兆候を示すことが分かりました」と述べ、今後、心臓を再起動したり、脳の損傷を予防したりするための新たな方法の設計の指針となり、臓器移植に影響を及ぼす可能性があると語りました。

なお、今後は臨床意識のバイオマーカーをより正確に定義し、心停止後の蘇生の長期的な心理的影響を監視する研究を実施する予定だとのことです。