激変する自動車業界で、販売台数111万台(2022年度)の中規模メーカーであるマツダがどのように勝ち残るか。毛籠新社長にかかる期待は大きい(写真:マツダ)

マツダが新しい経営体制に移行した。6月27日に社長に就任した毛籠(もろ)勝弘氏は営業のキャリアが長く、生産や技術部門以外の出身の社長就任は10年ぶりとなる。

マツダは2022年11月に、2030年のグローバル販売におけるEV比率を25〜40%を目指すと発表、段階的に電動化を進める方針を打ち出した。ただ、グローバルでEV(電気自動車)シフトが加速する中、出遅れ感は否めない。マツダにとっての最重要市場であるアメリカでは、政策的なEV優遇が強まっている。足元で急激なNEV(新エネルギー車)移行が進む中国では、マツダも含めた日本メーカーは販売不振に喘いでいる。

こうした状況をどう打破していくのか。毛籠新社長に聞いた(7月14日のメディア向けラウンドテーブルを基に東洋経済が構成)。

EVシフトでは「意思を持ったフォロワー」

ーーグローバルで進むEVシフトにどう対応しますか。

バッテリーEVへのシフトについては、フロントランナーにはならないと考えている。バッテリーEVへのシフトというのは、取引先を含めてサプライチェーンを大きく作り替えていくことだ。サプライヤーと一緒にこの波を越えていくには、一定の時間軸の中で取り組んでいきたい。

したがって2030年までは、バッテリーEVについては「意思を持ったフォロワー」という位置づけで、真摯に新しい技術を学び、蓄積して、私たち自身の技術開発もしながら、電動化へのシフトを進めていく。

電動化の進展は、地域ごとにかなり差がある。中国は間違いなく電動化一直線だ。なので現地の合弁パートナーである長安汽車と一緒になって、2025年頃からバッテリーEVを出していく。

ヨーロッパもある程度は電動化が進むだろう。ただアメリカは全般的には電動化が進むが、州によってまったく進展速度が違うだろう。ちょっとややこしいなという感触を持っている。大統領選もあるので、進展の仕方が不透明だ。

ーーアメリカでは昨年、インフレ抑制法(IRA)が成立しました。EV購入にあたり最大7500ドルの税額控除を受けるためには、北米で最終組み立てされた車両であることを前提に、搭載する電池の材料や部品の調達先にも条件が課されています。北米でのEV生産や電池調達でどのように対応しますか。

どこかの時点では、現地で電池調達をして自動車を生産しなければならない。その準備をいろいろと開始する。IRAの効力は2032年までなので、それまでにはある程度の設備投資をやっていかなければいけないと考えているが、2025年頃からアメリカでどんどんバッテリーEVを出すということはない。

他社と競争する上で大事になるのは、バッテリーEV専用プラットフォームと、ECUやセンサーなどを繋ぐシステム構造である電気/電子アーキテクチャだ。電気/電子アーキテクチャはトヨタと協力しており、開発のタイミングを見ながら投入の照準を合わせていく。

ーー6月に、パナソニックと電池調達について協議を開始しました。これは北米を想定しているのでしょうか。

パナソニックと協議しているところだが、まずは日本から始めたい。ただ、北米でも電池調達をしていかなければならないので、その時はパートナーとしてパナソニックが有力だ。

中国での反転シナリオを準備

ーー中国ではEVを含めたNEV(新エネルギー車)へのシフトが急激に進んでいます。

中国はコロナ禍の数年で相当、(NEVの)競争が進んだ。バッテリーというよりも、すでに知能化の競争に入った感じがする。今後は競争に敗れて落ちていく会社が多いんだろうなという印象を持っている。

中国のお客様はEVを購入する方が多く、そのパイがどんどん広がっていくことも明らかだ。内燃機関車とハイブリッド車(HV)だけではお客様を取れないので、現地パートナーの技術を使ったバッテリーEVを柱に据えて事業を成長させていく。

