正社員になりたい……それが難しいなら、結婚して生活の安心を得たい。そう考える女性に厳しい現実が待ち構えています(写真:Ushico/PIXTA)

2019年暮れに婚活相談にいらっしゃった愛知県在住の恵さん(29歳)は、危なっかしい女性という印象でした。LINE通話での相談だったのですが、後ろから車の音が混ざってきて聞き取れない。どこからかけているのか質問したら「外を歩きながら」と言われ、思わず「え!」と叫んでしまいました。

何度か同じ話題がくり返されたのは、メモをしていないから覚えられなかったのでしょう。きちんと屋内で落ち着いて話しましょうと、日を改めて相談を受けることにしたのでした。なお相談は有料です。

フリーターは婚活と就活、どちらを優先すべきか

恵さんは一度も正社員経験がなく、非正規雇用のフリーターとして名古屋にある量販店で働いていました。彼氏は約10年おらず、もうすぐ30歳。ハローワークやキャリアコンサルに相談しながら就職活動をするものの、添削してもらった履歴書でエントリーしても書類通過したのは契約社員のみでした。

あるとき、土産物店の契約社員面接が決まりました。その店は社員昇格の可能性もある求人でしたが、東京オリンピック後の状況は不安定。しかし恵さんは先のことを考えている様子はありませんでした。

小売りやサービス業は正社員登用制度のある企業が多く、恵さんのバイト先もその制度がありました。社員になれる可能性のわからない土産物店よりも、今いるバイト先に正社員登用制度があるなら、そこで頑張ってみて正社員を目指しては、とお伝えしたのです。後述しますが、女性の婚活も、じつはフリーターだと厳しい現実があるのです。

恋愛相談のはずが、ほぼこのような内容で時間が過ぎました。

あれから3年が過ぎ、現在の恵さんにお話を聞きました。恵さんはその後、正社員になって働きながら婚活し、大卒の正社員男性と結婚。現在は共稼ぎ夫婦です。

「子ども時代から絵を描くのが好きでした。高校で進路を決める際、絵が好きなので東京にあるアニメの専門学校を選び上京しました。同じ学校で彼氏もできて、半年ほど付き合いました」(恵さん、以下同)

恵さんは専門学校卒業後、学校に求人が出ていたアニメ制作会社に入ります。正社員ではなくアルバイトだったそうですが、そのときは雇用形態の違いをあまりわかっていなかったそうです。

その会社はいわゆる“ブラック企業”。恵さんは入社1カ月でクビになりかけ、「使えない」と言われて他部署に異動になりました。手取りは15万円ほどで、都内で一人暮らしをしていました。

月給をもらっている同級生がいる中で、自分が時給雇用であることに違和感もあったと言います。

「自分で仕事をとってきてフリーランスとして活躍する人もいる業界ですが、私には無理だと感じました。一方で、入社してすぐ解雇されそうになった経験から、他社に移ったとしても自分がそこできちんと働くイメージも持てませんでした。3年働いた後に退職し、愛知に戻ることにしたのです」

そして実家の近くでアルバイトを見つけ働き始めました。専門学校時代の友だちは同じようなフリーターが多く、正社員として働くための就活をするという選択肢は思いつかなかったと話します。

25歳の頃に、近所のショッピングセンターで手書きのPOPを書いている某チェーンの量販店の求人が目に入りました。絵を描くのが好きな恵さんは「能力を生かせるかもしれない」と応募し、アルバイトとして働き始めました。

デート相手に「アルバイト」だと明かすのに気後れ

しばらくして同僚から、作業療法士の男性を紹介されたことがあったそうです。LINEを交換し、2人で2回ほど食事をしました。そのとき男性から「お仕事は何ですか?」と質問され、自分がアルバイトであることを伝えるのに気後れしたといいます。

デートの段取りや相手の仕事の話を聞きながら、格差を痛感してしまいました。ぎこちない雰囲気が伝わってしまったのか、デート後にお礼のLINEを送っても男性からの返信はありませんでした。そこで初めて、もうすぐ30代になるのにキャリアも恋人もいないことに焦りを感じ、就活を始めたそうです。

正社員を目指すものの、2019年当時の恵さんはアルバイト先の社員になるつもりはありませんでした。当時の心境をこう話します。

「自分にはこの仕事は向いていないと思っていました。アルバイトにも評価制度があるのですが、何年か働いていたのに時給は上がらず不満がありました。だからもっと自分を適正に評価してくれる会社に行ったほうがよいのではとすら考えていました。

今思えば、自分の何が評価されていなかったのかがわかります。あるとき、店長から新商品の売り場作り教えてもらったのですが、自分で陳列を完了させる前に店長に確認を取るべきだったのですが、私は『何年も働いているから確認してもらわなくていい』と思って見てもらわず、そのまま退勤して怒られたことがありました。

現在は店長として教育する側になったので、情報を共有してくれないスタッフがやりにくいのがわかります。でもそのときは、ただ怒られたと感じてしまいました。

それ以降は怒られたくない一心で、毎回新商品が入るたび陳列場所の許可をとっていたら、今度は店長に『他のスタッフはあなたみたいに毎回確認しなくても自分で考えて陳列しているよ。だから評価は上げられない』と言われてしまいました」

