ryuchellさんは生前、SNSなどでのアンチコメントに対する悩みを吐露していた(写真:GettyImages)

7月12日、タレントのryuchellさんが東京都渋谷区の所属事務所で亡くなったとのニュースが、全国を駆けめぐった。

報道によると、警察は自殺とみて捜査しているという。執筆時点では、その原因は明らかになっていない。まだ断片的な情報ではあるが、SNSにおける誹謗中傷の影響を指摘する声が相次いでいる。

過去にryuchellさんは、自身のYouTubeチャンネルでも「いろいろな人がいろいろな感情を持つことは自由。でも芸能のお仕事をしているとそれを目の当たりにして。自分の自信が本当になくなる瞬間が多々あった」などと悩みを吐露していた。

真相が何であるのかについて、筆者は論じる立場にはない。一方で筆者が2020年に書いた「木村花さんを追い詰めた『匿名卑怯者』の深い罪」という記事を思い出さずにはいられない。その記事では、なぜ多くの人が無自覚に“誰かを追い詰めてしまう”行為に加担してしまうのかについて、自ら命を絶ったプロレスラー・木村花さんの事件を通じて論じた。

攻撃的な投稿者の多くは「無自覚」

その後、ネットでの誹謗中傷を抑制するため、プロバイダ責任制限法が改正されて匿名投稿者の特定手続きが大幅に緩和されたことはご存じだろう。改正法に助けられた人も少なくないだろうが、それでも今なお、誹謗中傷はやまない。

理由として、筆者はSNSのサービス設計そのものに欠陥があると考えている。あえて今回は、「SNS」というサービスジャンル全体のくくりではなく、Twitter固有の問題として取り上げたい。

ネットにおける著名人の誹謗中傷では、コメディアンのスマイリーキクチさんが当時の「2ちゃんねる」で殺人事件の犯人だと発信され続けた事件や、俳優の西田敏行さんが覚醒剤常習者という情報がブログやSNSで拡散(主にはTwitterでの再発信が多かった)された事件などが過去にあった。

前者は書き込まれた偽りの投稿を削除することが困難で、なおかつ完全匿名で投稿できると信じられていた頃の事件で、発生した背景は今と異なる。後者は芸能人の知名度を利用してアクセス数を増やして広告料を稼ぐため、いわば営利目的で虚偽情報を流したケースだ。

木村花さんのケースが決定的に違っていたのは、繰り返し執拗に花さんを攻撃していたユーザーがいた一方で、加害者の多くは無自覚に(つまり自分の発言が相手を深く傷つけているとは感じないまま)中傷投稿を行っていたことだ。そしてその多くは、Twitterを通じてのものだった。

ryuchellさんに対する誹謗中傷も、同様の傾向が指摘できるだろう。ryuchellさんは離婚を発表後、Instagramのアカウントをいわゆる”鍵付き”にしていたが、その後はTwitterでの攻撃的投稿が相次いでいた。

Twitterは著名人でも一般ユーザーでも同じように発信できる。たとえフォロワーがほとんどいないユーザーでも、投稿が注目されて拡散され始めると、一気に世界中へと広まることがある。


とくに2022年の離婚発表後は、SNS上での誹謗中傷が相次いでいた(画像:ryuchellさんのTwitterアカウントより)

ただ、多くの場合、フォロワーの少ない大多数の一般ユーザーは「自分に発信力がある」とは感じていない。有象無象の見知らぬユーザーから攻撃されることも経験していないから、自らの言葉が影響力を持つことなど想像しないまま、ネガティブなコメントも投稿する。

一方で著名人はフォロワー数が多く、たとえフォロワーでなくとも、リツイートなどで投稿が拡散されると”誰の投稿なのか”を認知されやすく、リツイートの連鎖が起きやすい。こうした発信力の高さはインフルエンサーとしてみた場合は強みにもなるが、誹謗中傷が集まりやすいケースでは、無自覚な普通のユーザーを数多く巻き込む諸刃の剣ともなる。

たとえば花さんの場合、毎日100通以上の誹謗中傷投稿があったという。多くの人は、それほど多くの誹謗中傷に晒された経験などなく、自分のコメントの影響力は0%だと信じている。

しかし0.1%の毒も100倍になれば10%に膨らみ、その毒を毎日浴びせられ続ければ、どこかで心が壊れてしまう。

Instagramには「距離を置く」機能があるが…

そうした事態を防ぐには、法改正や教育などの対策に加えて、SNS側も、無責任な発言者とその対象者が距離を置ける仕組みを提供すべきだ。

しかしTwitterでは、誹謗中傷を行うような投稿者と距離を置く手段が限られるうえ、新規アカウントを多数作成して攻撃することもたやすい。自由で手軽に発信、交流できることが強みだが、一方で誹謗中傷する側にとって都合のいい条件がそろっているとの見方もできる。

