アップル1社だけで時価総額は400兆円を優に超える規模。復活を遂げつつある日本株は、もっと評価されていいのかもしれない(写真:ブルームバーグ)

アップルの時価総額が6月末(上半期の最終日)、とうとう終値で初めて3兆ドルを突破、大きな話題となった。

一方、日本はというと、7月7日現在の東証プライム上場1834銘柄の時価総額は800兆円強だ。アップル1社だけで3兆ドルは約432兆円(1ドル=144円)だから、東証プライム時価総額の約54%にもなる計算だ。

「失われた30年」で出遅れた日本との差を見せつけられ、平成バブル時も知っている者にとっては、驚きよりも悲しみが先に立つ。

「兜町の都市伝説」を突き破れるか

実は、兜町には平成バブル崩壊以降、都市伝説になっている株価理論がある。それは「東証1部の時価総額は名目GDP(国内総生産)の1.41倍を超えられない」というものだ。1989年のバブル時の日本の名目GDPは約430兆円、東証1部の時価総額はその1.41倍の約606兆円だった。

このことから「高値は名目GDP比で1.41倍を2度と超えられない」という兜町の都市伝説ができあがった。しかし、IMF(国際通貨基金)によると、日本の名目GDPは585兆円だ(2023年4月現在)。市場区分の変更を経ているが、東証プライム市場の時価総額は一時約824兆円まで上昇、奇しくもその比率は平成バブル時と同じ1.41倍となった。

こう書くと「いよいよ日本株も天井を迎えてしまったのか」となりそうだが、そうではない。話はここからだ。

1989年時の東証1部の上場銘柄数は1191社だった。一方、現在のプライム銘柄は上記のように1834社と、東証1部の数字と比べて1.54倍に増えている。

したがって、上場企業数でいえば、プライム市場時価総額の高値メドは前述の約824兆円ではなく、1.54倍をかけた約1269兆円ということになる。つまり、GDP対プライム市場の関係は1.41倍ではなく、1.41×1.54の2.17倍ということだ。

日本の名目GDPは2024年末に約600兆円が予想されていることから、目指すプライム市場の時価総額(2024年相場)は、600兆円の2.17倍の1302兆円となる。

この「プライム市場の時価総額1302兆円」は先週の時価総額806兆円の61.5%増だ。これを仮に7月7日のTOPIX(東証株価指数)の終値2254にかけ合わせると、2254×1.615=3640となる。

「日経平均5万円台」は実現不可能ではない

NT倍率(日経平均がTOPIXの何倍かを表す数値)次第ではあるが、これも7日現在の14.36倍を当てはめると、日経平均株価は5万2270円となる。

以上、ここまで数字を並べ立てた。もちろん、これからバブルが起きるかどうかはわからない。だが、インフレ経済がようやくスタートした日本の名目GDPは、2024年だけでなく、2025年も2026年も増え続けるはずだ。

すでに2023年の名目GDP成長率は、政府の「2%台」の予測に対して、民間エコノミストの間では「4%説」が増えている。当然、日経平均株価の目標値も上がっていくことになる。

先述の目標値である「5万円台」はちょっと乱暴な設定だといわれるかもしれないが、「今回の相場は1年や2年では終わらない」という筆者の考えの基本だと思っていただきたい。実際、1つの例にすぎないが、約2年前に「日経平均の『大相場』が始まったのかもしれない」(2021年9月20日配信)の記事では、日経平均の目標値を3万3921円としたが、ほぼ実現している。

さて、壮大な話をしたかもしれないが、現実的に目先の相場に戻ろう。日経平均の6月の月間上昇幅は2301円だった。この上昇幅は、5月の2031円を上回ったほか、2カ月連続の2000円台の上昇となり、日経平均の算出史上、初となる快挙であった。

「3日新甫」となった7月の初日の取引で、日経平均は6月につけていた33年振りの高値を更新した。その後は反落したが、はたしてこの強さが吉と出るか凶と出るか。

暦と違って、兜町では「夏相場」といえば7月から初秋の9月を加えた3カ月を指すが、「1年のうちで最も低調な3カ月」というのは過去の統計数字が示すところだ。相場を知っている投資家ほど、どう行動するか、悩む時期である。

今回の相場を主導した外国人投資家も、昨年の7月こそ買い越しだったが、傾向としては7月は売り越しのことが多い。

日経平均も2021年7月は大きく下げ、2022年は7月に戻したものの、9月に大きく下げた。このように、7〜9月の3カ月は1959年からの長期間の統計で見ても、最も低調な3カ月だ。

強気を維持して「下げたら買い」の姿勢で

この3カ月をどう乗り切るかが、今回の相場における投資収益を決める最大のポイントだ。投資家がいくら「将来の株価は高い」と思っていても、目先の3カ月が低調(下落)となった場合、強気を維持できるだろうか。

もし9月までの約3カ月が押し目となり、その後上昇となった場合、3カ月間の下落で振り落とされ、「手持ち株はいくらも残っていなかった」となったら、残念なことだ。逆に、十分な買い資金をそろえながら、例年とは違う今回の相場に、例年どおりの押し目を想定して買い逃すことも、それ以上に残念なことだ。

目先は米国株もかなり微妙なゾーンにいることは確かだ。7日に発表になった6月雇用統計に対する市場の反応を見ると、平均時給が前年比+4.4%と、予想の+4.2%を上回ったため「これではCPI(消費者物価指数、12日発表)が下がりにくい」として嫌気された。

しかし、非農業部門の雇用者数は前月比+20.9万人増と、予想を下回り、5月の同+33.9万人から大きく低下したので、「金融引き締めの長期化懸念が和らいだ」としてドル売り円買いの動きとなり、一気に1ドル=142円台前半までの円高となった。

上述のように、平均時給が予想以上だったことで、金利は上がっている。金利が上がれば本来はドル買い円売りになるはずだが、すでに織り込んでいたか、あるいは手じまいでドル売り円買いの動きとなった。

6月26〜28日に開催されたECB(欧州中央銀行)フォーラムのパネル討論で、ジェローム・パウエルFRB(アメリカ連邦準備制度理事会)議長は追加利上げに肯定的な見解を示したものの、同国経済は景気減速の懸念も抱えている。

7月25〜26日に開催されるFOMC(連邦公開市場委員会)はデータ次第だといわれているため、データの蓄積期間である今の指標は、その瞬間の評価と同時に先を読んだ評価がぶつかり合って、株・ドル・金利の動きに理屈に合わないバラバラ感が出るようだ。相場には理論どおりのわかりやすいときとそうでないときがある。今の米国株は後者のそうではないときだ。

日本株も、同じようなわかりにくいときにさしかかったようだ。ただ、筆者に言わせれば、日本には「30年の眠りから覚めた日本株、1年や2年では終わらない」という呪文めいた確信がある。

その呪文を唱えながら、再びわかりやすいときが来るまで「下げたら買えばよし」だ。「日経平均の伸びが止まれば、個別物色の波が来る」と前向きに考えることが大切だ。

(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

(平野 憲一 : ケイ・アセット代表、マーケットアナリスト)