2023年7月15日に販売開始となったカワサキの最新モデル「ニンジャZX-4RR KRTエディション」(写真:カワサキモータースジャパン)

カワサキが2023年3〜4月のモーターサイクルショー(大阪・東京・名古屋の3カ所で開催)で初披露し、大きな話題を呼んだ新型の400ccフルカウル・スポーツ「ニンジャZX-4R」シリーズが、2023年7月15日より発売を開始した。

250ccモデルがベースのコンパクトな車体に、最大80PSものパワーを発揮する高性能エンジンを搭載することで、高いパフォーマンスが期待できるニューモデル。しかも400cc・4気筒というエンジン自体、現在の国産バイクには存在しないこともあり、新たな選択肢となることでも注目だ。

ここでは、そんなカワサキの新型ニンジャZX-4Rシリーズについて、ようやく公開された国内仕様のスペックやラインナップ、価格などをもとに、その実力や商品力などを探っていく。

カワサキのニンジャZX-4Rシリーズとは


ニンジャZX-4RRのスタイリング(写真:カワサキモータースジャパン)

新型のニンジャZX-4Rシリーズは、2023年2月に欧州や北米など海外で先行発表されたあと、前述のとおり、日本では2023年3〜4月のモーターサイクルショーで初公開。日本仕様の正式発表は、2023年6月20日で、ラインナップには、最上級グレードの「ニンジャZX-4RR」と、ツーリングなどで使い勝手のいい装備を持つ「ニンジャZX-4R SE」を用意する。

いずれも二輪最高峰レース「MotoGP(モトジーピー)」や、市販車ベースで競う世界最高峰レース「WorldSBK(スーパーバイク世界選手権)」を戦うレーシングマシンを彷彿とさせるスタイルで、最新テクノロジーを投入した「スーパースポーツ」と呼ばれるジャンルに属するモデルだ。今や世界的に人気が高く、1000ccの大排気量モデルから125ccなどの小排気量車まで、さまざまなモデルを各メーカーがリリースしている。


1000ccエンジンを搭載し、最高出力149kW(203PS)を発揮するカワサキのスーパースポーツ「ニンジャZX-10R KRTエディション」(写真:カワサキモータースジャパン)

カワサキも同ジャンルに力を入れており、これまでにWorldSBKで戦うファクトリーマシンをモチーフとした1000ccの「ニンジャZX-10R」、600ccの「ニンジャZX-6R」、250ccの「ニンジャZX-25R SE」といった3タイプを用意。400ccの新型モデルは、それらの中間的ポジションに位置することになる。

なぜカワサキの400ccに注目が集まるのか?


新型ニンジャZX-4Rシリーズに採用されている400cc・4気筒エンジン(写真:カワサキモータースジャパン)

ニンジャZX-4Rシリーズが、日本で大きな注目を集めた背景には、前述のとおり、ひさびさに排気量400ccの4気筒エンジンを搭載したスポーツモデルとして登場したことだ。

かつて400ccモデルは、昔の自動二輪中型限定免許(いわゆる中免)や、今の普通二輪免許で乗ることのできる最大排気量であることもあり、若いエントリーユーザーなどから大きな支持を受けていた。とくに1980年代から1990年代半ば頃の「レーサーレプリカ」ブーム時は、各メーカーから同様のモデルが数多く発売され、いずれも大きなセールスを誇っていた。だが、ブームの終焉とともにラインナップは消滅。さらにカウルレスのネイキッドモデルでも、最新の排出ガス規制への対応が困難なこともあり、400cc・4気筒エンジンを搭載するモデル自体が消滅してしまった。

そんな中、カワサキが発表したのがニンジャZX-4Rシリーズだ。カワサキでは、このモデルの位置付けを「近年、増加傾向にある普通二輪免許を取得した若い世代」としている。つまり、かつての400ccバイクと同様、新しくバイクに乗りはじめるユーザー向けの入門モデルとしてリリースしたのだ。

だが、後述するスペックなどを見てみると、長年サーキット走行などを楽しんでいるベテランライダーなどにも、かなり訴求できる内容だと推測できる。おそらく、カワサキは、かつて隆盛を誇ったものの、現在では衰退している400cc・4気筒のスポーツバイクという「穴場」を狙うことで、他社にない個性的で独自性のある製品展開を狙ったのだろう。

新発売となったZX-4RRの特徴について


ニンジャZX-4RR KRTエディションのサイドビュー(写真:カワサキモータースジャパン)

