外資系管理職に共通する、意思決定、部下育成、権限委譲などの仕事のルールについて解説します(写真:EKAKI/PIXTA)

「日本人の2倍働いて3倍稼ぐ」と言われる外資系管理職だが、どうすれば、そのような働き方ができるのか。また、AI・テクノロジー社会で生き残る管理職の条件とは何か。

このたび、ロングセラー定番書の新版『新 管理職1年目の教科書 外資系マネジャーが必ず成果を上げる36のルール』を刊行した櫻田毅氏が、「2倍働き、チームの成果を最大化」する外資系管理職に共通する、意思決定、部下育成、権限委譲などの仕事のルールについて解説する。

社会環境やビジネス環境の変化の中で、チームの責任者としての管理職の意思決定は、ますます重要になってきます。年功序列から実力本位の評価、登用への移行を背景に、判断能力に欠ける管理職は次第に淘汰されていくでしょう。


判断力が試される局面の一つが、時間をかけて進めてきた仕事がうまく進んでいないときです。

そのまま続けるのか、何らかの修正を加えるのか、あるいはいったん止めるのかなど、正解がない中での厳しい選択が求められるのです。

管理職として「最悪の選択」

そのような局面で、管理職として絶対にやってはいけない最悪の選択があります。それをやってしまうと、上司からも部下からも、一発で、この人は判断能力のない人だと見なされてしまいます。

それは、「ここまでやってきたのだから、もう少し様子を見よう」という判断です。

なぜならば、「ここまでやってきた」ということと、「この先うまくいく」ということの間には、論理的には何の関係もないからです。したがって、そのまま続けることの理由にはならないのです。

しかも、目の前にうまくいっていない現実があるのです。にもかかわらず、「もう少し様子を見よう」というのは、「うまくいっていない状態を放置します」と言っているのと同じです。

「うまくいっていない仕事を、私は放置すると決めました」。これは、責任ある立場の人として最悪の選択です。そのまま、何の手も打たずに続けてしまうと、多くの場合、取り返しのつかない結果を招くことになります。

私は長らく、日米の資産運用業界で働いてきました。資産運用会社の仕事は、投資家から委託された資金を株式や債券などに投資して、目標に応じた運用成果を上げることです。その投資判断をしているのがファンドマネジャーと呼ばれる人たちで、詳細な企業調査と独自の判断基準に基づいて選んだ企業に投資します。

「買った株が値下がりしたときの判断が難しい」という声をよく聞くので、ある資産運用会社の辣腕ファンドマネジャーPさんに、そのことを聞いたことがあります。

Pさんの答えは、「状況が変わったのか変わらないかによる」とのこと。その企業の業績などと比較して、いまの株価が割安だと判断したから買ったのである。値下がりしても前提条件に変化がなければ、かえって割安度が増したことになるので持ち続ける。

しかし、見過ごしていた情報が明らかになったり、業績の読み違いだったりした場合、分析の前提が変わった、すなわち状況が変わったので損切り(損失覚悟の売却)する。

売るべきときに、「ここまで持ったのだから」とか「いま売ると損が出るから」などと考えてダラダラと持ち続けると、たいてい大損する。「いまだったら、その株をあらためて買うのか?」と自問してイエスなら保有、ノーなら売却とのこと。

このようにして投資銘柄群を常にベストの状態にしておくことが、運用を任されているファンドマネジャーとしての責任だと言うのです。

「ここまでやってきた」は理由にならない

私たちも、うまくいかないことが薄々わかっていても、「ここまでやってきた」ことを理由に、その状況から目をそらしてしまうことがあります。そこには、次のような心理があります。

失敗を認めたくないという自己防衛の気持ち投じた資金や時間を損失として確定させることへの抵抗もしかしたら一発逆転できるかもしれないという根拠のない期待

しかし、これすなわちPさんの言う大損パターンです。このようなときの判断基準は「ここまでやったのだから」という過去ではなく、「いま始めるとしても、同じことを同じやり方でやるのか?」といった現在に置くべきです。

状況が変わっておらず「イエス」であれば必要な改善をしながら続行、状況が変わったので「ノー」であれば、方針を根本的に見直すか終了、「ここまでやったのだから」という判断は「ノー・サンキュー」です。

「ここまでやったのだから」という理由で失敗をした有名な例として、英仏の企業が世界初の超音速旅客機として開発・製造に取り組んだ「コンコルド」があります。

燃費の悪さ、凄まじい騒音、高価な機体。これでは採算がとれないと指摘されながらも、政府による赤字補塡のもとで継続されました。ここで中止したら、これまでの投下資金と費やした時間が無駄になるということでしたが、結局は、それ以上の大赤字を残して幕を閉じました。

この事例から、「ここまでやってきたから」という根拠のない理由で続けてしまう心理現象は、「コンコルド効果」と呼ばれています。

ゼロベースで決断したインテル

これに対して、現在マイクロプロセッサ(超小型演算処理装置)界の王者として君臨している米インテルは、80年代に、当時の主力事業であったDRAM(半導体メモリの一種)から撤退するという大きな決断を行いました。一時、実質的に市場を独占していたDRAM事業ですが、低価格・高品質の日本企業の猛追にあい、利益率の低い価格競争に巻き込まれていたのです。

のちにCEOとなるアンドリュー・グローブ氏が「自分たちがクビになって、過去にしがらみのないCEOが外部から来たらどうするだろうか?」という問いを経営陣に発することで、過去ではなくゼロベースで未来に目を向けた決断ができたのです。「ここまでやってきたのだから」という発想からの決別が、いまの成功へとつながっています。

もし、あなたのチームの中で、うまくいっていないにもかかわらず「ここまでやったのだから」という理由で続けている仕事があったとしたら、即刻検討し直すべきです。

「いま始めるとしても、同じことを同じやり方でやるのか?」と自ら問い、継続か、修正か、終了かを判断するとよいでしょう。やめるという決断には勇気が必要ですが、インテルのように、それが次の成功を手にするためのステップにもなります。

(櫻田 毅 : 人材活性ビジネスコーチ)