日本の大型連休では、各地で渋滞や混雑が起きる。神戸学院大学の鈴木洋仁准教授は「日本の休日は諸外国と比較して少ないわけではない。それなのに大型連休に渋滞や混雑が起きるのは、『みんなと同じように休むべき』という空気があるからだろう」という――。
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■「シルバーウィーク」と言われても……

今年もシルバーウィークがやってきた!

と喜んでいる人は、果たしてどれだけいるのだろうか?

シルバーウィークは、いまから14年前、2009年の流行語大賞にノミネートされたが、それから定着したとは言い難い。

4月末から5月のゴールデンウィークほどではないものの、それに匹敵するものとして、2009年は9月21日の月曜日(敬老の日)から23日(秋分の日)まで3日間祝日が続いたことを指す(9月22日火曜日は、祝日に挟まれたことによる例外的な「国民の休日」として、この年に発生)。

なぜ、こうした連休が生まれたのか。

もう誰も覚えていない「ハッピーマンデー」=祝日を月曜日にずらして3連休を作る祝日法改正に伴うものである。2000年の導入時に、成人の日と体育の日をそれぞれ、1月15日から1月の第2月曜に、10月10日から10月の第2月曜に移した。

2003年から、それまで9月15日だった敬老の日は9月の第3月曜日に変えられたのに加えて、同日は新たに「老人の日」とし、その後の7日間を「老人週間」と呼ぶようになったのも「シルバーウィーク」の由縁とも考えられる。

こうした連休だった2009年や2015年は別として、今年は、長くても3連休が関の山ではないか。

■世界有数の「休み」が多い国・日本

そもそも日本は祝祭日が多い。

法律で決められた祝祭日の数については、日本貿易振興機構(ジェトロ)が公表しているデータ(*1)によると、2023年では、アメリカ、カナダ、イタリアは12日、フランスは11日、英国(イングランド・ウェールズ)10日、ドイツは9日で、G7では日本の16日が最も多い。

さらに、日本には、こうした法律(祝日法)で決められた以外の「休み」も多い。

「正月三が日」のうち法律上の休みは元日だけで、残り2日は自主的なものであり、また年末の「仕事納め」の後の3日程度も同じである。

さらに、「お盆休み」もまた祝日法には何も決められていないが、多くの役所や企業では最低でも3日、長ければ5日の「休み」を取る。

こうしたものを含めると年間で26日にのぼる。日本は世界でも有数に「休み」が多い国なのである。

■休みが不足しているとは「感じていない」

この多さが影響しているのか、日本で働く人のうち半数以上は、休みが不足しているとは「感じていない」。

旅行サイト大手のエクスペディアが毎年実施している「有給休暇の国際比較調査」の最新結果(*2)である。

2022年に行った調査での日本の57%という数字は、タイ(62%)に次ぐものであり、お隣の韓国(32%)や、バカンス大国フランス(29%)などと比べると、はるかに高い。

その前年2021年には45%だったので、コロナ禍による在宅勤務とは直接影響はしていないように見える。

日本の労働力人口に占める65歳以上の割合は、13.4%(2021年)であり(*3)、非正規雇用の割合が高い(*4)。毎日働いているわけではない高齢者が増えているから、「休み不足」を感じない人の割合が高まっている可能性はある。

■有休休暇を取るのは「後ろめたい」

ただ、先のエクスペディアの調査によれば、日本は「毎月有給休暇を取得している」と答えた人の割合(39%)でも、「週休3日制を導入してほしくない」と答えた人の割合(11%)でも調査対象の16地域のうち最多である。

乱暴に解釈すれば、「休みは足りているし、毎月有休を取っているから、週休3日で長時間労働になるのは勘弁してほしい」と考えている人が日本人には多い、ということになる。

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他方で、エクスペディアは、2018年に「有給休暇の取得に罪悪感があるかどうか」についても聞いている。

その結果は予想通りと言うべきか、日本が58%と、2位の韓国(55%)と並んで高い。メキシコ(20%)やフランス(25%)と比べると2倍以上である(*5)。

裏表として、上司が「有休の取得に協力的」と回答した人の割合も、43%と、かなり低い。メキシコ(78%)やフランス(74%)が高い様子と比べると日本の低さは際立つ。

有休を取るのは後ろめたい。上司は協力してくれない。ニワトリか卵か、ではあるものの、長い有休を取るのは変人扱いされてしまう、といった空気があるのではないか。

■職場の空気を読まないヤツを叩く心理

そう考えれば、祝祭日の多さも、「休み不足感」の少なさも腑に落ちよう。

ゴールデンウィークをはじめ、みんなが一斉に休んだり、月に1度ぐらいは有休を取ったりする。わざわざ上司が協力する必要もないし、罪悪感を覚える筋合いもない。

横並びであるし、仮に1日休んだぐらいでは飛び抜けることもない。「変人扱い」されはしない。

かたや長い休みを、それも、みんなとは別の時期に取ろうとすると、事態は一変する。

現代においてもなお「村社会」的な見えない圧力が働き、職場の空気を読まないヤツを叩く心理が作用する。

シルバーウィークを手放しで喜べない理由は、ここにある。

■「ワーケーション」は村社会的な空気の産物

ここ数年、ワーク(仕事)とバケーション(休暇)を合わせた「ワーケーション」だけではなく、ラーニング(学習)とバケーション(休暇)を一緒に取り組む「ラーケーション」(*6)が取り入れられている。

