「米海軍特殊部隊」元指揮官のトラブル対処法
特殊部隊の世界ではレジェンドと呼ばれる伝説の指揮官ジョッコ・ウィリンクが教えるトラブル対処法とは(写真はイメージ。写真:nazarovsergey/PIXTA)
受け入れがたい現実を前にして、思考停止に陥ってしまうことはないだろうか。極限状態をくぐり抜けてきたネイビーシールズの元指揮官、ジョッコ・ウィリンクは、そんなときにどう対応しているのだろうか。
『「週4時間」だけ働く。』の著者として知られるティム・フェリスが、現代のパイオニア106人に成功の秘密を聞きまくってまとめた本『巨神のツール 俺の生存戦略』の『知性編』の中から、紹介しよう。
ジョッコの信念は「規律=自由」
ジョッコ・ウィリンクは、想像するかぎりもっとも畏怖されている人間の1人だ。
体重は100kgを超え、しかも筋肉質。ブラジリアン柔術の黒帯保持者で、トレーニングのたびに20人ものネイビーシールズ(海軍特殊部隊)の隊員をなぎ倒してきた。
特殊部隊の世界ではレジェンドと言われていて、彼の目は相手を見るのではなく、相手を見通している。
ジョッコがインタビューに応じてくれたのは私が初めてだったので、ネット上に旋風を巻き起こした。
「ビルボードに掲載したいメッセージは?」という質問に対して、ジョッコはこう答えた。
「私の信念はとてもシンプル。『規律=自由』だ」
私の解釈では、ジョッコは何よりも、明確な自由意思と成果を得るには、肯定的な制約を課す必要がある、と言いたいのだと思う。
自由な日々はのどかに思えるかもしれないが、選択のパラドックス(「今、何をすべきか?」)や意思決定の疲れ(「朝ごはんに何を食べるべきか?」)によって、だんだん投げやりになってしまう。
これに対して、あらかじめ決められたシンプルなトレーニングのようなものが足場の役割を果たせば、僕たちは生き生きとして計画を立てたり、毎日を過ごすことができる。
主体的に行動しているという感覚が得られ、自由を実感できるのだ。
ジョッコによると「生活の中に自由──金銭的な自由、時間的な自由、健康的な自由など──を求めるなら、規律によってこれらの自由を手に入れることができる」。
バックアップを用意しておけ
「2は1であり、1は0である」
これは、ネイビーシールズでよく使われる表現で、ジョッコいわく「バックアップを用意しておけ」という意味だ。
2つのものを持っていたら、1つが壊れたり失くなったとしても1つは残る。1つしか持っていないと、壊れたり失くしたりしたらひどい目に遭ってしまう。
作家フランツ・カフカの言葉に、私の好きなフレーズがある。「必要ないものを持っている方が、必要なものを持っていないよりいい」。
人生や仕事において、どこで「単一障害点(いわゆる隘路)」を取り除くことができるか?
ジョッコはこう付け加えた。「バックアップの道具を持つだけではダメ。起こりうる非常事態に備えてバックアップの計画を立てなければならない」。
優れた指揮官の資質とは
ティム:優れた指揮官の資質は?
