海自の“頼れる先輩”に? イタリアと日本、空と海で急接近のワケ F-35Bの運用で協力へ
最新鋭の哨戒艦が初来日したことでも話題になったイタリア海軍と、海上自衛隊が具体的な協力方針を打ち出しました。F-35Bの運用について、なぜあえてイタリア海軍と協力するのでしょうか。日本とイタリアの防衛関係はますます深まりそうです。
イタリア海軍とF-35Bの運用について協力
2023年6月、海上自衛隊の横須賀基地にイタリア海軍の最新鋭の哨戒艦「フランチェスコ・モロジーニ」が初来日して話題になりましたが、さらに海上自衛隊の酒井良海上幕僚長は7月4日、イタリア海軍とF-35戦闘機の運用で協力していく方針を記者会見で明らかにしました。
来日したイタリア海軍の哨戒艦「フランチェスコ・モロジーニ」(乗りものニュース編集部撮影)。
その理由について酒井海上幕僚長は「イタリア(海軍)の空母もF-35(B)を搭載している」と説明した上で、イタリア海軍とはF-35Bの艦上運用についての情報交換ができるという見解を示しています。
この背景を知るために、航空自衛隊が進めるF-35の導入計画と、それらをいずも型護衛艦で運用する方針について、おさらいしておく必要があるかもしれません。
政府は2018(平成30)年12月に、航空自衛隊が保有しているF-15J/DJ戦闘機200機のうち、能力向上改修に適さない初期に導入したPre-MSIPと呼ばれる100機を、F-35Aと最大42機のF-35B(F-35のSTOVL〈短距離離陸垂直着陸〉型)の合計105機で更新し、F-35Bは必要に応じて、海上自衛隊のいずも型ヘリコプター搭載護衛艦で運用する方針を発表しています。
この方針に則り、海上自衛隊はいずも型の改修と、F-35Bをいずも型で運用するための知見の収集に努めているのです。
海上自衛隊はその一環としてアメリカ海兵隊に協力を要請。アメリカ海兵隊は2021年10月3日に岩国航空基地へ前方展開している第242海兵全天候戦闘攻撃中隊(VMFA-242)所属のF-35B2機を使用して、ヘリコプター搭載護衛艦「いずも」における短距離離陸および垂直着陸(STOVL)の実証試験を実施しています。今回の発表で、イタリア海軍ともそうした試験を実施する可能性が出てきたわけです。
ただ、同盟国アメリカの軍隊であり、アメリカ海軍の強襲揚陸艦でF-35Bの艦上運用の経験も積んでいるアメリカ海兵隊はともかく、「なぜ海上自衛隊がイタリア海軍と協力するの?」と、思われた方も少なくないのではないかと思います。
そのカギを握るのが、同海軍の保有する空母「カヴール」です。
いずも型に似た道をたどるイタリア艦
満載排水量2万7100tの空母「カヴール」は、いずも型(推定満載排水量2万4000t)よりもやや大型の艦で、F-35Bを運用する前提で設計されました。同空母はいずも型より一足早い2019年12月から、飛行甲板の耐熱性強化など、F-35を運用するための改修工事を実施しており、2021年3月末にはF-35Bが運用できる艦であるか否かを評価する、アメリカによる試験をパスしています。
イタリアでは2018年に成立したコンテ政権から現在のドラギ政権に至るまで、政権与党の一翼を担う左派政党の五つ星運動が、海軍と空軍のF-35の導入を取りやめる政策を掲げた(その後、年間調達機数の削減に方針転換)ことなどから、イタリア海軍はまだ3機しかF-35Bを保有していません。
しかしイタリア海軍には、「カヴール」と現在はヘリコプター揚陸艦となっている軽空母「ジュゼッペ・ガリバルディ」にて、STOVL戦闘機であるAV-8B「ハリアーII」を30年近く運用した経験があります。この経験値は海上自衛隊にとっても、大いに学ぶところがあるはずです。
またイタリア軍は空軍が導入するF-35Bを「カヴール」で運用する事も検討しています。航空自衛隊のF-35Bを必要に応じていずも型に搭載する海上自衛隊にとって、イタリア海軍は空軍機を海軍の艦艇で運用するノウハウを、共に構築していくパートナーになれるのかもしれません。
「いずも」で発着艦テストを行うアメリカ海兵隊のF-35B戦闘機(画像:アメリカ海兵隊)。
ところで、現在ヘリコプターやオスプレイが発着している海上自衛隊のおおすみ型輸送艦は、3隻とも艦齢が20年を超えており、近い将来、後継艦について考える必要があります。ここで、いずも型がドック入りで使えない場合や、同型が本来任務である対潜作戦に専念しなければならない場合に備えて、おおすみ型にF-35Bの運用能力を与えるか否かを考える必要があります。
かたやイタリア海軍は「カヴール」がドック入りなどで使用できない場合、F-35Bを搭載して空母としての役割を果たす強襲揚陸艦「トリエステ」を2019年に就役させています。イタリア海軍が同艦の運用で得た知見を海上自衛隊が共有できれば、おおすみ型後継艦の仕様の策定も、スムーズに進められるのではないかと筆者(竹内 修:軍事ジャーナリスト)は思います。
イタリアは近年、中国の覇権主義的な動きを警戒して、インド太平洋地域への関与を強めており、6月の哨戒艦「フランチェスコ・モロシーニ」の横須賀寄港も、その一環として行われました。海上自衛隊のF-35Bの運用における協力だけでなく、現在進められている航空自衛隊パイロットの教育委託、次期戦闘機の共同開発など、イタリアと日本の防衛協力は、ますます強固なものになっていきそうです。