(写真:blew.p/PIXTA)

進化してきたAIに淘汰されないためには、「選ばれる側」ではなく「選ぶ側」になる必要があります。人やAIに的確に指示を出せるようになるにはどうすればいいのか、『瞬考 メカニズムを捉え、仮説を一瞬ではじき出す』より一部抜粋・編集のうえ、「YOASOBIを超える音楽ユニットのコンセプトを考える」をテーマに解説します。

AI時代に必要なのは“仮説をはじき出せる力”

インターネットによって、モノだけでなく、人も含め、あらゆるものがつながっている状態になった。「つながった時代」云々は、以前から論じられているが、この「つながった時代」によって引き起こされた変化を、日々の働き方、自分自身の思考法に落とし込めているビジネスパーソンは非常に少ない。

今後、ChatGPTに限らず、さまざまなAIツールが続出するはずだ。それらを使いこなせるかどうかで、生産性に圧倒的な差が出てくるだろう。ただし、AIツールにタスクを依頼して、使いこなすには、指示を出す必要がある。

タスクの依頼先が、人間のスペシャリストであっても、AIであっても、指示する側が、「何をやるか」という目的を設定することが、非常に重要である。大目的を設定できれば、それを中目的、小目的に因数分解し、その目的を実行するうえで最適な人材、またはAIに仕事を頼めばよいからだ。

目的設定のためには、「何が課題なのか」を明確にする仮説構築力が求められる。課題を明確にする際には、時間軸をどれだけ取るか、範囲をどれだけ取るかが重要になる。その切り取る範囲によって、課題自体が変化する可能性があるためだ。

AI時代に人間が仮説構築力を鍛え、課題発見力を高めるためには、時間軸を長く取り、範囲を広く取ってものを考えることが要求される。そのためには、さまざまなことを知っておかなければならない。

AIが進化すればするほど、リベラルアーツ、すなわち教養の深さが大きく問われることになる。仮説が湧くのは、教養が深いからであり、そうでなければ、仮説は湧かない。

指示が出せるのは、仮説が湧くから。仮説が湧かなければ、指示は出せない。AIが加速度的に進化していく世界において、仮説構築力があるかどうかが、死線を分けるだろう。

この仮説を一瞬ではじき出す思考法を、私は「瞬考」と呼んでいる。

「YOASOBIを超える音楽ユニットのコンセプトを来週中に考えてほしい」

あなたが新米の音楽プロデューサーだった場合、このお題に対する仮説を瞬時に出せるだろうか?

2020年、YOASOBIの「夜に駆ける」は、その年のBillboard Japan Hot100の年間首位を獲得した。トップアーティストとしての地位を築いたYOASOBIだったが、シングルCDを出さずに首位を獲得したのは初めてのことだった。その後も、ヒットを連発している。

一般的に、アーティストは自分の恋愛経験や日々の体験をもとに作品を作ることが多い。が、YOASOBIは異なる。「小説を原作」にして楽曲を作っているのだ。

ネタ切れを防ぐには?

どれだけ才能があるアーティストでも、自分の体験だけがアウトプットの源泉だと、やがてネタは枯渇する。40歳や50歳になるまで曲を作っていたら、ネタ切れを起こすことは当然ありうる。

しかし、YOASOBIは、小説を原作としているため、無限に作品を生み出すことができる。自分の体験は有限でも(例えば、恋愛を自分で体験できたり、友人の経験談を聞いたりしたとしても多くて数十くらいだろう)、小説となるとネット隆盛の今、オンライン上に無限に楽曲の「原石」が転がっている。

だから、YOASOBIには「ネタ切れ」という概念がないのだ。永遠に楽曲を生み出し続けることができる。しかも、楽曲のネタとなる小説は若者が作っているため、若者だけが持つ感性を取り入れた楽曲制作が可能だ。

また、彼らは、アニメーションをつけて配信している。第1弾の「夜に駆ける」のアニメーションは、当時、東京藝術大学に在学中だったクリエーター・藍にいなが制作したものである。

原作は小説、アニメーションはアニメーター、作詞作曲はAyase、歌い手はikura、というように、すべてのパートが分業されており、この仕組みが大ヒットの斬新な「メカニズム」の一つだと考えられる。

さらに、ここから今後の「楽曲のヒットの法則」を考えてみよう。このYOASOBIのメカニズムは、これからもヒットを出し続ける可能性が高い。優良なクリエーターとつながっていると、原作となる小説、アニメーションは、世界中から募集できるため、「最高のもの」を選択できる可能性があるからだ。いずれカナダの小説を原作とし、イギリスのクリエーターと共同で作詞作曲し、中国のクリエーターがアニメーションを作成、YOASOBIが英語で歌うというパターンが出てきてもおかしくない。

一度大きなヒットが出ると、世界中のクリエーターからオファーが来るだろう。自分の能力だけではなく、世界中の能力を使うことができれば、ヒットを連発できる可能性は高くなる。

ちなみに、すでにK‐POPでは、作詞・作曲・アレンジは世界中のクリエーターから募集してスクリーニングを行っている。そのためBTSのような世界レベルのアーティストになると、世界中から音楽の提供があり、そこから「最高のもの」を選ぶことができる。勝ち組に最も優れた楽曲が提供される仕掛けができている。

YOASOBIのメカニズムを解明すれば、今後も同じようなアーティストが出てくることが予見できる。またヒットするには、世界中からアニメーション、原作となる小説、作詞作曲を集められるプロデューサーの役割が大きく影響することも想定できる。

このメカニズムから考えると、BTSも、YOASOBIもヒットを続けるはずだ。そして同じようなタイプのアーティストがこれからも出てくるはずである。ただし、同じようなアーティストを作り出そうとする際には、プロデューサーが鍵を握る。つまり、世界中のクリエーターや、彼らが生み出す作品を「統合」できる優秀なプロデューサーが存在するかが決め手になるという仮説まで考えられる。

「知っている」ことの強み

さて、最初に投げかけた問いに戻ろう。

「YOASOBIを超える音楽ユニットのコンセプトを来週中に考えてほしい」

ここまで解説した内容が頭に入っていれば、何らかの仮説が湧いてくるような気がしないだろうか。私がこのような発想ができるのは、

−そもそもYOASOBIという音楽ユニットを知っている

−彼らの楽曲の制作方法を知っている

−彼らのMV(ミュージックビデオ)の制作方法を知っている

−K‐POPの楽曲制作の方法を知っている……

からである。

ありていに言えば、「単に知っているから」仮説が湧くのだ。知っていることは、すぐに思いつける。この重要性に気づくことが、瞬考ができるようになるための第一歩である。さまざまなデータや事象をインプットして、そこから何らかのメカニズムを解明すると、仮説が湧き上がってくる。


(山川 隆義 : ビジネスプロデューサー)