楽天証券HD、上場申請(写真はイメージ)

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楽天グループ(楽天G)傘下の楽天証券ホールディングス(HD)が、東京証券取引所に上場申請した。上場日は未定。楽天Gはこれで最大1000億円程度の資金を調達するとの見方もある。

携帯電話事業「楽天モバイル」の赤字垂れ流しで悪化した楽天Gは、財務立て直しが急務だった。そこで、2023年4月に傘下の楽天銀行上場で約700億円、さらに5月には公募増資などで最大約3300億円を調達すると発表しており、グループの財務改善は一息つくと見込まれる。

ただ、楽天Gの株価は低迷しており、回復には携帯事業の抜本的な改善が必要だ。

業績好調の楽天証券 楽天Gは、上場後も楽天証券HDを連結子会社に

楽天証券は1999年に設立。ネット証券として安い手数料や、手軽に投資できる利便性などを武器に成長した。

2023年4月時点で、口座数は900万口座を突破し、ネット証券ではSBI証券に次ぐ規模。22年12月期の純営業収益は前期比7%増の905億円、純利益は3%増の92億円と、業績は好調だ。

楽天証券のほか、楽天証券HD傘下には仮想通貨(暗号資産)取引を手がける楽天ウォレット、投資信託の運用などを担う楽天投信投資顧問がある。上場の狙いとして、「独自の資金調達を含めたさまざまな成長及び財務戦略を検討することが可能になる」と説明している。

ただ、この上場で注目されるのは、何より楽天Gの財務だ。

2022年5月、楽天証券HDの上場準備開始を発表。同年10月に楽天証券HDが保有する楽天証券株の約2割をみずほフィナンシャルグループ(FG)に売却した。その売却益775億円は11月に配当のかたちで楽天Gが吸い上げた。

楽天Gは、上場後の楽天証券HDを連結子会社として維持する方針だ。放出株は半分程度とみられ、これによる調達額は最大で1000億円規模になるとの見方が市場ではささやかれる。

楽天銀行の上場、公募増資など3300億円、西友HD株の売却...「なりふり構わぬ」資金調達 携帯事業の赤字体質の改善目指して

楽天Gにとって、好調を維持する金融子会社の上場は、重要な資金調達の手段だ。

前述の楽天証券株売却益775億円のほか、23年4月には、楽天銀行株の上場で717億円を調達(J-CAST 会社ウォッチ「楽天銀行、東証プライム市場に新規上場へ...グループの財務改善がねらいか 立て直し急務の『赤字垂れ流し』携帯電話事業に『伸び代』は?」(2023年4月3日付参照)。

さらに、23年5月には公募増資、三木谷浩会長兼社長の資産管理会社などへの第三者割当増資で計3300億円を調達した。食品スーパー大手の西友ホールディングス(HD)の株式も、米投資ファンドに約220億円で売却すると発表している。

これに楽天証券HD(最大1000億円)も加わることになり、まさに、なりふり構ってはいられないという趣だ。

楽天Gが資金確保に奔走するのは、携帯事業が赤字体質から脱出できないからだ。

自前の基地局整備などへの投資が1兆円を超える一方、携帯電話の料金引き下げの「国策」のあおりで大手3社との差別化に苦労するなど、契約者数拡大は苦戦している。

インターネット通販(EC)は好調ながら、楽天G全体の2022年12月期決算は、営業損益は3638億円の赤字(前期は1947億円の赤字)、最終(当期)損益も3728億円の赤字(同1338億円の赤字)と、4期連続で水面下に沈んだままだ。

携帯電話事業の営業損益は4928億円の赤字と、前期の4211億円から悪化している。

株価の低迷から、反転の糸口つかめず 自力でまとまった額を集める資金調達の手立て「ほぼ使い切る」...

こうなれば財務は傷む。

楽天Gは投資資金を、主に借り入れや社債の発行で賄ってきたことから、金融事業を除く有利子負債は22年12月末時点で1兆7000億円に達し、1年で3割増えている。

借りたカネは返さなければならない。23〜24年の2年間で社債の償還は約4000億円、向こう5年間では計1兆2000億円にのぼる。

もちろん、すべて返済というわけではなく、借り換えが大きな部分を占める見通しだ。だが、業績不振で22年12月に米格付け会社S&Pグローバルが「ダブルB」に引き下げるなど、格付け会社の格下げも相次ぐ。

このため、社債発行コストが上昇し、23年2月発行の普通社債(年限2年)の利率は年3.3%になっている。

格下げに株価の低迷も追い打ちをかける。

21年3月に上場来最高値の1545円を付けて以降、右肩下がりで、足元では500円前後を行ったり来たりの水準。21年に1500億円を楽天Gに出資した日本郵政は23年3月期に800億円もの減損処理に追い込まれた。

5月の増資は34%の株式希薄化(株数増による1株利益の減)を招き、株価は反転の糸口をつかめない状態だ。

銀行、証券という「虎の子」の子会社株の売却、大規模増資と、「自力でまとまった資金を得る手立てはほぼ使い切ることになる」(市場関係者)だけに、携帯事業の赤字垂れ流しをいかに止めるかが、楽天Gの命運を左右する。

au回線を借りる「ローミング」の拡大、「最強プラン」で契約者数増狙うが... 黒字転換への道のりは遠く、正念場

23年1〜3月期の携帯事業の赤字は1026億円(前年同期は1323億円の赤字)で、赤字の縮小も小幅にとどまる。楽天Gは5月、KDDIのau回線を借りる「ローミング(相互乗り入れ)」の拡大を決めた。

自前の基地局増強による早期の回線借用解消をめざしてきたが、都心部も含め全地域でau回線を使って、屋内や地下などでつながりにくいという他社に劣る通信品質の改善を図る姿勢を鮮明にした。

6月から、データ利用量無制限など「Rakuten 最強プラン」を打ち出し、直近は450万件ほどで頭打ちになっている契約者数の拡大をねらっている。

こうした戦略がどこまで奏功するか。

5月12日に発表した1〜3月期決算資料で、目標にしていた携帯事業の23年中の単月営業黒字が「困難」と明記したように、黒字転換の道のりはなお遠い。

財務の傷口がふさげなければ、外部資本を活用するなどを検討する場合でも、不利な条件を飲まされる懸念は消えず、西友HDのような非中核事業のさらなる売却を迫られる可能性も取りざたされる。

楽天Gの経営はまさに正念場を迎えている。(ジャーナリスト 白井俊郎)