当然、他のSNSでも誹謗中傷問題は存在する。筆者の知人はYouTubeで執拗にネガティブコメントを書き込まれ続けて精神的な問題を抱え、YouTuberとしてのキャリアを中断せざるをえなかった。誹謗中傷が比較的少ないとされるInstagramも、完全に平和というわけではない。

もっとも、Instagramには望まないやり取りを抑制するための機能が豊富にある。例えば、新規アカウントからのコメントを禁止することで嫌がらせコメントを抑制できるほか、禁止ワードを設定することで、望まない発言をする人を最初から自動的に視野の外に押し出すこともできる。

一方でTwitterの場合、いわゆる”鍵付きアカウント”にするか、あるいは個別IDをブロックする以外にすべがない。ブロックする機能だけでは、新規アカウントなどからの誹謗中傷を避け続けることは困難だ。なぜInstagramのように、望まない相手とのやり取りを抑制する機能を盛り込まないのだろうか。

それはTwitterが、発言の機会を提供するプラットフォームであり、ユーザーの発言内容に対して積極的に判断する立場にはない(問題は、あくまでも発言を行う利用者にある)という姿勢に徹しているからだ。

Twitterのヘルプセンターには、嫌がらせに対するマニュアルが掲載されている。この内容を要約すると、誹謗中傷を行う人と距離を置くためにTwitterが提供している機能は”ブロック”以外にない、ということだ。

筆者はこのスタンスを偽善だと考えている。なぜならば、筆者自身が2012〜2013年頃、Twitterにおける誹謗中傷投稿に向き合ったことがあるからだ。

発言に関して積極的判断はしない

誹謗中傷について報告を行うと、Twitter側は(筆者がプレスであることも関係しているが)可能な限り話を聞いてくれた。が、その答えは「何もできない」ということだった。いやむしろ、「何もするべきではない」といったほうが正しいだろう。

誰もが利用できるプラットフォームの運営者自身が、発言の妥当性に関して積極的に判断し、削除したり投稿者の利用を制限したりすることはできないという見解だ。つまり、問題はプラットフォーマーではなく、利用者の側にあるというスタンスだと考えられる。

この考えを一方的に否定はしないし、情報基盤を提供するサービス事業者として正しい判断をしたとも言える。一方で、自ら積極的に抑制することでコミュニティの活力を奪いたくないという意思が強かったのだと思う。Twitterの黎明期が終わって、まだこれから利用者数が伸びるという時期だった。

自由に発言できる情報発信基盤として考えるとき、攻撃的と感じる発言を抑制しすぎると、Twitterならではの爆発的な拡散力を阻害しかねない。しかし、これまでのネットにおける誹謗中傷事件を省みるならば、”望まないやり取りを抑制する”手法を、プラットフォーマーの責任として模索すべきだろう。

Twitterと似たコミュニティを形成できる他のサービスは、どのような設計になっているだろうか。メタ・プラットフォームズが先日サービスを開始し、すでに1億アカウントを超えたThreadsの場合を見てみよう。

まだ機能は豊富とは言えないが、拡張計画も公開されており、望まないやり取りを抑制する機能はInstagramとも共有している。

さらにThreadsならではの要素として、Twitterでは表示されるリツイート(Threadsでは再投稿)数が表示されない。リツイート数は、投稿に対する注目度を測る1つの指標ととらえられるが、必ずしも賛同の意思を表すわけではないうえ、炎上の遠因にもなる。

Twitterは具体的な改善計画を

繰り返しになるが、Twitterを名指しすることに特別の意図はない。しかし誹謗中傷の投稿がTwitterで多くみられる以上、プラットフォーマーである彼らが行動しなければ、誹謗中傷による被害者を減らすことはできないだろう。

今後、痛ましい事件が起きないためにも、運営するX社には具体的な改善ロードマップを含めた計画の表明を求めたい。

最後に、誹謗中傷によって自らを否定したくなる気持ちになった場合、あるいは身近な誰かが自分を見失いそうになっていたならば、まずはスマートフォンの電源を切り、しばらくは生身の声の中で暮らしてほしい。顔がない相手ではなく、顔が見える友人と対話の機会を作ってほしい。本当に大切なものは、ネットの中ではなく、目の前の現実の中にある。

(本田 雅一 : ITジャーナリスト)