画廊と美術館での学芸員経験を持ち、現在は美術エッセイストとして活躍中の小笠原洋子さんは、高齢者向けの3DK団地でひとり暮らしをしています。「ケチカロジー」という言葉を生み出し発信してきた小笠原さんに、ひとりで過ごす時間の使い方についてつづってもらいました。

73歳、ひとり暮らしの豊かな時間の使い方

“おひとりさまのケチじょうず”の私は、時間にもケチです。時間にケチというのは、もったいなくてなにかせずにはいられない性格で、常になにかをしながら過ごしています。

【写真】せいろのフタがおしゃれなオブジェに

すでに年金暮らしで、お稽古事にも行っていないので、時間を埋める仕事は家事だけ。そこに休息時間も設定しています。休息といえど、お茶一杯で喉をうるおしたり、ちょっと目を閉じたりするだけです。

昼寝ができない性分ですので、突っ伏して目をつぶっても100数えないうちに顔を上げてしまいます。最近は200まで数えるよう、心の手で頭を押さえて「休め!」を義務づけています。

●好きな時間の使い方は、家の細かな部分を変化させること

さて、私がいそしむ家事とは? ひとり暮らしですから、のんびり過ごせばいいはずです。それができないのは、おそらく家事が趣味になっているからだと思います。でも得意な家事は、掃除や洗濯や料理でありません。それらも最低限は行いますが、私にとってあまりおもしろ味のない家事であり、ほかにおもしろい家事があるからです。

おもしろい家事とは、「細かな片づけ」です。そして私は家の中を動き回るのが好きです。部屋のちょっとした片隅を変化させてみるのが好きなのです。

そもそも、家具やものの量は少なく、一般的な置物や飾り物はほぼありません。それよりは、これが飾りものかというようなものを目立たないように置くのが好きです。たとえば鉢植えをつるすネットに、植木鉢ではなくからのカゴを入れて小物入れにしたりしています。

また、布巾など掛けられるマクラメ編みのフクロウを、林を背景にしたベランダ側のガラス戸につるして、“用の美”を楽しんだりしています。

また帰宅後にはずした指輪を置く掌(てのひら)型オブジェを、棚のアクセントとして置いてみたり、殺風景な台所壁に和風の調理具をかけてみたりなど、用途のある小物でアクセント化しています。

傑作は、照明シェードかもしれません。滅多に使わなくなったせいろのふたを、筒形のそっけない傘に取りつけてみたのです。この下にベッドがありますが、明かりのかすかな漏れ具合がすてきですよ。

邪魔扱いしていた金属製の脚立を、意図的に目立つ所に置き、その上にアラベスク文様のトレイやオリジナル照明具をのせて、無骨さとお洒落のアンバランスをおもしろがっています。またある年度は、カレンダーを買うのがもったいないので、前年度の暦12枚の裏紙に、新年度の暦を手書きして一年過ごしました。毎月、翌月の日付を2、3色のサインペンで書くのが楽しみでした。

また掃除機使用はなるべく避け、目についたゴミや隅っこのホコリは、すぐ拭い取ります。そのために、いつも各所にボロ布をかぶせて置いてあります。それらも古着を切ったりしたものですが、針仕事は、「起死回生の理」を見るようで心地よいものです。

それくらい、家のことを工夫することが私にとって豊かな時間の使い方です。

●時間に余裕をもって過ごすことも大切

ほかにも、自然と触れあう散歩や、図書館通いは日課です。交通費や書籍代が浮きます。その他、歯磨きにも時間をかけていて、一日5回、歯間ブラシや舌ブラシも併用しているほどです。

そんな好きなことに時間を使いながら日々を暮らしていますが、たまに公的機関などからの思いがけない問い合わせなどが飛び込んできて、緊張が走ることもあります。苦手なことへの対応は、なによりも「遅れない」ということですね。すぐに着手し、夜や明日に持ち越さないのが、あとでのんびりするための鉄則です。余裕があれば、間違えがないか見直すこともできますものね。

外出時の乗車時間や、人との待ち合わせも、私は早めです。旅先などで桁違いに早く到着しても、その時こそ空白時間を楽しむことができると考えます。旅の興奮を鎮めること。心をまっさらにして、自然と湧き上がる旅の喜びを味わうのです。

そんなケチじょうずの時間術でした。