ーー今年度は北米専用SUVの「CXー50」を中国に投入します。5月末にガソリンモデルを発売し、11月にはハイブリッドモデルも発売します。

商品力のあるCX-50を投入したので、それを販売台数増加のテコにする。ただ、想定していたほどの数量を前提に置くと生産が過剰になると思うので、できるだけ生産を絞って立ち上げていく。

ーー中国でバッテリーEVの新車種を2025年頃に投入する、と。となると、あと1年半ほどは厳しい局面が続きます。

 内燃機関車の価格下落はある程度続くという想定を置かざるを得ない。したがって、足元の採算は非常に厳しいものになるだろう。ただ大事なのは、そこから反転するシナリオがあるかどうかだ。そこについては現地パートナーと話ができている。これからの約1年半で、販売店を含めてどう反転に向かって準備を進めていくのかが当面の課題になる。

ーーPBR(株価純資産倍率)は0.6倍程度と、国内乗用車メーカー7社の中でも低位に沈んでいます。電動化について「意思を持ったフォロワー」では株式市場からの評価は低いままになりませんか。

 電動化が遅いのが悪かのようにおっしゃるが、それは戦略の話だ。ただ、カーボンニュートラルやESGの投資に関する考え方や時期、規模については、投資家などともっとコミュニケーションを図っていかなければならない。これまではそれが不透明だったので、「この会社は大丈夫か」と思われていた。そのあたりは新体制で変えていく。


もろ・まさひろ/1960年生まれ。1983年マツダ入社。主にマーケティング畑を歩む。欧州子会社副社長やアメリカ子会社の社長や会長を歴任。2019年に取締役専務執行役員。2021年からはコミュニケーション・広報・渉外などを統括。2023年6月から現職(記者撮影)

ーーそれでPBRをどのように向上させるのですか。

 収益をちゃんとあげる、それから1株あたりのリターンをよくする、それを通じて株価を上げる。これしかないと思う。

 還元については、従業員還元と株主還元の2つをしっかりやっていく。前期の年間配当金は45円と過去最高額だったが、まだ少ない。マツダは過去、しっかり稼いでそれを還元していくということがあまりできてこなかったので、そこは着実に配当性向を改善させるべく取り組んでいく。それは実績で示していくしかない。

ギガキャストの評価は完了

ーー車体部品の一体成形技術「ギガキャスト」の採用に各社が動き出しています。マツダのスタンスは。

 ギガキャストについて、すでに評価はだいたいできている。ギガキャストを導入することで、どこで何が効率化できて、逆にどんなデメリットがあるのかということは理解した。なので、技術開発をして、導入しようと思えばできるんじゃないかなと思っている。

 ただ、全体的な投資効率を考えると、バッテリーEVの生産は数量が上がるまでは内燃機関車との混流生産でやるべきだと思う。混流生産のラインにギガキャストを放り込むのが本当にいいのかについては、疑問が生じる。バッテリーEV専用の生産ラインを設置するなら、メリットがたくさんある。

ーー6月にロータリーエンジンを発電機とするPHV(プラグインハイブリッド車)「MX-30」を欧州向けに量産開始しました。国内への投入時期は。

 国内でも出したいとは思っているが、時期についての最終決定はまだしていない。欧州の反応をまずは見たい。品質やお客様の評価を確認することが大事だと思う。


ロータリーエンジンを実用化したことで知られるマツダ。そのロータリーエンジンを発電機として使用するPHV「MAZDA MX-30 e-SKYACTIV R-EV(欧州仕様車)」(写真:マツダ)

ーーマツダのファンづくりやブランド価値向上策は。

 草の根のモータースポーツ活動を強化していくことは当然として、マツダファンやお客様が色んな車の楽しさを体感いただけるイベントを充実させていきたい。われわれからお客様に近づいていくという考え方で取り組みをしていく。

 また、そうした活動の事業化を考えていきたい。できれば別法人でやりたいと思っている。マツダの中のサイクルでやると間延びしてしまうこともあるので、お客様に早く対応できるような組織にするとなると、なんらかの別法人にしてやっていかなければならない。時期については可及的速やかに走りたい。


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(村松 魁理 : 東洋経済 記者)