愛知県内の児童生徒に配るラーケーションカード(出典=愛知県公式Webサイト「ネットあいち」より)

後者は、子どものいる世帯が、学期中でも、保護者側が休みを取れるように配慮したものだという。

これもまた「村社会」的な空気の産物だろう。

長期間ただ休んでいる、わけではない。きちんと仕事や勉強をしていますよ、というわけである。

もちろん、ワーケーションやラーケーションは休日を分散するためにも効果があると言われており、いまのように有給休暇、それも長い休みを自由に取りづらい状況を変えようとする点で意味はある。

しかし、現実的には多くの人が「盆と正月」ぐらいしか長くは休めず、それも、みんな一緒に休むしかない。

「盆と正月が一緒に来たよう」とは、とても忙しい様子を例えることわざになっているぐらいだから、一斉に休む習慣は江戸時代ぐらいから続いている、そう思われるかもしれない。

■「一斉の夏休み」を最初に始めた業界

少なくとも新聞紙上で確かめられる限り、こうした「一斉の夏休み」は、いまから67年前、1956年に始まる。

同年7月31日の読売新聞朝刊は、「労使一斉に夏休み」という見出しで、日産自動車の全従業員6000人が、前日の30日から8月4日まで夏休みに入ったと伝えている。

記事では、「自動車工業は流れ作業のうえ、最近オートメーション化が進んだので有給休暇をバラバラにとる代りに一番暑い盛りに一斉に休み、夏の過労防止とオートメーション下の生産性向上の一石二鳥をねらったもの」(原文ママ)と報じている。

日本では初の試みだとして財界が注目している、と記事は結ぶ。

いまとなっては、自動車業界がゴールデンウィーク、お盆休み、そして年末年始に一斉休業するのは珍しくない。

その習慣は、戦後、それも高度経済成長の入り口で決められたのであり、労働者側と使用者側が、みんなで一度に休もう、との狙いから始まったものだった。

■「盆と正月」は高度経済成長期の呪縛

「赤信号、みんなで渡れば怖くない」ほどではないものの、みんなで一度に休もうとしなければ踏ん切りがつかない、そんな呪縛は、ここがスタートなのである。

いまのわたしたちが、長い休みを取りにくい背景がここにある。

「夏の過労防止とオートメーション下の生産性向上の一石二鳥」という大義名分がある以上、なかなか夏休みを分散させるわけにはいかない。

第3次産業(非製造業、広義のサービス業)に従事する人の割合は、2010年に70%を超えてから増え続け、2020年時点では73.4%、つまり、ほぼ4人のうち3人にのぼっている(*7)。

すべてのサービス業とは言わないものの、こうした人たちの多くは、「盆と正月」すら休めない場合も多く、それ以外の時期に長く休むのは、さらに難しい。

シルバーウィークと合わせて2週間休もう、などというのは、たとえワーケーションやラーケーションを組み合わせたとしても、夢のまた夢なのだろうか。

(*1)「世界の祝祭日」日本貿易振興機構(ジェトロ)
(*2)「エクスペディア世界16地域 有給休暇・国際比較調査2022発表!」エクスペディア、2023年4月27日配信
(*3)「令和5年版高齢社会白書」(P20)
(*4)「令和5年版高齢社会白書」(P24)
(*5)「世界19ケ国 有給休暇・国際比較調査2018」エクスペディア、2018年12月10日配信
(*6)「学校を休んで旅行してOK! 子どもと一緒に過ごす新たな休暇制度『ラーケーションの日』 導入する自治体が相次ぐ背景は?」ABEMA TIMES、2023年8月30日配信
(*7)「令和2年国勢調査 就業状態等基本集計結果 結果の概要」2022年5月27日公表

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鈴木 洋仁(すずき・ひろひと)
神戸学院大学現代社会学部 准教授
1980年東京都生まれ。東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(社会情報学)。京都大学総合人間学部卒業後、関西テレビ放送、ドワンゴ、国際交流基金、東京大学等を経て現職。専門は、歴史社会学。著書に『「元号」と戦後日本』(青土社)、『「平成」論』(青弓社)、『「三代目」スタディーズ 世代と系図から読む近代日本』(青弓社)など。共著(分担執筆)として、『運動としての大衆文化:協働・ファン・文化工作』(大塚英志編、水声社)、『「明治日本と革命中国」の思想史 近代東アジアにおける「知」とナショナリズムの相互還流』(楊際開、伊東貴之編著、ミネルヴァ書房)などがある。
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(神戸学院大学現代社会学部 准教授 鈴木 洋仁)