社外取締役の実効性に疑問がもたれている(写真:horiphoto/PIXTA)

3月決算企業が株主総会を開くこの季節。今年、大きな争点になっているのが、社外取締役です。最近、「社外取締役は会社の役に立っているのか」という疑念や「報酬が高すぎる」という批判が急速に高まっています。

当の社外取締役は、こうした疑念や批判をどう受け止めているのでしょうか。今回、東証一部上場X社の社外取締役を務める佐々木一郎氏(仮名)にインタビューしました。社外取締役の実態と課題を見ていきましょう。

基本は取締役会に出るだけ

――社外取締役に就任した経緯を教えてください。

佐々木:私は東証一部上場のメーカーY社で社長を務めた後、今はY社とグループ会社の顧問などをしています。3年前、X社から依頼をいただいて引き受けました。エージェントを通していません。

――それ以前からX社の経営陣とはつながりがあったんですか。

佐々木:いえ、経済団体の集まりで名刺を交換した程度です。X社では、メーカーでの経営経験がある社外取締役を探していて、私が候補に上がったようです。

――過去から現在まで社外取締役はX社だけですか。

佐々木:X社だけです。たまにエージェントから「もう1社やりませんか」という打診がありますが、まだY社の仕事もしていて多忙なので、断っています。

――X社での活動状況についてお聞きします。まず、取締役会の出席状況から教えてください。

佐々木:年13回取締役会があり、すべて出席しています。X社には社外取締役がもう1人いますが、全出席です。社外取締役の都合を最優先して取締役会の年間スケジュールを決めてくれるので、出席は問題ありません。

――取締役会はどれくらい時間がかかるんですか。

佐々木:だいたい2時間です。3時間を超えたことはありません。

――取締役会の2時間のほかに、毎月どれくらいX社のために時間を使っていますか。

佐々木:基本は取締役会に出るだけです。事前に資料が送られてくるので目を通しますが、20〜30分です。複雑な議案があるときなど、X社の担当者から事前のレクチャーを受けることがありますが、年1〜2回です。

――報酬金額を教えてください。

佐々木:年間約1000万円です。

――失礼ながら、月2〜3時間で年収1000万円というと、楽な仕事ですね。

佐々木:そうですね。X社からお声がかかったとき、「決してご負担になることはありませんので」と言われました。負担になるようなら、お断りしています。

議論は活発だが、実効性はなし

――取締役会の議論について伺います。どういう流れで進むのでしょうか。

佐々木:まず、会社側から議案について説明があり、全員で議論し、必要なら採決します。そのあとフリーディスカッションの時間があります。

――議論は活発ですか。

佐々木:ええ、かなり活発ですよ。フリーディスカッションでは、いろんな意見が出てきて、時間オーバーになることもあります。

――佐々木さんから議題を提案することはあるのでしょうか。

佐々木:以前はフリーディスカッションのときに経営の時事トピックなどを持ち出したりしていましたが、やめました。

――どうしてやめたんですか。

佐々木:2年前、私が研究開発について他社事例を紹介しました。口頭で5分程度です。すると、翌月の取締役会で、前回のご指摘についてと50ページ超のたいそうなレポートが提出されました。企画部門が何日もかけて作ったんでしょうね。私の一言でX社の従業員が大残業をするというのは申し訳ないので、やめました。

――社外取締役には、モニタリング(経営監視)機能とマネジメント(経営意思決定へのアドバイス)機能の2つが期待されています。X社では、社外取締役2名で2つの機能を分担しているのでしょうか。

佐々木:明確には分担していません。ただ、取締役会では、私がマネジメント機能、弁護士のもう1人がモニタリング機能を中心に発言しており、なんとなく分担しています。

――佐々木さんともう1人の社外取締役は、X社でモニタリング機能とマネジメント機能を十分に発揮していますか。

佐々木:それは、X社の株主が評価することなので、回答を控えさせてください。

――では、佐々木さんがY社で社外取締役を起用した経験でも、一般論でも結構ですので、見解をお聞かせください。まず、社外取締役がモニタリング機能を発揮できるのかという疑念について。

佐々木:できないしょう。社外取締役は、会社側から提供された情報に基づいて経営者に裁量的行動があるかどうかを判断します。会社側、つまり経営者が自分に不都合な情報を隠そうと思えば、社外取締役の目を欺くのは実に簡単です。「社外取締役がいるから下手なことはできない」という緊張感があることはありますが、実効性はゼロです。

――なるほど。社外取締役のモニタリング機能には限界があると。

佐々木:もちろん、モニタリングは必要ですし、メインバンクや監督官庁が監視した昔のやり方よりはましかもしれませんが、社外取締役という形が本当に適切かどうか。もっと良いやり方があるような気もします。

やはり報酬は高すぎる

――マネジメント機能のほうはどうですか。

佐々木:こちらも、発揮できているとは思いません。というより、私を含めてほとんどの経営者は、社外取締役にマネジメント機能を期待していないはずですよ。

――そうですか。社外取締役が社内や業界の事情に詳しくないからですか。

佐々木:と言いますか、経営者は、意思決定に重要な生の情報や深い分析をタイムリーに知りたいわけです。そのために、日頃から消費者・ユーザーと対話したり、社員やコンサルタントに分析してもらっています。月1度の取締役会で社外取締役が発する一般論や思いつきの発言を本気でありがたがっている経営者がいるとしたら、経営者失格でしょう。

――社外取締役が十分に機能を発揮していないとなると、社外取締役の報酬は高すぎるという批判に繋がるわけですが……。

佐々木:高すぎます。バブルですね。Y社の場合、従業員は毎日働いて平均年収500万円台、一方、社外取締役は月2時間で約1000万円。労働組合から文句を言われないか、心配です。

――最後に、社外取締役という制度の今後について、見解をお聞かせください。

佐々木:社外取締役について批判的なことを述べましたが、今はまだ過渡期。社外取締役を導入して終わりでなく、実効性がある形に改革していく必要があると思います。

――ありがとうございました。

佐々木氏が「もっと良いやり方がある」「改革していく必要がある」と述べた社外取締役などコーポレートガバナンスのあり方について、筆者の見解を述べます。

日本では1990年代前半まで、メインバンク・監督官庁・労働組合が経営者を監視する仕組みでした。しかし、この3つが力を失い、ガバナンス不在の状態になりました。この状況で2000年前後、総会屋事件や品質表示偽装問題など不祥事が多発し、ガバナンス改革が叫ばれるようになりました。

東証は、グローバル化や外国人の持ち株比率が上昇したことを受けて、アメリカ型のガバナンスを取り入れました。株主重視のアメリカ型ガバナンスの主役が、株主から送り込まれる社外取締役です。こうして日本では、ガバナンス強化=社外取締役の導入となっています。

社外取締役が主役のガバナンスで良いのか

しかし、インタビューで見たように、社外取締役の機能には限界があります。また、株主だけでなく、従業員・消費者・政府・地域住民などさまざまな関係者が企業に大きな利害・関心を持っています。

だとすれば、社外取締役だけでなく、いろいろな利害関係者が経営者を監視する多元的なガバナンスが必要ではないでしょうか。とくに、企業の内情を最もよく知る従業員がガバナンスに大きな役割を果たすことを期待したいものです(経営者は嫌がるでしょうが)。

佐々木氏が最後に述べたように、社外取締役を導入して終わりでなく、実効性がある形になるよう改革が進むことを期待しましょう。

(日沖 健 : 経営コンサルタント)