恵さんは冒頭の婚活相談後、職場に正社員登用に応募したい旨を伝えました。その後、面接も無事に突破し、2020年春から店長候補の正社員として兵庫県で働くことが決まります。

正社員になった7日後、新型コロナ感染症拡大のため緊急事態宣言が出て、赴任先の店舗は休業になりました。しかしその休業中の時間も無駄にはせず、労務管理などの勉強をしながら、マッチングアプリに登録して恋人探しをスタートさせました。

5人ほどの男性と知り合い、デート。その年の夏頃にのちに結婚することになる1歳年下の男性とマッチングして、2020年末頃から交際が始まります。

しかし、彼氏ができて4カ月後に北陸の店舗に店長として赴任することが決まり、遠距離恋愛になってしまいました。

ここから結婚のために外堀を固める作戦を立てていきました。まずは、上司に結婚を考えている人が兵庫県にいることを伝えます。親にも紹介したい人がいることを伝え、連休には彼を愛知の実家に連れていきました。

そのかいもあってか、翌年に日帰りで会いに行ける大阪勤務になります。無事にプロポーズされて入籍し、現在は転勤がない地域社員の店長として働きながら妊活も視野に入れているそうです。

「入籍の報告をしたときに、今後も私生活のことも相談していいか上司に確認したら、『勝手に辞められるほうが困るから、何でも相談してほしい』と言われました。アルバイト時代は会社にプライベートのことを相談する発想はなかったです。転勤は不安でしたが、正社員は人事異動も考慮してもらえるのだと知りました」

今でもさまざまな研修を受けるたびに、正社員とアルバイトの教育機会の差を感じるそうです。

ファーストキャリアで「結婚のしやすさ」に差が出る

フリーターでも彼氏はできるし、むしろ将来の生活が不安だから結婚したいのだと考える人もいるかもしれません。

しかし、生活基盤を整えてから恋活・婚活するほうがずっとスムーズにいくのです。恵さんの場合は社員登用制度があったので、なおさらキャリアアップの優先をおすすめしました。たとえ結婚したとしても離婚することが珍しくない今、結婚で生活を安定させようとするほうがハイリスクな選択だと思います。

また、女性も新卒で正社員になったか否かで婚姻状態に大きく差が出ます。


(筆者作成)

かつて、ある恋愛や婚活のメディアから「結婚しない女性が増えた原因」について取材を受けた際に、非正規雇用の女性が増えたことも理由の一つに挙げたのですが、気分を悪くする読者がいるという理由で、その部分は削除されてしまいました。

結婚相談所では、男性の場合は収入や雇用形態で入会が断られることがありますが、女性は無職やフリーターでも登録できます。そういった意味では、非正規雇用でも男性よりは結婚のハードルが低いので、婚活事業者の中には、経済力がなく将来が不安な女性は婚活を優先したほうがいいと言う方だっているでしょう。

しかし、マッチングアプリや結婚相談所では、フリーターの女性は正社員や公務員女性と比較検討されるという現実が待っているのです。

このことを「昔と比べれば働く女性のほうが結婚しやすくなった」程度に思っている方も多いのですが、近年、急速に非正規雇用の女性の結婚が難しくなっています。

「ゼクシィ結婚トレンド調査2022」によると、首都圏在住で結婚式を挙げた夫婦のうち、妻がフリーターというカップルが2016年は9.5%いましたが、2022年はわずか3.1%です。今の花嫁は8割以上が正社員か公務員なのです。


(筆者作成)

もちろん結婚式をせず入籍したフリーター女性もいるとは思いますが、いまや結婚式は正規雇用カップルの特権となりつつあるのかもしれません。

「自分には正社員は無理」という思い込み

恵さんはかつて、「正社員とは完璧な社会人マナーを身につけた人がなれるもの」と思っていたそうです。アルバイトでも社員と同じ仕事をしているのに待遇に差がでるのは、そういう社会人マナーの差なのだろうと。

実際に社員になって結婚した今、かつての自分に伝えたいことを伺いました。

「フリーター時代は、『正社員は完璧な大人じゃないと採用してもらえない』と思っていたけれど、そんなことはありませんでした。正社員登用があるならすぐにでも利用してほしい。

『責任が重くなるのは嫌だから社員は無理』と言っているフリーターの友人もいます。私も昔はそう感じていました。実際は何もかもを自分で決めるわけではなく、上司に相談すればよいし、責任感よりも基本的なコミュニケーションがとれるほうが重要なので、それができるなら社員は務まると思います」

恵さんに今回の取材を打診したとき、「東洋経済オンラインは私もたまに読んでいます。フリーターのときは読んでなかったけど」と話していました。情報の有無で女性の人生が変わってしまい、雇用形態で分断されるのであれば、ものすごく歯がゆい現実です。

もちろん、正社員になりたくてもなれない苦しい立場の方もいらっしゃると思います。決してフリーターだからダメだということではありません。ただ、もしもチャレンジできる状況にあるならば、そして就活と婚活どちらを優先すべきか迷っている方がいらっしゃるならば、キャリアをまずは考えていただきたいと切に思います。

人手不足が叫ばれる中、多くの業界で有効求人倍率は上昇し、就活もしやすくなっています。ぜひ、結婚したい人ほど今を逃さないで活動していただきたいです。

(菊乃 : 恋愛・婚活コンサルタント)