ジョッコ:真っ先に思い浮かぶのは「謙虚さ」。謙虚でありながら、優れた指導者でなければならない。
シールズチームで訓練を行っていたとき、指導能力がなかったので、各チームのリーダーをクビにしようとしたことがある。
その主な理由は、武器を扱う能力に問題があったからではなく、体力に問題があったからでもなく、危険行為をしたからでもない。
相手の話を聞く能力、心を開く能力、よりよい方法を探す能力に問題があったから。そう、謙虚さに欠けていた。
ジョッコ:彼らには、困難だがやりがいのある、現実的な訓練を受けさせた。その訓練を経験した人は、今なら思い出して笑えるだろう。あまりにリアルだったから。いや、精神異常ぎりぎりだったかもしれない。
過剰なプレッシャーをかけて、精神的に打ちのめした。
いいリーダーなら、戻ってきてこう言うだろう。
「限界です。無理でした。うまくできませんでした。何が起こっているのかわかりませんでした。目の前にある戦況に没頭しすぎてしまいました」。そして自分自身を痛烈に非難するか、あるいは「何がまずかったのか?」と聞いてくるだろう。
その答えを言ってやると、彼らはうなずいてメモを取ろうとする。こういう人は、きちんと助言を理解して、成功するはずだ。
一方謙虚さに欠ける横柄な人は、他人からの非難を受け入れることができず、自分はすべてを理解していると思っているから、誠実に自己評価することができない。
とにかく謙虚な気持ちを忘れてはならない。
ジョッコのトラブル対処法
ジョッコ:挫折、失敗、遅延、敗北などの大きなトラブルにどのように対応しているかって? 私は実にシンプルな方法で対応している。
これらのすべての状況を解決できるすばらしい一言がある。それは「いいね」だ。
これは、私の直属の部下で、その後親友になった奴が指摘してくれたことなんだ。
大きなトラブルが起こったり、なかなか解決できないでいたりすると、彼は決まって私を脇に引っ張り込んで、次のように言うんだ。
「ボス、困ったことにあれもこれもうまくいっていない。どうしよう」
そして私は彼を見てこう言ってたんだ。「いいね」
とうとうある日、彼が私に、例によって悪い報告をし終えるやいなやこう付け加えた。
「あなたがこの後に何を言おうとしているか、わかるよ」
「なんて言おうとしているんだ?」
「『いいね』だろ?」
さらに彼は続けた。
「いつもこう言うからね。何か間違ったことが起こると、私を見て『いいね』って言うんだ」
それに対して私は答えた。
ジョッコ:「本当にそう思っているから。それが私のやり方だ」
物事がうまくいかなくなったときでも、そこから何かしらいいことが生まれるんだ、と説明した。
・作戦がキャンセルになった? いいね。ほかの作戦に注力しよう。
・新しい高速ギアが望みどおりに手に入らなかった? いいね。シンプルでも十分にやっていける。
・昇進できなかった? いいね。腕を磨く時間ができた。
・資本を調達できなかった? いいね。会社の持ち分が減らずにすむぞ。
・希望する仕事に就けなかった? いいね。別の仕事で経験を積めば、もっといい履歴書が書けるぞ。
・ケガをした? いいね。トレーニングに一息入れるチャンスだ。
・試合に負けた? いいね。本番でなく練習試合でよかった。
・負けた? いいね。敗北から学べる。
・予期しない問題が起こった? いいね。解決策を考えるいい機会だ。
以上。物事がうまくいかなくなっても、がっかりせず、がく然とせず、イライラしないこと。絶対に。問題を眺めて、こう言おう。「いいね」
「いいね」と言えるということは…
ジョッコ:ところで私は、空疎ななぐさめを言うために、ミスター・スマイルになろう、と言っているのではない。
そんな姿勢では、受け入れがたい現実を無視してしまう。前向きな態度でいれば問題は自然に解決できるとついつい考えてしまう。
しかしそんなことはありえない。問題について深く考えないからだ。それではダメ。
現実を受け入れつつ、解決策を考える。問題を真摯に受け止め、失敗を受け入れ、問題に対応し、それをいい状況に変える。前に進むのだ。
チームの一員として問題に取り組んでいる場合は、このような態度をチーム全体に広めよう。
最後に、このことを心に留めておいてほしい。「いいね」と言えるということは、何を意味しているか?
それは、活動を続けるということ。生きているということだ。
生きているということは、自分の中に闘志が残っているということ。立ち上がり、ほこりを吹き飛ばし、燃料を再度満タンに詰め、目標を定め直し、改めて戦闘態勢に入り、攻撃を始めよう。
どうだい? これ以上に最高なことはないだろう。
(ティム・フェリス : 起業家、作家)