そんなカワサキの新型モデルだが、まずは、最上級グレードのZX-4RRを中心に特徴を紹介しよう。正式名称は「ニンジャZX-4RR KRTエディション」。KRTとは、カワサキ・レーシング・チーム(Kawasaki Racing Team)の略称で、主に車体のカラーリングに特徴がある。カワサキが昔からレーシングマシンに採用するイメージカラーのライムグリーンをベースに、レーシーなグラフィックをあしらっているところがポイントだ。

とくにグラフィックなどは、WorldSBKなどを闘うカワサキのワークスレーサーをイメージしており、カワサキ・ファンから大きな支持を受けている。カワサキでは、このKRTエディションを特別にレーシーな仕様として、さまざまなモデルに設定。スポーティさを全面に出している新型のニンジャZX-4RRにも、当然ながら採用している。


ZX-4RRのフレーム(写真:カワサキモータースジャパン)

250ccモデルのニンジャZX-25Rをベースに、新設計した高張力鋼トレリスフレームを採用した車体は、とてもコンパクトだ。車体サイズは、全長1990mm×全幅765mm×全高1110mmで、ホイールベースは1380mm。シート高は800mmとなり、スーパースポーツモデルとしては足着き性もよいほうだろう。

搭載するパワートレインは、同じく新開発の399cc・水冷並列4気筒DOHCエンジン。スペックは、カワサキが400ccクラス量産車初と謳う最高出力57kW(77PS)/1万4500rpmを発揮。走行風を採り入れることでパワーを増大させるラムエアシステムの採用により、最高出力を最大59kW(80PS)/1万4500rpmまでアップさせることが可能。なお、最大トルクは39N・m(4.0kgf・m)/1万3000rpmだ。

前後ともショーワ製サスペンションを採用


フロントサスペンションとブレーキシステム(写真:カワサキモータースジャパン)

足まわりでは、専用セッティングのショーワ製「SFF-BPフロントサスペンション」を採用する。近年、多くのスポーツモデルに採用されているこのサスペンションは、片側フォークに減衰機構とスプリング、もう片側はスプリングのみを装備したもの。摺動抵抗の軽減による滑らかな動きと、車体の軽量化に貢献する。また、プリロード調整機構も備えることで、好みや走行状況などに応じスプリングの硬さを変更することも可能だ。


ショーワ製のリアサスペンション(写真:カワサキモータースジャパン)

リアサスペンションには、フルアジャスタブルタイプのショーワ製「BFRC-liteリアサスペンション」を採用する。これは、カワサキ製スーパースポーツのフラッグシップであるニンジャZX-10Rと同じタイプで、ストローク初期の優れた動きにより、日常走行では快適な乗り心地を実現。また、サーキット走行などより高い速度域では、良好な接地感を得られるような効果を持つ。さらに、縮み側、伸び側の減衰力調整機構や、スプリングの硬さを変えられるプリロード調整機構も備えることで、ライダーの好みに合わせた細かいセッティングを可能としている。


ZX-4RRのメーターまわり(写真:カワサキモータースジャパン)

最新の電子制御では、3つのモードで幅広いライディング条件をカバーする「KTRC(カワサキトラクションコントロール)」を搭載。滑りやすい路面など、さまざまな状況下で安定した車体の挙動維持をサポートする。2タイプから選べるパワーモードでは、400cc・4気筒エンジン本来の性能を楽しめる「フルパワーモード」を用意。

一方、「ローパワーモード」を選択すると、エンジン回転数、スロットルポジション、ギアポジションに応じ、出力とスロットルレスポンスの両方をシステムが低減。雨天や悪路など、走行状況に応じ最適化されたパワーデリバリーとスロットルレスポンスを提供する。さらに、KTRCとパワーモードを統合した「インテグレーテッドライディングモード」も用意し、トラクションコントロールと出力特性を、ライディングの条件に合わせて簡単に設定することも可能となっている。

また、シフトチェンジ時にクラッチレバーの操作が不要な「KQS(カワサキクイックシフター)」も採用する。これは、一般的にクイックシフターと呼ばれるもので、もともとは、レーシングマシン向けだったが、近年は多くの市販車にも搭載例が増えている機構だ。サーキット走行などでは、スムーズな加速とクイックでイージーな減速を実現。また、渋滞路はもちろん、ツーリングなどの長距離走行時でも、クラッチ操作を頻繁に行う必要がないことで、ライダーの負担を軽減してくれる。しかも、このモデルが採用するKQSは、シフトのアップとダウンの両方に対応するため、ライダーは加速時と減速時の両方で、よりライディングに集中することが可能だ。

