左からプジョー「208」、ルノー「トゥインゴ」、シトロエン「C3 エアクロス」(写真:Stellantis、ルノー・ジャポン)

コンパクトなボディサイズで日本の道路事情にもマッチし、加えて他にはない洗練され、都会的なイメージを想起させるフランス車。メルセデス・ベンツやBMWといったドイツ車と比べれば販売台数は多くないが、街中でも目にすることが多くなった印象だ。

実際にここ数年間、フランス車は日本国内で売上を伸ばしており、日本市場での存在感を徐々に増してきている。ブランドでいえば、プジョー、ルノー、シトロエンの3つ。このうち、プジョーとシトロエンはステランティス傘下であり、ルノーは日産・三菱とアライアンスを結ぶメーカーだ。


プジョーの最新モデル、2023年6月20日に登場した4ドアクロスオーバークーペ「408」(写真:Stellantis)

ちなみにステランティスは、グループPSAとFCA(フィアット・クライスラー・オートモービルズ)が合併してできた多国籍企業であり、フィアット、クライスラーのほか、ジープやアルファロメオ、マセラティ、オペルなど、フランス、イタリア、アメリカ、ドイツ、イギリスの計14ブランドで構成されている。

さらにさかのぼると、グループPSAはオイルショックで経営難に陥っていたシトロエンを、1976年にプジョーが傘下に収めたことで誕生している。つまり、プジョーとシトロエンは50年近く経営をともにしているわけだ。


3列シートもあり近年、シトロエンの主力モデルの1つとなっている「ベルランゴ」(写真:Stellantis

では、これら3ブランドは一体、どんな特徴があるのか? そして日本ではどんな人が購入しているのか?

プジョー、ルノー、シトロエンの3ブランドのクルマを購入した人のデータを分析してみよう。いつものように市場調査会社のインテージが毎月約70万人から回答を集める、自動車に関する調査「Car-kit®」のデータを使用する。

<分析対象数>
■プジョー:460名
■ルノー:377名
■シトロエン:189名
※対象はいずれも2017年1月以降の新車購入者
※シトロエンから2014年に独立したDSオートモビルは、高級車市場をターゲットとし性格が異なるため、今回は分析対象外とする

なお、今回の分析対象者は、「2017年1月以降の新車購入者」であることを、予めお伝えしておく。1世代前の車種の購入者も含まれるから、「最新のフランス車購入者」というより、「ここ数年で増えたフランス車購入者」と考えてもらったほうがいいからだ。

女性が多めのシトロエン、男性多めのプジョー&ルノー

まずは、どのような人がフランス車を選んでいるのかを見ていこう。基本的な属性である性別・年代構成から確認する。


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男女比では、プジョーとルノーは7割程度が男性ユーザーであるのに対し、シトロエンは“男女半々”であるのが特徴的だ。

今、日本国内でのシトロエンの主力商品は、マルチパーパスワゴンの「ベルランゴ」や「エアクロス」の名を持つSUVモデルだが、これまでは「C3」「C4」といった比較的コンパクトなハッチバック車が中心であった。特にC3は取り回しのしやすいサイズのクルマで、女性に選ばれやすいのかもしれない。

とはいえプジョーには「208」や「308」、ルノーには「トゥインゴ」「ルーテシア」などのコンパクトカーがあり、いずれもよく売れている。


ルノーのベストセラー、Bセグメントハッチバックの「ルーテシア」(写真:ルノー・ジャポン)

そのため、取り回しのしやすさだけが、シトロエンの女性人気の理由ではなさそうだ。

ここには、メーカーや車種へ抱く“ブランドイメージ”が影響しているのであるが、このあたりは最後に見ていくことにしよう。

年代別では、20代と30代を合わせて約1/4、40代、50代、60代以上それぞれが1/4ずつといった分布である。


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シトロエンにおいては60代以上の割合が35%と高くなっており、その分40代・50代の割合がプジョー、ルノーより少ない。プジョーとルノーは、40代がボリュームゾーンだ。

手の届きやすい価格帯

クルマにあまり詳しくない人の中には、今も「輸入車は国産車より高価だ」というイメージを抱く人は多い。その点、プジョー、ルノー、シトロエンはフランスをはじめとするヨーロッパ諸国において、ドイツのフォルクスワーゲンのような普及ブランドであるから、実はそこまで高価ではない。

3メーカーの価格に関するデータを、以下のとおりまとめた。車種を問わず、ブランド単位でくくっている結果になるが、ここでは実際の「値引き前車両本体+オプション価格」「値引き額」「下取り額」を見ていく。


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下取り額は、購入者ごとに下取り車が異なるので参考程度にとどめるが、「最終支払い額」のデータを見ると、プジョーが350万円に届かない程度、ルノーとシトロエンは300万円前後となっており、国産車と大きく差がある価格帯ではないことがわかる。

300万円台で購入できるとなると、選択肢に上がってくる人も多そうだ。ネックとなるのは、価格よりも販売店網やそれに付随するアフターサービスのほうだろう。都市部であればそれなりの数の販売店があるが、地方となるとなかなか近くになく、それだけで選択肢に上がりづらいかもしれない。


2023年3月にフルモデルチェンジしたルノー「カングー」は384万円〜(写真:ルノー・ジャポン)

ただし、2020年代に入ってからは部品やエネルギー価格の高騰から、輸入車の値上げが続いており、直近の新車購入者だけで見た場合は、平均購入価格も上がっていると思われる。

では、プジョー、ルノー、シトロエンを購入した人々は、どれくらい「強いこだわり」を持っているのだろうか。「車種決定の理由」のデータを見てみよう。結果は、「車そのもの」と答えた人が8〜9割と非常に高かった。参考までに、国産車を含む新車購入者全体ででは、「車そのもの」と答えた人は66%程度なので、フランス車の選ばれ方の特徴は明らかである。


