日経平均がバブル後の過去最高を更新。私たちの給料も上がってくるの?
日経平均株価が33,000円を超え、バブル後の過去最高を更新しました。SNSなどを眺めていると、このまま史上最高値を超えて40,000円を目指していくと強気な意見もあれば、今回の急騰はバブルだから早晩暴落するという悲観的な意見も目にします。SNS上の意見に一喜一憂しないためにも、今回の日本株の上昇の背景をしっかりと理解しましょう。また、「株価がこれだけ上昇すると景気が良い証拠だから、自分たちの給料も上がる」という期待論も目にしましたが、その点についての私の意見も共有したいと思います。
日本株が急騰した理由(国内編)
SNS上のコメントに一喜一憂しないためにも、まずは今回の日本株の上昇の背景にある複数の要因を確認しましょう。私は今回の上昇の理由は1つではなく、タイミングよく複数の要因が重なったことによって生じたと考えています。まず、国内の要因について見ていきたいと思います。
一つ目の要因は、国内外における金融政策の違いにあると考えます。欧米ではインフレを抑制すべく、過去1年間で異例なほど急速に金利を引き上げました。一方で、日本は大型の金融緩和を維持しています。当然、金融緩和をしている日本の株式市場には投資資金が集まりやすいのですが、さらにこの金融政策の違いが国内外の金利差拡大を招き、結果として円安が進行します。昨今では円安による輸入物価の上昇を引き合いに、円安がネガティブに報じられることが多いです。しかし、日本経済全体にとっては円安の方が好ましいと多くの公的機関がレポートを公開しているように、円安が日本株の上昇の追い風になっていると考えられます。
二つ目は、日本国内における消費の拡大期待です。新型コロナウイルスが5類に移行されたことで、内需が回復傾向にあります。さらに、前述した円安が追い風となり、訪日外国人が増えることによるインバウンド消費も期待できます。
三つ目は、証券取引所がPBR(株価純資産倍率)が継続的に1倍を下回るような企業に割安な株価を是正するよう指示を出しており、すでに複数の企業が自社株買いや増配などの対応をしています。そのため、国内外から割安修正期待の投資資金も流入していると考えられます。
日本株が急騰した理由(国外編)
そして、今回の日本株の上昇は国外の要因もあると考えていますが、その中でも大きいのが中国要因と言えるでしょう。この観点を理解するには、グローバルで運用している機関投資家がどのように投資資金を世界中に分散させているかを理解する必要があります。
グローバルで運用している機関投資家は、顧客の資産のリスクを抑制するために、地理的な分散をします。とはいえ、一ヶ国ずつ投資するにはあまりにも手間がかかるため、まずは大きな地域ごとに投資資金の割合を考えます。日本はアジアという地域の1つと捉えられており、当然ながらこの地域には中国も入っています。
中国はゼロコロナ政策で国内経済が疲弊していましたが、昨年末に急遽ゼロコロナ政策を解除し、その後の景気回復が期待されました。しかし、蓋を開けてみると早々に中国経済は減速していき、6月には中国人民銀行が利下げをして景気刺激策を打ちました。また、中国は台湾への軍事侵攻が懸念されており、昨年のロシアによるウクライナ侵攻を受けて、改めて中国の地政学リスクが意識されました。
景気減速懸念と地政学リスクの高まりを背景に、アジア地域に充てられていた投資資金のうち、中国へ投資されていた一部の資金が日本に流れ込んできたとも言えるでしょう。
日本株の今後の見通し
このように、いくつもの要因が重なって足元の日本株の上昇が演出されたということなのですが、それでは冒頭に紹介したSNS上のコメントのように、日経平均株価は順調に上昇を続け、40,000円という新たな節目に向けていくのでしょうか。
足元の上昇の要因を理解した方からすると、そんなに楽観的になるべきではない、ということが分かるかと思います。米国では急速な利上げの副作用で景気減速懸念が高まっており、2023年6月の執筆時点では年内にもう一度だけ金利を上げて以降は打ち止めとなり、年明けには一転して利下げ局面に入るというシナリオがコンセンサスになっています。
一方で、日本では他国と比べて物価上昇が遅れていたため、他国ではすでに物価上昇率の伸びが鈍化しているのに対して、日本では依然として物価の上昇速度は鈍化していません。そのような中で、日本銀行の中でも現在の大型の金融緩和策に対しては否定的な意見(YCCの見直し)も見え始めています。
植田新総裁が金融緩和策の一部修正を行うとすると、就任してから半年分ぐらいの物価や賃金、労働関連のデータがそろってからという観測もあり、そうなると10月以降に実施されるということになります。仮に米国が現在のコンセンサス通りに年明けから利下げ局面に入るとすると、市場は先に織り込んで動いていくため、ちょうど10月頃から日米金利差が縮小し、為替の動きは円高方向に転換すると考えられます。そうなれば、これまでに見てきたいくつかの上昇要因が剥落することになります。また、これだけ株価が上昇してくると、割安修正がだいぶ進んでいくということも、今後の一方的な上昇を期待できない理由になると思います。
株価と実体経済の乖離
少しネガティブな話を書きましたが、日本株が絶好調なことは事実であり、こうなると私たちの給料も上がっていくのではないか、と期待する方もいるかと思います。また、一方では株価は好調なのに、自分は全然恩恵を受けていないと思う方もいるでしょう。いわゆる株価と実体経済が乖離しているという状態です。
しかし、これは当然なのです。たとえば、日本人の多くが日本の株式市場が好調という場合、その多くは日経平均株価が好調であるということを指しています。現在3,900社ほどが上場していますが、そのなかでも大型の企業、いわゆる上澄みの企業225社の株価によって算出されているのが日経平均株価です。一方で、私たちが実体経済と呼ぶのは、近所の商店街やタクシー運転手から聞く話、いわゆる街角景気というものでしょう。上澄みの225社と近所の商店街にあるお店を比較する意味はあるのでしょうか? そう考えると、株価と実体経済が乖離していても違和感はないはずです。
景気が良くなって株価が上昇するということであれば、景気が良いので私たちの給料も上がるという期待は可能です。しかし、現在の株価上昇はこれまで見てきたように、必ずしも景気がいいから上昇しているということではないわけで、一概に私たちの給料も上がるとは言えないのです。