シフトダウンで効果を発揮するオートブリッパーを搭載


ZX-4RRの走行イメージ(写真:カワサキモータースジャパン)

さらに、減速時のシフトダウンでエンジン回転を自動で合わせてくれる「オートブリッパー」機構も付いている。これは、例えば、ヘアピンなどの急なコーナー手前で、減速とともに6速から1速へギアを落とすなど、サーキット走行などで急激なシフトダウンを行うときに効果を生む。通常、クラッチレバーを握りギアを一気に落とす操作の際は、エンジン回転もかなり落ちるが、そこから再びクラッチをつなぐと、低いギアに落としたこともあり、エンジンの回転は急激に跳ね上がり、過度なエンジンブレーキがかかることがある。そうなると、後輪はスリップなどを起こしやすくなり、車体も安定しない。最悪な場合、転倒することもある。


正面から見たZX-4RR(写真:カワサキモータースジャパン)

そこで、従来のバイクでは、シフトダウンと同時にアクセルをあおり、エンジン回転数を下げすぎないようにして、エンジンブレーキをマイルドにしていた。「ブリッピング」というテクニックだ。オートブリッパーは、そうしたライダーの操作をバイクがやってくれる機構となっている。

人が行うブリッピングは、アクセル、ブレーキレバー、クラッチレバー、シフトペダルの各操作を、ほぼ同時にやる必要がある高度なテクニックだ。初心者などにはハードルも高く、慣れていないと危険ですらある。

一方、オートブリッパー付きKQSであれば、クラッチレバーやアクセルの操作が不要となるため、減速やシフトダウンの操作に集中できる。これは、初心者だけでなく、ベテランライダーにもうれしい機構だ。しかも、ギアを一気に落とすことで急激なエンジンブレーキが発生してしまうシーンは、なにもサーキットだけに限らず、一般公道でも起こりうる。そういった意味で、この2つの機構は、スポーツライディング時はもちろん、街中やツーリングでも、より安心感の高い走りに貢献するといえる。

ツーリングでも使いやすいZX-4R SEの特徴

対して、日本では今回初の発表となるニンジャZX-4R SEは、ツーリングなどにも対応する装備を施した仕様だ。エンジンや車体などの基本構成は、ニンジャZX-4RRとほぼ同じ。異なるのは、スパルタンな外観を生む「スモークウインドシールド」や、スマホなどの充電が可能な「USB電源ソケット」を装備すること。また、左右サイド部には転倒時などに車体のダメージを低減する「フレームスライダー」も搭載。バイクの操作にあまり慣れていないエントリーユーザーにも配慮したパーツも備えている。

また、ニンジャZX-4RRと大きく異なる点は、リアサスペンションだ。カワサキ独自の「ホリゾンタルバックリンクリヤサスペンション」を装備するが、フルアジャスタブルタイプではない。ただし、このサスペンションもリンク式で、沈み込み初期は柔らかめで、深く沈み込むにつれて硬くなる特性を持ち、優れたコーナリング性能に貢献する点は同様だ。ニンジャZX-4RRのリアサスペンションように、減衰力などの細かいセッティングこそできないが、公道走行がメインであれば、十分に快適でスポーティな走りを楽しめる。


メタリックフラットスパークブラック×メタリックマットグラフェンスチールグレーのZX-4R SE(写真:カワサキモータースジャパン)


キャンディプラズマブルー×メタリックフラットスパークブラックのZX-4R SE(写真:カワサキモータースジャパン)

なお、ニンジャZX-4R SEでは、車体色に「メタリックフラットスパークブラック×メタリックマットグラフェンスチールグレー」と「キャンディプラズマブルー×メタリックフラットスパークブラック」の2色を設定。レーシーな雰囲気のニンジャZX-4RR KRTエディションと比べると、より街中などにもマッチングしやすいカラーバリエーションだといえるだろう。

ZX-4Rシリーズの価格とライバルモデルについて

ニンジャZX-4Rシリーズは、価格設定も絶妙だ。価格(税込)は、ニンジャZX-4RRで115万5000円、ニンジャZX-4R SEで112万2000円と、いずれもライバル車をかなり意識していることがうかがえる。

