カップ麺「湯戻し時間」二極化している深い背景
カップラーメンは3分、という通説はもう古い?(筆者撮影)
今年、明星食品からわずか「55秒」の湯戻し時間で完成するラーメンが発売されました。「タイパ(タイムパフォーマンス)」が叫ばれる昨今なだけに納得のようですが、その一方で湯戻しに「5分」かかる本格派のカップ麺も増加。湯戻し時間は「二極化」しているようです。
ラーメンライターの井手隊長さんがその背景を解説します。
熱湯3分。
カップ麺といえば「お湯を入れて3分待つ」というのが長らくスタンダードとされてきた。1971年に日清食品が世界初のカップ麺「カップヌードル」を発売して以来、長きにわたり「3分」というのがカップ麺の常識だった。
しかしここ数年、「3分」という湯戻し時間が当たり前ではない流れになってきている。ここ数年のカップ麺の技術革新とともに、4分や5分という長尺の湯戻し時間を要するカップ麺が数多く発売されているのだ。
以前から長尺の湯戻し時間のカップ麺は存在していたが、ほんの一握りのこだわり商品に限定されていた。しかし、ここ数年は4分や5分の商品は店頭では当たり前になってきている。
「ノンフライ麺」の技術革新が目覚ましい
これは、「ノンフライ麺」の技術革新と名店監修カップ麺が多数発売されるようになったことに起因しているといっていい。
「ノンフライ麺」は、麺を油で揚げずに熱風で乾燥させる製法で作られた即席麺のことで、その魅力は、生麺に近い食感が再現されることだ。
即席麺の誕生以来、長らく油で揚げた「フライ麺」が主流だったが、ここ数年の技術革新により「ノンフライ麺」のクオリティが格段に向上、その結果、本格ラーメン店の味を再現するカップ麺の発売が目立つようになってきた。
カップ麺事情に詳しいB級フード研究家の野島慎一郎氏はこう語る。
「最近はノンフライ麺に加え、極太系のフライ麺が人気で、『5分待ち』がスタンダードになっている印象です」
有名店監修の本格派カップ麺は、4分や5分などが一般的になっている(筆者撮影)
特にコンビニエンスストアが仕掛ける本格カップ麺戦争が一気に加熱し、毎月のようにノンフライ麺の名店監修カップ麺が発売されるようになってきている。
コンビニに並ぶカップ麺。スーパーと比較すると、3分以上の湯戻しの商品が多い(筆者撮影)
ファミリーマートのカップ麺売り場を調査すると、置いてあった全60品のうち、3分のものが30品、一方、それ以上の湯戻し時間の商品は27品あった。
3分のものの多くは、「カップヌードル」などに代表されるメーカー各社から出ているレギュラー商品や、そのスピンオフ商品が主で、コンビニ限定の名店コラボ商品はほぼほぼ長尺カップ麺といえる。
一方、スーパーマーケットを見てみると、まだまだ3分ものが多い結果だった。
カップ麺自体のクオリティーが高まっている(筆者撮影)
全42品のうち、3分のものが29品。それ以上の湯戻し時間の商品は11品だった。やはりコンビニ各社が独自で仕掛ける本格カップ麺に長尺の傾向が多く見られる。
「時短」や「タイパ」という言葉が一般的になり、動画の倍速視聴が一般的になるなど、時間を節約したいというニーズが強い現代において、カップ麺の湯戻し時間が伸びているというのは興味深い動きである。
メーカー各社も、時間の短縮よりもカップ麺自体のクオリティーに重きを置いているということだろう。
55秒で完成という超タイパの良い一杯
一方、その動きに反するがごとく、超短尺のカップ麺も誕生している。
明星食品から発売されている「ザ・バリカタ55」は湯戻し時間55秒という前代未聞の短さを売りにしている。
「ザ・バリカタ55」は、文字通り熱湯を注いで55秒で完成(筆者撮影)
6月に発売された、高円寺にあるとんこつラーメンの人気店「健太」監修のカップ麺もこの「ザ・バリカタ55」シリーズ。博多ラーメンの特徴である極細麺を忠実に再現し、55秒で完成という超タイパの良い一杯を完成させた。
博多ラーメンならではの55秒という湯戻し時間だ(筆者撮影)
「1分待ちの商品は、実は以前から発売されています。1997年に東洋水産から発売された『俺の塩』は当時から1分待ちでした。豚骨系のカップ麺で極細麺を使って短尺設定になっている商品も昔からありましたが、短いだけが売りだった印象です。バリカタというよりも芯が残っている麺でした。
その点、『ザ・バリカタ55』も含めて、最近の短尺カップ麺はだいぶクオリティーが上がっていますね」(野島氏)
以前から「待ち時間は短いほうがいい」という考えはあり、短尺のカップ麺は昔からあったが、短尺すぎると麺が戻りきらず、クオリティー的には厳しかったということだろう。
しかし、今は技術革新によりそれが解決できている。今後は短尺のカップ麺も増えていくのではないか。
「カップ麺の待ち時間が短くて嬉しいという感覚は薄れてきている気はします。ノンフライ麺の5分待ちの商品が受け入れられたからこそ、今、一般的になっているという現実もあります。
一方、スープの温度のことを考えると、待ち時間が短いほうが美味しくなります。55秒と5分だと当然冷め方が全然違うんです。今後、熱いスープで食べてもらうために短尺のカップ麺を開発する流れも考えられそうですね」(野島氏)
ノンフライ麺の技術革新
ノンフライ麺の技術が向上し、長い湯戻し時間の本格派のカップ麺が増えた。コンビニ各社の名店監修商品の開発競争も、そこに影響を与えた。しかしその結果、熱々の状態で食べられる価値が再認識されるようになった。
この日棚に並んでいた「ねぎどっさり豚骨」と「辛味噌キムチ」は、1分茹で商品だ(筆者撮影)
また他方で、短い湯戻し時間のカップ麺もおいしく食べられるようになってきた。
今後もノンフライ麺の技術が一層革新すればどうなるのか。もしかすると、本格派のカップ麺であっても湯戻し時間が5分から3分に短縮し、熱々のスープでさらに美味しく食べられる。55秒どころか、30秒で食べられるカップ麺も登場する……そんな日が来るのかもしれない。
(井手隊長 : ラーメンライター/ミュージシャン)