京都駅でタクシーの順番待ちをする観光客(筆者撮影)

利用者にとって日本一タクシーの環境が整っていない街だよ、今の京都は――。

今夏に京都を訪れた際に、タクシー関係者からこんな言葉を多方面からかけられた。その背景には、増え続ける観光客、慢性的なドライバー不足など複数の要素が絡み合ってくるのだが、地元市民の視点でいうと、ドライバーのマナーの悪さを指摘する声が非常に多いことが印象的だった。中でも、法人タクシー約6000台に対して、約2000台と全国的にも割合が多い、個人タクシーに関する辛辣な意見が次々と上がってきた。

一部の個タクの運転マナーに手厳しい声

京都駅から乗車した個人タクシーの運転手は、住民の意見を認めつつ重い口を開く。

「京都の主要な付け待ちスポットって、個タクの占める割合がめちゃくちゃ多いでしょ。それは、京都に住む人たちは個タクをほとんど利用しないから、観光客を相手にするのが最善だからですよ。もちろん私のようにちゃんと営業している人もいるんですが、一部の目に余る人たちのせいで、わたしたちまで白い目で見られるんですわ……」


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たしかに、JR京都駅や周辺の付け待ちスポットには個人タクシーが多い。体感ではあるが、半数ほどが個人タクシーだ。ほかで同じような場所はほとんど記憶にない。駅で休憩していた法人ドライバーに話しかけたところ、その理由をこう説明する。

「京都の地場の人ほど、個タクを避ける。いかに個タクがヒドいか、ということをよく理解しているのよ。だから、個タクは何もわからない観光客や外国人の利用が期待できる場所に集まるという状況になっているわけ。個タクのドライバーのお客様への横柄な態度や、運転マナーの悪さには迷惑してますよ。そのせいで、私たち法人も含めて一般的に『京都のタクシーはヒドい』というふうに見られるから腹が立つんですわ」

いわゆる“個タク問題”は、京都という観光客を相手にしたビジネスだけで商売が成立するという土地柄の影響も大きいのだろう。地場の商店などの人間に話を聞くと、「運転手がタメ口で話してくる」「近距離だと乗車拒否をされることも珍しくない」「わざと混雑する道を選ぶ」「運転手が客を選ぶという、バブル時代のような風習が残っている。いつの時代だよ!!」といった手厳しい声が多々聞かれた。

しかし、地元民から評判が芳しくない個タクに頼らざるえないほど、京都のタクシー事情が逼迫しているのも現実だ。地元民だけなく、観光客にとっても、京都はタクシー利用が困難な地域になりつつある。それは、コロナ禍でドライバー約1800人が減少したことにより、稼働できる車両の母数が大幅に減った影響も大きい。この状況は新聞などのメデイアでも、

タクシーが全然来ない」京都の観光客・市民が困惑…30分以上待たされるケースも

京都駅のタクシー乗り場に異変 海外観光客「理解できない」不満の声相次いで

といったタイトルで報じられている。

観光シーズンは交通インフラがパンク

京都市内の老舗タクシー会社の幹部が、現在の街が置かれた状況について解説する。

「あくまでシーズンによる、という前提ですが、今の京都では慢性的なタクシー不足が起こっていることは明らかです。特に修学旅行シーズンや、紅葉の時期などは状況が悪化する。今年の5月から7月にかけては、タクシーが迎車と配車アプリで埋まり、ほぼ空きがなかったくらいですから。

街には外国人観光客が溢れており、タクシーばかりでなくバスなどの交通インフラがパンクしかけています。本来であれば嬉しい悲鳴なんですが、ドライバーが足りないから車両は稼働できないし、解決のために募集をしても人が集まらない。喜ぶに喜べない複雑な心境ですよ」

その一方で、烏丸周辺で拾った法人タクシー歴10年の吉田さん(仮名・50代)は、「ドライバーにとって今の状況は歓迎ですよ」と打ち明けた。

タクシーを利用する層の半分近くが外国人となっています。コロナ禍で売り上げが落ち込み、私の知人も何人かタクシーを辞めてしまった。ですが、観光客が戻ってきたことで、隔日勤務(※)なら1日7万、8万円に届くことがザラになってます。

海外の方はアプリでの配車が多いことが特徴的で、京都の地場の方は今の混雑状況を知っているからか、無線での配車も増えています。流しをやる時間が極端に減り、個々人の売り上げはコロナ前に戻っているか、それ以上。今の京都で、お客さんが流しのタクシーを捕まえるのは一苦労じゃないですかね。秋には中国人観光客が戻ってくることは確実ですし、そうなるともう、どうなってしまうのか想像すらつかないですよ(笑)」

(※2日を1単位として、出庫してからほぼ丸1日働く勤務形態)

地元民の移動を直撃

もともと京都は観光客専用のタクシー乗り場「フォーリンフレンドリータクシー」が京都駅に設置されるなど、観光面での交通インフラがかなり整備された地域でもあった。しかし、今年に入って観光客が急激に戻ったことで状況は一変。タクシーだけではなく、バスもかなり混雑している。想定を超えて”増えすぎた“観光客の影響は地元民をも直撃し、さらにまだ回復していない中国からの団体客という潜在需要もある。

筆者は市バスも利用したが、大型のスーツケースを何個も持ち運ぶ旅行者が目立ち、車内のスペースはかなり狭まっており、通路を移動するのも一苦労だった。そんな状況を見かねてか、地元市民はしぶい表情を浮かべていたーー。


外国人観光客への配慮を打ち出しているが……(筆者撮影)

京都駅から車で10分ほどと比較的中心地に近い観光地である三十三間堂には、客待ちのタクシーが列をなしていた。そこからタクシーを利用しようとしていた50代のアメリカ人男性は、京都での移動についてこう嘆いていた。

「路線がややこしい市バスを観光客が理解するのは困難だし、電車で移動できない地域ではタクシーに頼るしかない。ただ、日本のタクシーは高すぎるよ。京都は観光するには本当に素晴らしい場所だが、移動手段ということを考えるとクレイジーな場所でもあるね」


三十三間堂周辺で列をなすタクシー(筆者撮影)

ドライバーの採用に苦戦

それでもタクシー不足は大手社でも抜本的な解決策が見つかっておらず、今後もしばらくこの状況が続きそうだという見通しが強い。京都を代表するタクシー会社である、「MKタクシー」は、業界のなかでも新卒採用に特に力を入れていることでも知られている。直近の2年間では80名を超える新卒採用を行っている(数字はリクナビ調べ)。同社の広報担当者が、人材確保の難しさについてこう語る。

「ご多分に漏れず、当社でもコロナ禍で1割から2割弱のドライバーが離職しました。個々のドライバーの売り上げは上昇傾向にありますが、稼働台数が確保できないため全体の売り上げは伸び悩んでいます。正直、求人募集をかけても人が集まりにくい状況ではありますね」

一方で、タクシー以外の部門では、明確な傾向が見え始めているとも続けた。

「当社の場合、配車アプリの『Uber』を導入しているのですが、利用数は伸び続けており、その多くが欧米からの観光客の方です。そういった背景もあり、観光ドライバーの需要や募集者は明らかな増加傾向にありますね。当社の海外研修を利用して観光に特化したドライバーを目指したいというハイヤー部門には、若い世代の希望者が増えています」

京都の観光シーズンは、紅葉の時期と重なる10月から11月にかけて本格化する。慢性的なタクシードライバー不足に陥っている現状が今後も続けば、観光客や地元民を悩ませることになりそうだ。

(栗田 シメイ : ノンフィクションライター)