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ここからは「何を重視して選んだか」を紹介することで、特徴をさらに細かく見ていこう。

「スタイル・外観」を8割程度、そして「ボディカラー」を5割程度の購入者が重視しており、見た目に関する項目のスコアが高い。


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また、どちらかといえば「乗り心地」を求めるプジョー、シトロエンに対し、ルノーは「走る楽しさ」「出足の加速」といった項目が他より高く出ており、キャラクターの違いが見えてくる。

ルノーも乗り心地のよさに定評のあるブランドであるが、R.S.(ルノースポール)の存在も大きいのだろう。「メーカー(ブランド)」を最も重視しているのはプジョーであるが、3割強とそこまで多いわけではない。

メーカーごとの明らかな特徴

それでは各車のオーナーは、自身が購入したブランドに対してどのようなイメージを抱いているのだろうか。「購入したメーカーにあてはまるイメージ」を複数回答で聞いた。


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3ブランドで共通して「センスが良い」「個性的」「洗練」「都会的」「遊び心がある」のスコアが高かった。比較対象として新車購入者全体と比べてみると、そのスコアの差は一目瞭然である。これも、フランス車の特徴であると言えよう。

より細かく見ていくと、「洗練度合いが高くセンスが良い」プジョーと「個性的で遊び心のある」シトロエン、そしてその間のルノーといった結果となった。

この3ブランドは、前述のとおりラグジュアリーというより日常に溶け込むようなラインナップであるため、「ステータス性」のスコアが低いのも特徴だ。ステータス性よりも個性なのである。


マイナーチェンジで個性的なスタイルに磨きがかかったシトロエン「C3 エアクロス」(写真:Stellantis)

「技術力」「信頼感」「安定感」においては、新車購入者全体の評価より軒並み低い。このあたりは、国産車よりも劣っていることを理解したうえで購入していることが、見て取れる。そのマイナスを打ち消すほど、上述の各種イメージが高評価ということであろう。

モデル別でもさらなる特徴が

メーカーへのイメージに続き、購入した車種そのものへのイメージを確認してみよう。たとえば、プジョー 208を購入した人は208のイメージを、ルノー トゥインゴを購入した人は同様にトゥインゴについてそれぞれ回答した結果である。

ここでは、50サンプル以上の回答がある車種を中心に、各社の主力商品について取り上げている(シトロエン C4、ベルランゴはそれぞれ30サンプル、31サンプル)。まずは、プジョーの4車種から見てみよう。


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プジョーでは「都会的」が5〜6割といずれの車種においても高く、「運転を楽しめる」は4割程度と、シトロエンより高いがルノーより低いところに位置する。「スポーティ」も高く出ており、このあたりのイメージから、冒頭にふれたように男性が多くなっているのかもしれない。

SUVタイプである「2008」「3008」では「アウトドア」の回答が2割程度ある。一般にSUVは男性ユーザーが多いため、こういったラインナップからも男性が多くなっていそうだ。


Bセグメントハッチバック「208」のSUV版となるプジョー「2008」(写真:Stellantis

続いてのルノーでは、「トゥインゴ」と「カングー」での「かわいい」の高さが非常に特徴的である。


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またトゥインゴとカングーの2車種は「個性的」のスコアも高く、まさにそれぞれのキャラクターがユーザーに届いている印象だ。トゥインゴは「運転を楽しめる」のスコアも6割近くと高い。

全長3645mm×全幅1650mmというコンパクトなボディにRR(リアエンジン後輪駆動)という、特殊なレイアウトゆえの結果だろう。かわいいうえに走りも楽しめる、フレンチコンパクトの代名詞的な存在と言えるかもしれない。


ルノー「トゥインゴ」は、日本で販売されるのは珍しいAセグメントのコンパクトカー(写真:ルノー・ジャポン)

最後にシトロエンの結果を紹介する。C3とC4の「個性的」のスコアがとても高い。どちらも街中で一目見ればわかる、唯一無二なデザインが特徴的である。悪目立ちせずに存在感を発揮できるのがシトロエンらしさのひとつでもあり、これが45%という高い女性比率につながっているのだろう。


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ベルランゴは、そのボディタイプゆえに「アウトドア」のスコアが高くなっている。日本ではカングーのほうが歴史は長いが、ベルランゴもその優れたパッケージで昨今、存在感を強めている印象である。

「スライドドアは欲しいが、国産ミニバンではないものを選びたい」「他の人と被りたくない」といったこだわりの強い層に今後も支持されていくであろう。カングーにはない、3列シートモデルをラインナップするのも強みだ。

他人とは違った選択をしたい人へ

これまで見てきたように、フランス車はトヨタやホンダといった国産車とも、輸入車の中で最大シェアを誇るドイツ車とも大きく異なる特徴を持つ。

製品面・機能面での特徴としては、輸入車でありながら小型であること、手の届きやすい価格帯の車種が多いことがあげられるであろう。また情緒面でいえば、洗練されたエクステリア/インテリアデザイン、特徴的な色使い、フランスという国自体がもたらすイメージ(特にパリ)、他人とは少し違った選択、といったものが考えられる。


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これらの要素により、フランス車は日本国内でも他とは違ったポジショニングを明確に確立しているといえよう。

そろそろツール・ド・フランスが開幕する。筆者は毎年オンラインで観戦しているが、大会期間中はフランスの自然や市街地をたくさん目にする。そういった文化や自然環境の中で生まれているフランス車に、いつも以上に想いを馳せることができる楽しい時間だ。

ここ数年間、新しいモデルも続々と登場し、好調なフランス車の販売状況が、今後どう変化していくかを追っていきたい。

(三浦 太郎 : インテージ シニア・リサーチャー)