ヴェルファイア Executive Loungeのエクステリア(写真:トヨタ自動車)

東京の街を走っていると当然のように見かけるクルマの1つ、トヨタのLサイズミニバン「アルファード」と「ヴェルファイア」の新型が、2023年6月21日に発表された。アルファードは通算4代目、ヴェルファイアは3代目になる。

2015年に発売された先代は、モデルライフ後半にヴェルファイアのラインナップが大きく絞り込まれた。ゆえに「ヴェルファイアはこの世代限りで消滅するのではないか」という噂も流れた。しかし、結果的にはアルファードだけでなくヴェルファイアも新型が用意された。


アルファード Zのエクステリア(写真:トヨタ自動車)

発表会でプレゼンテーションを担当した、取締役・執行役員でデザイン領域領域長を務めるサイモン・ハンフリーズ氏は、ヴェルファイアをフェードアウトさせる話がトヨタ社内でもあったことを明かした。

ところが、ヴェルファイア消滅の話が社内に広まると、猛反対の声が多く上がり、結果的に販売続行になったという。

新型アルファード/ヴェルファイアが先代の登場時と違うことの1つに、販売店がある。以前はアルファードがトヨペット店、ヴェルファイアがネッツ店扱いだったが、トヨタは2020年5月から、すべての車種を全販売店で取り扱うことになった。


フェードアウトが既定路線だったがヴェルファイアも新型に(写真:トヨタ自動車)

ヴェルファイア消滅の話は、この過程で出たと思われる。しかし、他メーカーのミニバンや軽自動車のハイトワゴンを見ると、標準車と「カスタム」のようなドレスアップ版を同じ販売店で売っている。

これまでのような「販売店ごとの車種」という位置付けから、「同じボディの仕立て違い」というポジショニングに変えれば、2車種は並立できる。そういう考えも含めてヴェルファイア継続に至ったのではないか、と考えている。

アル/ヴェルらしさとデザインの進化

アルファード/ヴェルファイアのデザインを語るうえで、避けて通れないのがフロントマスクだろう。


ヴェルファイア Z Premierの「漆黒メッキ」グリル(写真:トヨタ自動車)

車格的には近い「クラウンクロスオーバー」がグリルレスに一新したのとは対照的に、こちらは新型でも威風堂々としたグリルが健在だ。そして、それが新型でもアルファードとヴェルファイア、それぞれのイメージを決定づける要素となっている。

このあたりについては、ハンフリーズ氏のプレゼンテーションの日本語字幕でも、「ドヤ顔」「ちょい悪」という言葉まで使って、アルファード/ヴェルファイアのアイデンティティであることを認めている。

ハンフリーズ氏自身が「doyagao」「choiwaru」と口にしたわけではなく、近い意味の英語で話していたが、発表会のスクリーンに「ドヤ顔」「ちょい悪」と表示されたのは事実であり、トヨタ自身がこの路線を肯定していることが伝わってきた。


「逆スラント」となったアルファードのグリル(写真:トヨタ自動車)

しかし、アルファード/ヴェルファイアともに、グリルの面積はさらに大きくなったように感じるものの、両端のランプ類とのつながりがスムーズになり、フォグランプが収まるバンパー両端の処理はむしろシンプルになっている。

リヤについても、似たようなことが言える。先代ではコンビランプをリヤウインドウ左右に回り込ませていたが、新型ではそれをやめ、サイドから流れてくるラインを受け継ぐ形になっており、真後ろから見ると鳥が翼を広げたような造形となっている。

全幅を変えず豊かなサイドビューに

個人的に新型アルファード/ヴェルファイアのスタイリングで最も目を引いたのは、ボディサイドだ。ハンフリーズ氏が「箱型ではないワンボックス」と称したとおり、かなり抑揚の強い造形になっていたからである。


Bピラーの存在感が薄れ、流れるようなデザインを強調する(写真:トヨタ自動車)

具体的には、スライドドア前端のシャークフィン風ピラーを短くする一方で、そこからリヤに向けてゆったり降りていくキャラクターラインが入ったことだ。フロントフェンダーのラインを反復させたような感じでもあるが、そのフロントフェンダーの盛り上がりも、これまでより明確である。


斜めから見ると大胆な造形がよくわかる(写真:トヨタ自動車)

スライドドアを持つミニバンでは、後輪の上にドアのレールが位置する関係で、この部分のラインは水平にすることが多い。ところが、新型アルファード/ヴェルファイアはあえてスロープさせてきた。かなり大胆だ。

ちなみに新型アルファードのボディサイズは、全長4995mm×全幅1850mm×全高1935mmで、先代と比べると45mm長く、15mm低くなっているものの、幅は同じだ。なのに、ここまで立体的なフォルムを取り入れたことに驚かされた。

