2023年5月25日に本国・日本同日発表となったBMW新型5シリーズ(写真:BMW)

BMWでセダンのラインナップの中核を担当する「5シリーズ」が、7年ぶりにモデルチェンジを実施し、8代目に進化した。

ほぼ同時に日本でも、初期生産限定モデル「ザ・ファースト・エディション」がオンラインによる先行販売受付を開始している。


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本国での発表から間を置かずの日本導入に、BMWが相変わらず根強い人気を持っていることを教えられたが、公開された写真を見て「あまり変わっていない」と思った人もいるだろう。

BMWのセダンといえば昨年、「7シリーズ」がかなり大胆な変身を行い、賛否両論が渦巻いたことが記憶に新しい。一部のクルマ好きは「5シリーズもあのような変革が実行されるのではないか」と予想したかもしれない。しかし、実際はキープコンセプトといえる進化だった。

これは、ヨーロッパにおける5シリーズの立ち位置に理由があると考えている。

「カンパニーカー」という自動車貸与の制度

BMWのセダンは、もっともポピュラーな「3シリーズ」の上に、今回モデルチェンジした5シリーズ、そして頂点に7シリーズというラインナップで、「3と5」「5と7」は等間隔でクラスアップしていくと思う人が多いのではないだろうか。

しかし、ヨーロッパでは“ちょっと違うポジショニング”になっている印象を抱いている。ヨーロッパには「カンパニーカー」という制度がある。企業が中間管理職などに向けて、通勤用の自動車を貸与するというものだ。


日本向け初期生産限定モデル「ザ・ファースト・エディション」(写真:BMW)

たとえば、BMWの故郷であるドイツは、突出した大都市はベルリンぐらいだが、人口は横浜市と同等で、東京などに比べて規模は小さい。その代わりに中規模の都市が数多くあり、ミュンヘンのBMWを含めて、こうした都市に本拠地を構える会社が多数ある。

当然ながら、東京ほど公共交通網は発達していないうえに、現地の公共交通はしばしば遅延や運休があるので、自動車通勤が一般的。そのため、車両を貸与する制度が普及しているのではないかと思っている。

そのカンパニーカーとしてポピュラーな車種の1つが、5シリーズだという。もちろん、3シリーズを与えられる人も多いだろうが、相応の地位にある人は5シリーズが許され、対象となる人はそれを選ぶのではないだろうか。

一方7シリーズは、役員クラスでないとカンパニーカーとしての選択肢には入らないようだ。先日、開催されたG7広島サミットで、首脳たちを先代7シリーズが運んだのが象徴的なシーンで、世界のVIPを安全快適に運ぶのが主な役目なのである。

つまりヨーロッパでは、BMWの中でも7シリーズは別格なのだ。長きにわたり階級社会が存在していた地域ならでは、と言えるかもしれない。そんな状況から想像すると、新型5シリーズセダンのスタイリングが、7シリーズより3シリーズに近いのは、納得なのである。


現行、G20型3シリーズ(写真:BMW)

新型のボディサイズは、例によって少し拡大した。全長は先代より85mm長い5060mm、全幅は30mm幅広い1900mm、全高は35mm高い1515mmで、ホイールベースも20mm伸びて2995mmになっている。

5シリーズの歴史上初めて、長さが5mをオーバーし、幅は1.9mに達した。今や5シリーズも、日本の道を実用車として使うのは難しいボリュームになってしまった。


G60型、新型5シリーズ(写真:BMW)

もちろん、7シリーズはさらに大柄だ。ただし、こちらは直近のモデルチェンジで、ロングホイールベース版に一本化したためもある。

ちなみに先代7シリーズの標準ボディのサイズは、新型5シリーズに近かった。つまり新型5シリーズは、先代7シリーズの標準ボディのユーザーの受け皿とも言える。


現行、G70型7シリーズ(写真:BMW)

標準ボディは、ロングボディに比べればオーナー自らがハンドルを握ることも多いだろうから、現行7シリーズとまったく違うデザインテイストにしたのは納得できるし、逆に言えば7シリーズはロングボディ一本にしたからこそ、あの形にできたのだと考えている。

