6月11日からNetflixシリーズ「オオカミちゃんには騙されない」が独占配信中。アイドルグループ「ラストアイドル」の元メンバー西村歩乃果(写真)ら俳優やモデル、歌手、スポーツ選手など華やかな男女10人が参加する(画像:Netflix)

Netflix、Amazon プライム・ビデオ、Huluなど、気づけば世の中にあふれているネット動画配信サービス。時流に乗って利用してみたいけれど、「何を見たらいいかわからない」「配信のオリジナル番組は本当に面白いの?」という読者も多いのではないでしょうか。本記事ではそんな迷える読者のために、テレビ業界に詳しい長谷川朋子氏が「今見るべきネット動画」とその魅力を解説します。

ABEMA人気シリーズをNetflixで

やらせ疑惑や誹謗中傷問題が絶えないリアリティー番組はマイナスイメージを持たれがちです。人間ドラマを描きつつもドラマやドキュメンタリーと比べて、格下に見られるジャンルなのかもしれません。それでも支持されるリアリティー番組には共通項があります。ABEMA定番シリーズのNetflix版「オオカミちゃんには騙されない」と、韓国発のAmazonオリジナル「ラブ トランジット」、そしてかつての人気作をリブートしたNetflixの「あいの里」の3つの恋愛もの配信オリジナル新作から今どきのリアリティー番組の魅せ方を解説していきます。

1つ目の「オオカミちゃんには騙されない」は、ゲームのようなルール設定が肝です。参加する男女がデートや共同作業を通じて、告白に向かう基本設定こそ王道ですが、参加メンバーの中で「恋をしてはいけない」という役割が設けられている特徴があります。番組ではその役を「“嘘つき”オオカミ」とし、誰がいったい「オオカミ」なのかを推理していくことに面白さを見いだしています。

聞いただけでは、オオカミ役に騙されずに相手を見つける必要があるなんて、わざわざ設定をややこしくしているように思えなくもないですが、よくよく見ていくと、恋愛力が裏テーマであることに気づきます。オオカミを見抜いて、真実の愛を見極める力があるかどうか、そんな視点から見ることもできるのです。

人気シリーズとして知られ、スタートした2017年からこれまでABEMAで配信された13シリーズの累計視聴数は3億回を超えます。ABEMAにとって稼ぎ頭のコンテンツであることは間違いありません。ヒットシリーズは売買取引にも有効的で、現にABEMAはNetflixとの取引に成功し、6月11日から配信開始された「オオカミちゃんには騙されない」はNetflixとの共同制作版として展開されています。挿入歌はBTSの「FAKE LOVE -Japanese ver.-」を起用し、勝ち組リアリティー番組そのもの。9月には全12話一挙世界配信を予定しています。


ABEMAで累計視聴数3億回を超える人気の「オオカミ」シリーズがNetflixシリーズとして展開されている。写真は参加メンバーの1人、中国出身のシンガーソングライターJU!iE(画像:Netflix)

日本先行配信で毎週、最新話が更新されているわけですが、序盤戦の現在はまずまずといったところ。タレント発掘の場としても機能させてきたことから、Netflix版も大手芸能事務所に所属する俳優や歌手、モデル、タレント、スポーツ選手が参加し、男女10人そろって華やかさがあり、下は22歳、上は32歳と既存のものより高めの年齢層やオオカミちゃんを初っ端から視聴者に明かす新たな見せ方も文句はないものの、勢いはまだありません。これからの展開に期待です。

復縁テーマにドロドロ展開

スローテンポで始まっても、終盤戦で一気に予想外の面白さを発揮する恋愛リアリティー番組もあります。それがまさにAmazonオリジナル「ラブ トランジット」です。6月15日から配信が開始され、6月29日に最終話(7、8話)を迎えたところです。この番組もあるようでなかった設定が特徴にあり、復縁をテーマに、かつて恋人だった5組の元カップルが約1カ月間、共同生活する様子を映し出しています。


6月15日からプライム・ビデオで独占配信中のAmazonオリジナル「ラブ トランジット」は復縁がテーマ。かつて恋人だった5組の元カップルが約1カ月間、同じホテルで四六時中顔を合わせながら共同生活する(画像:Amazon)

