スペインでのキャリア5年目にして念願のチャンピオンズリーグデビュー(CL)を果たした後、ヘタフェ戦でもゴールを決めた久保は、ラ・リーガ得点ランキングで3位につけ好調を維持している。今回はスペイン紙『ムンド・デポルティーボ』でレアル・ソシエダの番記者を務めるウナイ・バルベルデ・リコン氏に、メディア関係者やアナリストなどの久保評価をまとめてもらった。

【今季すでに4ゴール】

 レアル・ソシエダにとってヘタフェとの一戦は、来月の代表ウィーク前までの対戦相手のなかで最も勝ち点を取りやすい相手と目されていた。そのため、後に控えるバレンシア戦やアスレティック・ビルバオ戦にフレッシュな状態で臨めるように、久保のスタメン入りに疑問が持たれていた。

 だがこのタフな相手との対戦にイマノル・アルグアシル監督は、休みを与えずに先発起用することを決断。この采配が見事的中し、久保は開始2分に先制点を決め、早くも今季の得点数を4に伸ばしている。


久保建英の活躍にスペインメディアの記者たちも賛辞を送っている photo by Mutsu Kawamori/MUTSUFOTOGRAFIA

 今季の久保は自らチャンスを生み出すとともに、チームメイトからのサポートを完璧に生かしている。ヘタフェ戦でもそれが発揮され、ペナルティエリア内のスペースに素早く走り込んでブライス・メンデスのスルーパスを受けると、逆サイドに素早くシュートを放ちゴラッソを記録した。

 連戦による疲労は明らかだったが、その後もチームに貢献するために尽力した。何度かファールを誘発した際にハードタックルを受けて負傷する可能性もあったものの、今季はより強さを増し、そのようなプレーにも耐え抜く力を身につけている。

 イマノル監督はヘタフェ戦後、久保の活躍ぶりについて、「ストライカーとしてのステップを踏み出している。とてもいい動きを見せているが、それは私ではなく、すべて彼の功績によるものだ」と本人の努力の賜物であることを認めていた。

 久保にとってヘタフェ戦は一度逆転を許し、多大な労力を払わざるを得ずベストゲームとはいかなかった。また途中交代の予定だったがイゴール・スベルディアが負傷したことでフル出場したため、次節バレンシア戦(9月27日)にどのような状態で臨めるか、フィジカルコンディションが懸念されるところだ。

【監督、キャプテンからの評価】

 久保は昨季、ゴールやドリブルなどで決定機を生み出し、人目を引く勇敢かつ安定感のあるプレーで、ラ・レアル(レアル・ソシエダの愛称)での初年度を華々しいものにした。序盤はアレクサンデル・セルロート(現ビジャレアル)の傍でセカンドトップを務め、途中から右ウイングにポジションチェンジ。

 イマノル監督は久保について聞かれるたびにはっきりと、「タケはいいプレーをしているが、彼にはより多くを望んでいる」と答えていた。その後、日が経過するとともに指揮官が求める"より多く"という言葉が"数字"であることが明らかになった。すなわちこれは、チャンスメイクし、得点、アシストを記録することを意味していた。

 さらにイマノル監督は今季、シーズン序盤からすばらしいパフォーマンスを発揮している久保について、「彼にはチャンスがあるので、もっと数字を増やさなければいけない」と繰り返し言い続けている。久保はその言葉に従うかのように、ヘタフェ戦で今季の4得点目を記録してみせた。昨季のラ・リーガではこの数字に至るまで21試合かかったことを考慮すると、上々の滑り出しと言えるだろう。

 久保が好プレーを見せた最近の試合を挙げると、レアル・マドリード戦が2試合含まれている(5月2日と9月17日)。この強豪相手に良いプレーをわずか数カ月もの間に2回もやってのけたインパクトは絶大であった。しかもそのうちの1回は難攻不落のサンティアゴ・ベルナベウ(レアル・マドリードのホームスタジアム)であったことはさらに評価を高め、世界中に久保の名前をアピールする結果となった。

