ウクライナへ工場進出“一番乗り” 独防衛企業ラインメタル 計画の全貌明らかに 日本もこれから縁深く?
ドイツの防衛企業ラインメタルが、ウクライナで合弁企業を設立し、現地で軍用車の製造に乗り出します。他の防衛企業に一歩先んじる同社は、日本では馴染みが薄いですが、今後、関係が深くなる可能性もあります。
ウクライナで製造するのは世界2300両採用の装甲車
ドイツの防衛関連大手ラインメタルが、ウクライナ国営防衛企業ウクロオボロンプロムと合弁企業を設立し、ウクライナ西部で装甲車の製造と修理を行う計画です。両者は2023年5月、ウクライナにおける防衛技術能力の強化に合意し、ラインメタルのアーミン・パッペルガーCEO(最高経営責任者)は7月10日、CNNのインタビューでこれを「12週間以内に操業させる」と明言しました。
さらにパッペルガーCEOは、2024年に各種砲弾の生産数を現状の10万発から、ウクライナの需要見込みの60%を賄える、60万発に増やす方針を表明したほか、ウクロオボロンプロムとの合弁工場で製造される車両も明かしました。ラインメタルが開発した装輪装甲車「フクス」だといいます。
2022年6月にパリで開催された防衛装備展示会「ユーロサトリ2022」にラインメタルが出展した最新仕様の「フクス」ハイルーフ型(竹内 修撮影)。
フクスはダイムラーベンツの軍用車両部門が開発した6輪駆動の装甲兵員輸送車で、買収により現在はラインメタルの製品となっています。
ラインメタルは装甲兵員輸送車型のほかレーダー搭載型、電子戦型、指揮通信車型、装甲工兵車型、EOD(爆発物処理)車型、NBC偵察車などの派生型に加えて、発展改良型のフクス2も開発。ドイツ連邦軍やアルジェリア陸軍などに約2300両が採用されており、現在も改良が続けられています。
パッペルガーCEOはどのタイプのフクスをウクライナで製造するかは明らかにしていませんが、ラインメタルがウクライナでの兵器生産に舵を切ったことで、同国での兵器生産を躊躇していた欧米の防衛関連企業が後に続く可能性はあると筆者(竹内 修:軍事ジャーナリスト)は思います。
ドイツと栄枯盛衰をともにしてきたラインメタル
ラインメタルは1889年にドイツのデュッセルドルフで創業した老舗企業です。
ドイツは第一次、第二次の両世界大戦に敗れています。ラインメタルは第一次世界大戦の敗戦後、しばらくの間、タイプライターなど民生品の製造で会社を存続させ、その後はドイツの再軍備と共に業容を拡大。1936年に機関車メーカーのボルジッヒを買収し、ドイツを代表する重工業メーカーとなりました。
しかし第二次世界対戦の敗戦後、東ドイツ側の生産施設は同国政府によって国営化されてしまいます。同社は西ドイツに残された施設で再出発を図ったものの、1950年まで一切の商業活動を禁止され、禁止解除後もタイプライターやエレベーターなどの民生品の製造などでしのぐこととなりました。
再び防衛関連事業に進出したのは、西ドイツ国防軍の再軍備が開始された1956年のことで、当初は機関銃などの軽火器や弾薬などを手がけ、1964年からは重火器の開発を再開。ドイツの銃器メーカーのマウザーや、スイスの防衛企業であるエリコンなどを買収して防衛関連事業を強化する一方で、エンジンや排気コントロール装置など自動車部品の製造にも進出しました。現在は防衛部門(ラインメタル・ディフェンス)と自動車部門(ラインメタル・オートモーティブ)を二本の柱とする、世界的なエンジニアリング企業となっています。
ラインメタルが単独で開発したMG3機関銃や、同社がドイツのエンジニアリング企業のクラウス・マッファイ・ヴェクマンらと共同開発した装輪装甲車「ボクサー」などは輸出にも成功し、多くの国の陸軍に採用されています。
陸自とラインメタル 急接近あるかも?
「ユーロサトリ2022」で発表された新戦車KF51パンター。ラインメタルはウクライナへの売り込みを図っているとの報道もある(竹内 修撮影)。
日本との関係はどうでしょうか。陸上自衛隊は防衛装備品を草創期にはアメリカからの供与品で賄い、その後は極力国産化に努めてきたため、ラインメタルとの縁は、90式戦車の主砲であるL44 120mm滑腔砲のライセンス生産のみにとどまってきました。しかし、ラインメタルとは新たな縁が生まれつつあります。
防衛省が2022年12月に発表した防衛力整備計画には、陸上自衛隊が駐屯地の警備などに使用するUGV(無人車両)の導入計画が盛り込まれています。
この計画では早期に戦力化を達成するため、キャタピラで走行する装軌式と、タイヤで走行する装輪式の2種類で外国製UGVの試験調達が予定されていますが、装輪式UGVとしてラインメタルの「ミッションマスターXT」が有力候補になっていると、筆者は聞き及んでいます。
ウクライナも日本も、これまでラインメタルとの縁が深いとは言えませんでしたが、同社の業容の拡大と、それぞれの国のニーズの一致によって、重要なパートナーへと進化していく可能性を秘めていると筆者は思います。