では、なぜ新型アルファード/ヴェルファイアは、ここまで大胆なボディサイドにしてきたのか。理由としてひとつ考えられるのは、今年春の上海モーターショーで発表され、日本での販売もアナウンスされたレクサス「LM」との差別化だろう。


4月の上海モーターショーで発表された新型レクサスLM(写真:トヨタ自動車)

レクサスLMは、新型アルファード/ヴェルファイアとプラットフォームを共有しているという。ボディサイズはLMが少し大柄になり、クオリティも違ってくるだろうが、デザインでもトヨタとレクサスでの差別化は明確に必要になる。

そこで、レクサスのサイドビューを水平基調の落ち着いた佇まいとしたのに対して、アルファード/ヴェルファイアでは、あえて抑揚の強いラインを取り入れたのではないかと推測している。

驚いたのはボディカラーで、アルファードはブロンド、ホワイト、ブラックの3色、ヴェルファイアに至ってはホワイトとブラックの2色しかない。


販売される仕様は人気色、人気グレードに絞る(写真:トヨタ自動車)

半導体調達などを理由とする生産の遅れに対処したためかもしれないが、路上で見かけるアルファード/ヴェルファイアは、ほとんどが白か黒であることも事実。この種のクルマを求める層は、デザインやカラーで自己主張をするという、従来のクルマ好きが抱くような考えは持ち合わせていないのかもしれない。

また、アルファード/ヴェルファイアとも、それぞれグレードを売れ筋のZ(ヴェルファイアはZ Premier)と、Executive Loungeの2つに絞っているのも、それを象徴しているといえる。

オーセンティックな意匠に画期的な装備

インテリアに目を向けると、前席まわりでは14インチという大型センターディスプレイや、電気式になることで短くなったシフトレバーなどが目立つ。


インテリアの造形は2車で共通。写真のカラー、サンセットブラウンはヴェルファイアのみ(写真:トヨタ自動車)

メーターは、12.3インチのフルデジタルとなり多彩な表示が可能になったものの、メーターとセンターディスプレイを明確に分けた造形は、むしろオーセンティックだ。

この点レクサスLMは、メーターとセンターディスプレイを一体化したようなレイアウトとしており、ここでもブランドごとの差別化を明確にしていることがわかる。

それよりも注目すべきは、2列目だろう。天井には照明、スイッチ、エアコン吹き出し口などを一体化した「スーパーロングオーバーヘッドコンソール」を備え、上級グレードではスマートフォンを思わせる脱着可能なタッチパネルでシートなどの操作が可能な「リヤマルチオペレーションパネル」を備えるからだ。


トヨタ初をうたうスーパーロングオーバーヘッドコンソール(写真:トヨタ自動車)

しかも、後者はシートの前後左右やエアコンの強弱などの物理的な調節だけでなく、Dream/Relax/Focus/Energizeという感覚的なモードを選べる。最近の家電を思わせるおもてなしであり、クルマの快適装備としては画期的だと思った。


Executive Loungeのインテリア。ニュートラルベージュのカラーはアルファードのみ設定(写真:トヨタ自動車)

メカニズムでは、TNGAプラットフォームを新たに採用したことや、3.5リッターV型6気筒エンジンに代えて2.4リッター直列4気筒ターボエンジンを投入し、2.5リッター4気筒とモーターを結合したハイブリッドで2WDも選べるようになったことなどが、ニュースになる。

新型は、アルファードとヴェルファイアの最低価格に大きな差があるが、それはガソリンエンジンがアルファードは自然吸気のみ、ヴェルファイアは逆にターボのみであるためだ。この差別化も、販売店が同じになったからこそ、できたことだろう。


デザインだけでなく走りのキャラクターの差別化も実現(写真:トヨタ自動車)

さらに、ヴェルファイアのみフロントパフォーマンスブレースを装着し、走りのキャラクターのすみ分けも行っている。これも、販売店が異なっていた先代までには、なかった差別化である。なお、発表会では、近い将来プラグインハイブリッド車(PHEV)を用意することも明かされた。

プリウスに通じるトヨタの方向性

事実上ライバル不在の孤高の存在と言えるだけに、「ドヤ顔」「ちょい悪」をさらに研ぎ澄ませる方法もあったはずだ。でも、新型はグリルの大きさは保持しつつ、それ以外は洗練度と躍動感を増していた。


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この点では、同じトヨタが今年モデルチェンジした「プリウス」に近いものを感じるし、コモディティを目指さなかったところも共通している。見た目はプリウスとはまるで違うけれど、トヨタデザインとしての方向性は一致しているとも感じたのであった。

(森口 将之 : モビリティジャーナリスト)