ライバル車といっても、他メーカーに400cc・4気筒のスポーツモデルはないが、逆にいえば、より排気量が大きいモデルにも十分に比較対象となりそうなモデルは多い。


ヤマハのYZF-R7(写真:ヤマハ発動機)

例えば、エントリーユーザーからベテランライダーまで対応しつつ、レーシーな色合いも強い点では、ヤマハ発動機(以下、ヤマハ)の「YZF-R7」がある。同社のフラッグシップで、1000ccスーパースポーツの「YZF-R1」を踏襲するスタイルや装備を持ち、扱いやすい688cc・直列2気筒エンジンを搭載したフルカウルモデルだ。

YZF-R7の価格(税込)は、105万4900円だから、ニンジャZX-4RRより10万円ほど安い。一方、スペック的には、例えば、YZF-R7のエンジンは最高出力54kW(73PS)/8750rpmだから、ニンジャZX-4RRの最高出力57kW(77PS)/1万4500rpmのほうが高い。しかもラムエア加圧時、ニンジャZX-4RRは59kW(80PS)を発揮する。もちろん、最大トルクは、排気量がより大きいこともあり、YZF-R7は67N・m(6.8kgf・m)/6500rpmで、ニンジャZX-4RRの39N・m(4.0kgf・m)/1万3000rpmよりも大きい。そのため、走る場所によって得意・不得意はでるだろう。だが、ニンジャZX-4RRは、400ccモデルでありがら、格上となる700ccマシン・YZF-R7と互角か、それ以上のパフォーマンスを発揮することが期待できる。


YZF-R7のサイドビュー(写真:ヤマハ発動機)

なお、車体では、YZF-R7は全長2070mm×全幅705mm×全高1160mm、ホイールベース1395mmだから、ニンジャZX-4RRより大柄だ。ただし、車両重量では、ニンジャZX-4RRの189kg(ニンジャZX-4R SEは190kg)に対し、YZF-R7は188kg。重さはほぼ同じだ。しかも2気筒エンジンであることで、車体がかなりスリムなため、扱いやすさも抜群だ。この点でも、250ccベースで、軽量・コンパクトな車体を持つニンジャZX-4RRとかなりいい勝負となりそうだ。

あとは、運転できる免許だが、ニンジャZX-4RRが普通二輪免許で乗ることができるのに対し、YZF-R7は取得のハードルがより高い大型二輪免許が必要だ。エントリーユーザーなどにとって、入門バイクとなりやすいのは、ニンジャZX-4RRのほうかもしれない。


ホンダのCBR650R(写真:本田技研工業)

一方、より公道走行に向けた仕様といえるニンジャZX-4R SEは、例えば、ホンダの「CBR650R」あたりがライバルになるかもしれない。648cc・4気筒エンジンを搭載し、サーキット走行よりも、ワインディングなどでのスポーティな走りを重視したモデルだ。こちらの価格(税込)は、107万8000円〜111万1000円だから、ニンジャZX-4R SEの112万2000円とかなり近い。

ただし、エンジンのパワーは、CBR650Rが最高出力70kW(95PS)/1万2000rpm、最大トルク63N・m(6.4kgf・m)/9500rpmとより大きい。直線などでの加速ではCBR650Rのほうが有利な気もするが、車両重量が208kgと、ニンジャZX-4R SEの190kgもよりも18kgも重い。15〜18PSといったパワーの差が走りの余裕となるかは、一概には言えず、走る場所によっては互角になるケースもあるだろう。

また、CBR650Rには、USBソケットなどの装備はないので、バイクでスマホの充電などはできない。また、運転には、こちらも大型二輪免許が必要となるため、エントリーユーザー向けのハードルの低さという点でも、ニンジャZX-4R SEに軍配が上がるだろう。

ニンジャZX-4Rシリーズの行方


東洋経済オンライン「自動車最前線」は、自動車にまつわるホットなニュースをタイムリーに配信! 記事一覧はこちら

いずれにしろ、ニンジャZX-4Rシリーズは、かなり市場から注目されていることだけは確かだ。その証拠に、カワサキは、2023年3月の発表当初、国内の発売時期を「2023年秋頃」としていたが、その後、夏の7月15日発売に前倒しした。おそらく、それほど市場からの反響が大きかったのだろう。400cc・4気筒のスポーツバイクという、「古くて新しい」ジャンルに投入したモデルがニンジャZX-4Rシリーズ。こうしたカワサキの戦略に対し、市場が今後どのように反応していくのかが気になるところだ。

(平塚 直樹 : ライター&エディター)