50代ひとり暮らし、電気代は月230円。「ものがないほうが豊か」だと気づいて
冷蔵庫も洗濯機もなく、電気代が高騰中の今も1か月の電気代は230円程度。電気やガスを使わなくなったら、家事がおもしろくなり、将来への不安もなくなったという稲垣えみ子さんに、暮らしを楽しむ工夫を教えてもらいました。
稲垣えみ子さんの電気・ガスを使わない暮らし
電気・ガスを使わない暮らしを実践している稲垣さんに、毎日の暮らしを楽しむ工夫を教えてもらいました。
●電気とものを手放したら暮らしがおもしろくなった
2011年の原発事故を機に、家電を次々に処分し、今では電気もガスもほぼ使わずに暮らしている稲垣さん。
「使っているのはスマホ、パソコン、ラジオ、フロアライト1灯だけ。天井のライトはこの部屋を借りたときについてきたもので、じつは一度もスイッチを入れたことがないんです」
以前はたくさんの家電やものに囲まれ、冷蔵庫やエアコンのない生活など、想像もしたことがなかったそう。
「当時住んでいた関西では、電力の半分を原発が担っていたので、私自身の電気代も半分にしようと思ったのが始まりでした。さまざまな節電対策を行いましたが、努力の割に効果は少なくて。発想を変え、電気はないものと思って暮らすことにしたのです」
すると、暮らしの感覚が、ガラリと変わっていったといいます。
「テレビもエアコンも消し、電灯をつけない暗い部屋では、月の光が明るく感じ、窓をあけると虫の声が聞こえてきます。さらに、電気を使わない生活に慣れてくると、都会にいても季節が巡り、風や湿度、日の光が日々違うのを感じるようになっていきました」
家事も、掃除機をやめてホウキとぞうきんにしたら、汚れが取れるのが楽しく感じたり、冷蔵庫をやめたら、その都度つくる1食200円程度の“地味メシ”のおいしさにしみじみしたり。
●必要と思っていたものもなければなんとかなるもの
稲垣さんは50歳のときに会社を早期退職しています。
「定年後を考えると、“お金を使わないとハッピーになれない”という生活態度を変えないとヤバイと思ったんです。電気をなるべく使わない暮らしをしていたことで、“ない”ことってじつは案外おもしろいと実感していたことも、背中を押してくれました」
それまで住んでいた高級マンションから築45年の収納なしワンルームに引っ越し。必要に迫られ、もっていたものの大半を処分したそうです。
「不安でしたけど、意外となんとかなりました。というより、もののない暮らしの方が豊か、と気づいたんです」
自分でもっていないきちんとした服が必要なときは、おしゃれな友人に借りる。この日のTシャツは、友人のダンサーが着なくなったものを袖を切ってアレンジした。食べきれないいただきものはご近所に配る。ものをため込まず必要に応じてあげたりもらったりすると、たちまち知り合いが増える。
ものをもつよりそのほうがずっと幸せだと気づいたと言います。
「家電を使うのをやめ、たくさんのものを手放したら、豊かでおもしろい人生が手に入った。お金と幸せにはなんの関係もありません。過去にとらわれることも、未来に不安を感じることもなく、今を味わって暮らしています」
“なくても豊か”な暮らしの工夫
掃除機、エアコン、洗濯機…。皆が暮らしに必要だと思っている家電も、なければないでなんとかなると稲垣さん。
「ないからこそ工夫する。そこにおもしろさがあるんです」
●洗濯はオケで手洗い
アジアン柄のお気に入りのオケを洗濯用に。
「手ぬぐいやふきんは使用後すぐゆすいで干すだけ。洋服も汚れたらここで洗います。洗濯物をためなくなり、予備も不要に」
●“手で掃除”にしたら部屋がきれいに
掃除機がけは面倒で大嫌いだったそう。
「ホウキとぞうきんを使うようにしたら、自分史上いちばんきれいな部屋に。私が嫌いなのは、掃除じゃなくて掃除機だったんです(笑)」
●ハタキかけは楽しい!
2日に1回程度、ハタキかけ。
「こんなにホコリが! と汚れが目に見えると、掃除が楽しくなるから不思議。掃除を楽しいと思う日がわが人生に訪れるとは思いませんでした」
●ほてった肌にヒノキオイルをスプレー
暑い日は、ヒノキオイルやハッカ油を水で薄めたものをシュッとひとふき。
「風がひんやり気持ちよく感じます。エアコンを使わなくなったら、わずかな風にも敏感になりました」
●肌はゴマ油、髪は自家製オイルでケア
高級化粧品をやめ、ケアは太白ゴマ油オンリーの稲垣さんですが、お肌ツヤツヤ。
「髪は干したミカンの皮とユーカリの葉で香りづけしたオリーブオイルでケアしています」
●リメイク服で涼しく過ごす
父親の古いシャツでつくったトップスと着古したジーンズを自分でリメイクしたスカート。
「バッグは麻ひもとレジ袋、友人からもらったベルトでつくったので材料費0円です」