巧みなルール設定で番組を盛り上げていくのも時流に乗っています。「誰の元恋人かは、明かせない」「年齢・職業は、伏せておく」「お互いを知るためのさまざまな指令が用意される」という3つのルールをもとに進行していくことで、過去の恋と新たな出会いの間で揺れ動き、嫉妬や未練にまみれた参加者たちの姿を追わずにはいられなくなるほど。ヒリヒリとした妙な緊張感が癖になります。

最近別れたばかりのカップルから、長い時間を経て再会したカップルまで、交際期間や別れた理由もそれぞれに異なり、徐々にそれらが明かされていくなかで、参加者1人ひとりの人となりまで見えてきます。しかも、過去の恋愛相手と真剣に向き合うとなると、きれい事だけでは済まされません。波乱が起こりやすく、一歩間違えれば、誹謗中傷に発展しかねませんが、恋愛リアリティー番組を見慣れた、上級者向けとも言える内容だからか、もしくは傷だらけに見える参加者に対して同情の心理が働くのか、SNS上で荒れることなく、むしろ優しく見守る声のほうが圧倒的です。

なかなかにドロドロであることは確かです。もとは韓国の番組であることを知るとなおさら納得します。韓国最大手のエンターテインメント企業CJ ENMが企画・製作した「乗り換え恋愛」の番組フォーマットをAmazonが購入し、日本版として製作された番組になります。ちなみに制作を担当した会社は「オオカミちゃんには騙されない」と同じ老舗のテレビマンユニオンですが、予算に違いがあるようで番組内で「ホカンス(=ホテルでバカンスの造語)」をうたう割にゴージャス感は足りません。Amazonを代表する人気恋愛リアリティー番組のバチェラーシリーズと同じレベルとまで行かずとも、5ツ星ホテルで過ごすような非現実感のある演出があっても良かったのかもしれません。

60歳の「人生最後の恋」

最後3つ目の「あいの里」は、Netflixで5月2日に配信開始され、すでに全18話が出そろっています。Netflix公式人気ランキング「今日のTOP10」入りを何度も果たし、週平均の「ウィークリーTOP10」入りが6週も続いていました。

話題になった理由は、何と言っても年齢設定にあります。参加したメンバーは35歳から60歳までと、これまでの恋愛リアリティー番組のイメージを覆すような人生豊かな面々です。惚れた腫れたばかりでなく、金銭感覚や家族事情に触れる現実的な会話も多く、若者が中心の恋愛リアリティー番組とは明らかに違います。


Netflix公式「ウィークリーTOP10」入りが6週続いた人気のNetflixシリーズ「あいの里」。人生最後の恋を探しにきたメンバーがそろう。写真は60歳でバツ2の「みな姉」(左)と結婚歴なし35歳の青年実業家「たあ坊」(画像:Netflix)

とある「ラブヴィレッジ」の古民家を舞台に、自給自足の共同生活を送る環境もしかり、確かに落ち着いてはいます。田村淳とベッキーのスタジオ解説もあおりすぎず、適度な盛り上げ方です。

そんななか、恋愛リアリティー番組に欠かせない必死さもしっかり残しています。実際の恋愛遍歴が明かされていくと、バツがあったり、不倫もあったりいろいろですが、今回こそ「人生最後の恋」にしようと、そんな想いを持って集まった男女8人(メンバーの入れ替えあり)の姿をカメラに収めているのです。

フジテレビで1999年から10年続いた「あいのり」の制作スタッフが手掛けていることから、参加者1人ひとりの個性を尊重した見せ方も番組好感度の高さにつながっているように思います。なかでも真剣さがずっしりと伝わってきます。ただ、あまりにもカップルの成功率が高く、やらせを疑いたくもなりますが、制作側にとってもカップル数の多さはうれしい誤算だったようです。

ただただ他人の恋愛を見せるだけで新鮮だった時代は過ぎ去り、ありとあらゆるリアリティー番組の新作が生まれる今は、差別化を図る設定は重要なポイントです。同時に求められているのは、繰り広げる恋愛にうそがないこと。リアルな感情こそ、支持されるリアリティー番組の共通項なのかもしれません。


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(長谷川 朋子 : コラムニスト)