新型は、全高も5シリーズセダンとしては初めて1.5mを超えてきた。こちらは7シリーズに続いて、同じボディで電気自動車の「i5」も用意するので、床下に駆動用バッテリーを搭載することもあるだろう。7シリーズも現行型になって、フォーマルユースを意識したためもあるが、全高を大幅に高めている。

新型のスタイリングが先代から大きく変わっていないのは、このような理由がある。ただし7年ぶりの全面変更なので、ディテールは違いが見られる。

BMWの最新トレンドを入れつつも

キドニーグリルは丈がやや長くなり、ヘッドランプは吊り目気味になった。とはいえ7シリーズのように、ナンバープレートを下端に追いやるほどではなく、ヘッドランプは一般的な厚みを持つ。これまでのBMW顔に慣れ親しんだ層に、配慮したようだ。


7シリーズと比較して馴染みのあるデザインを採用(写真:BMW)

サイドはキャラクターラインがシンプルになり、フロントドアの前のルーバー風アクセントも消えてスッキリした。電気自動車を用意したので、それにふさわしい表現にしたとも言える。

BMWデザインのアイデンティティの1つ、サイドウインドー後端の折り返し「ホフマイスターキンク」も健在だ。


「5」の文字が入るホフマイスターキンク(写真:BMW)

3シリーズに続いて後端がドアフレームの外に張り出しており、ロングノーズ・ショートデッキのプロポーションを強調している。新型5シリーズでは、ここに「5」の文字を刻んできたことが新しい。

一方でルーフラインは、ゆったりしたカーブを描いていた先代よりも、直線に近くなったように見える。7シリーズの標準ボディのマーケットを受け継ぐことで、居住性に配慮したのかもしれない。

リアはコンビランプが細くなった。このあたりは7シリーズをはじめ、最近登場したこのブランドの新型と共通していて、今のBMWのトレンドを反映している。


最新トレンドを取り入れつつも、セダンらしいプロポーションは変わらない(写真:BMW)

インテリアは大きく変わった。中でもインパネは、メーターとセンターディスプレイを曲面パネルで連続させた「BMWカーブドディスプレイ」が目を引く。

こちらは7シリーズだけでなく、最近新型に切り替わった「2シリーズ アクティブツアラー」や「X1」、さらにマイナーチェンジを受けた3シリーズにも導入されているものだ。


インテリアの主役となるBMWカーブドディスプレイ(写真:BMW)

BMWが、インテリアデザインの共通化を急ピッチで進めていることがわかる。新型5シリーズが、カーブドディスプレイを取り入れるのは当然のことだ。

さらに、インパネやドアトリムに埋め込まれたガーニッシュには、7シリーズ同様クリスタル調の素材がおごられ、アンビエントライトによりさまざまな色に彩ることができる。

短いスライドレバーになったドライブセレクターやディスプレイを操作するダイヤルが同じ素材になっているのも、7シリーズと同じだ。


アンビエントライトによりさまざまなムードを演出する(写真:BMW)

ただし、7シリーズではインパネのガーニッシュが全幅にわたるのに対し、新型5シリーズはカーブドディスプレイが終わったところで切れており、ドライバーズカーであることを強調している。ドアトリムの造形もダイナミックで、高級感より躍動感を優先したことが伝わってくる。

ホイールベースの延長はわずかなので、キャビンのスペースは写真で見る限り、格段に広くなった印象は抱かないものの、後席の頭上空間は余裕がアップしているように見える。逆にトランク容量は、530リッターから520リッターへと微減した。


後席は頭上空間も含め十分なスペースを確保(写真:BMW)

モデルによる巧みな表現に注目

7シリーズがあのような姿で出てきたとき、「残るBMWセダンも同じようなデザインになってしまうのか」と、危惧した人もいたかもしれない。

でも、以前こちらで記事にしたように、すべてを同じ顔で統一するのは難しい状況であることも事実。

新型5シリーズを見て、7シリーズとのマーケットやポジションの違いを反映してきたと感じた。しばらくBMWは、車種によってキドニーグリルの表現をきめ細かく変えてくるのではないかと予想している。

(森口 将之 : モビリティジャーナリスト)