 またキャプテンのミケル・オヤルサバルは最近、「ピッチでのタケのレベルは誰もが知っていて、僕たちは幸運にもそれを毎日体験できている。彼は礼儀正しい自然体のすばらしい青年だ。そういった彼のキャラクターはチーム全体の助けになっているし、それは人間的にも技術的にもとても重要なことだ」と言及していた。

 もう誰も久保のパフォーマンスに驚くことはない。紛れもないスターであり、皆が彼の爆発的な力を認めている。かつてラ・レアルの選手としてラ・リーガ王者(1980−81、1981−82シーズン)に輝き、クラブ史上2番目のゴール数記録を持つレジェンド、ロベルト・ロペス・ウファルテ氏は、「久保を私と比較したがる人たちがたくさんいるが、おそらく彼のほうが優れているだろう。1対1に非常に強く、左足のシュートもすばらしい。当時、私が持っていると言われていたものを彼はすべて備えている」とその実力を認めていた。

【得点力を身につけ始めた】

 久保に対する意見はクラブレジェンドにとどまらず、35万人のYouTubeフォロワーを持つ米専門テレビ局『ESPN』のジャーナリスト、ロドリゴ・ファエズ氏にも及んでいる。

「とてつもないクオリティを持った選手だ。私は彼を愛してやまない。そのクオリティやサッカーに対する考え方、記者の前での表現方法など、そのすべてを気に入っている。議論の余地のないタレントだ」

 このように語ったファエズ氏は直近の動画で、先買権を保有するレアル・マドリードへの復帰の可能性を本気で検討していた。

 しかしこれはあくまで、久保が成功するためのすべてを与えてくれたクラブを去りたいと思った場合に限ったことだ。彼自身が最近受けたラ・リーガのインタビューで、「ラ・レアルのおかげで自分の名誉を取り戻し、成功への列車に戻ることができた」と感謝を述べていたが、この発言は将来を占う上で大きなものだろう。

 久保のサッカーを好む人たちが増え続けるなか、選手としての成熟度やスター性についての意見が専門家から相次いでいる。スペインのデジタル紙『エル・コンフィデンシアル』のアルベルト・オルテガ記者は「絶対的な逸材だ。卓越したテクニックと得点を決められるようになるまで磨き上げたシュート力を備え、見るものを夢中にさせるサイドアタッカーだ。日々、ベストプレーヤーになりつつある」と評した。

 スペインのラジオ局『ラジオ・マルカ』のアドリアン・ブランコ記者は、「久保は得点力を身につけ始めている。彼の飛躍は何よりもメンタリティの問題だったし、ラ・レアルのクラック(名選手)だ。そしてベルナベウでのすばらしいプレーは、"すでにラ・リーガ最高の選手のひとり"という我々が彼について知っていたものをあらためて確認させてくれた」とその偉大さを語っていた。

 スペインのラジオ局『カデナ・セル』のブルーノ・アレマニー記者も「ここまでのMVPはジュード・ベリンガム(レアル・マドリード)だが、それに最も近いところにいるのは久保だ。このシーズン序盤のパフォーマンスは驚異的」と賛辞を送っている。

【力が急上昇した理由】

 スペインのデジタルメディア『レレボ』でアナリストを務めるアルベルト・ブラヤ氏は、久保の成長理由を「持続的なスピードとボールコントロール後の衝突に耐える能力が加わったことで、持てる力が急上昇した」と分析。さらに「彼はチームメイトと連係する能力や外に開き加速する才能を備えていて、私が好きなものをすべて持っている選手だ。さらに彼がインサイドでプレーすることになれば、もっとすごい選手になると思う」と大きな期待を寄せていた。

 久保はその類稀なパフォーマンスで、このように皆を納得させて魅了し、すでにレアル・ソシエダ・ファミリーの一員となっている。この勢いは今後も止まることなく飛躍的な成長を遂げていくはずだ。