画期的なアイデアにつながるメモの書き方とは(写真:jessie/PIXTA)

耳馴染みのない専門用語、難解な公式、膨大な英単語、数分間のスピーチ原稿やプレゼンの台本、複雑な歌詞やセリフ、何人もの顔と名前……。

大量に覚えなければいけない課題やテキストを前に圧倒され、絶望した経験が皆様にもあるかもしれません。そんな方にオススメしたいのが「A4・1枚記憶法」

A4・1枚の「魔法のシート」に書くだけで、覚えにくいものも大量に記憶できる画期的なメソッドです。

考案したのは、記憶力日本一を6度獲り、日本人初の「世界記憶力グランドマスター」の称号を得た池田義博氏。

池田氏は、40代半ば「ド素人」の状態からたった1年で記憶力日本一になりました。

その体験から生まれた「超効率的なシート学習法」をまとめたのが新刊『まるごと覚えて 頭も良くなる A4・1枚記憶法』で、同書は発売後たちまち重版がかかるなど、大きな話題を呼んでいます。

以下では、その池田氏が「売れる企画の立て方」について解説します。

秀逸なアイデアの量産は可能か

「新規プロジェクトを構想したい」「面白い企画を立てたい」「アイデアを提案したい」……。


ゼロベースで、アウトプットをしたいとき。自由に考えられる楽しさがある反面、「どうしよう?」という迷いや「大丈夫だろうか」という不安も湧いてくるものです。

企画をつくるのに苦手意識を持つ人も多いと思います。

そんな人々を助けるため、昔から無数の「アイデア創出法」が編み出されてきました。私もゼロからの企画を立てることが好きで、そのような手法を実際に数多く試してきました。

「アイデア創出法」の代表格といえば「SCAMPER法」でしょう。

「SCAMPER法」とはアメリカの創造性開発の研究家、ボブ・エバール氏が開発したフレームワークです。「アイデアの発想にはいくつかの典型的なパターンがある」として、そのパターンに沿った質問を投げかけることでアイデアを導き出すという方法です。

アイデアを生み出す7大パターン

「SCAMPER」とは、次の7つの単語の頭文字を集めた略称のこと。各単語にいったいどのようなビジネスモデルが相当するか、具体的例とともに紹介しましょう。

●Substitute(代用する)……豆腐ハンバーグ、モスバーガー開発のライスバーガー(パンを米に代替)
●Combine(組み合わせる)……スマートフォン(携帯電話+パソコン)、ドラッグストアでの食品販売
●Adapt(適応させる)……ドローンの農業転用
●Modify(修正する)……ダイソンのサイクロン掃除機(サイクロン装置を掃除機に応用)
●Put to other uses(他の用途を考える)……高齢者用オムツ
●Eliminate(削減する)……格安航空便チケット
●Reverse・Rearrange(逆転させる、再編成する)……逆さ傘(濡れた面を内側に収納)

とはいえ、ここに挙げた例は、誰もが知る大成功例ばかり。もちろん水面下には、無数の失敗事例が潜んでいると考えるべきです。

SCAMPER法のようなアイデア自動生成法の良さは、限られた時間で、無数のアイデアを出せる点です。

では、よくアイデアにまつわる話で聞く「急にいい企画が降ってきた」「夢の中でアイデアを教えてもらえた」という体験はどのように生まれるのでしょうか。

「思いがけないアイデア」と出会うためには、「脳をもっと使うこと」をおすすめしたいと思います。

まだ研究途上ではありますが、脳には「問いを投げかけておくと、答えを自動的に収集・生成してくれる」という能力があります。近頃はChatGPTなどAIが答えるチャットサービスも話題ですが、本来、そのはるか上を行くのが私たちの脳なのです。

なんといっても、脳には大きな強みがあります。それは、各人それぞれの記憶や嗜好をすでに熟知してくれている点です。

当たり前の話ですが、自分自身に「欲しい答えの条件」をこと細かに説明する必要などありません。ですから使い方さえ間違えなければ、これほど優秀な相棒はいないのです。

自分で考えてはいけない、脳に任せよ

そこで紹介したいのが、私が開発したA4・1枚の「4分割シート」

このシートを使えば、通常稼働をしていない脳の部位にまで刺激を与え、フル回転をさせることができます。

そんな状態を私は「脳に任せる」と呼んでいます。まず、このシートの作り方を説明しておきましょう。

簡単! A4・1枚「4分割シート」の作り方

A4サイズの紙を縦半分、横半分に折り(順不同)、全体に大きな十字の折り目を付けます。

ここでは左上を第1象限、右上を第2象限、左下を第3象限、右下を第4象限とします。第1から順に、第4の象限までZ字を書くような順で記入していきます(※通常、数学のグラフなどでは、右上が第1象限、左上が第2象限)。


A4サイズの紙を縦半分、横半分に折り(順不同)、全体に大きな十字の折り目を付ける (図『A4・1枚記憶法』より)

何をどこに書くか

第1象限(左上)=問い(欲しいアイデア、考えるべきテーマ)

第2象限(右上)=そのアイデアを成立させるための条件(狙いや、予算、期日など)

第3象限(左下)=過去の事例や、類似の例(既成のものの分解図などでもよい)

第4象限(右下)=ひらめいたこと、気付き(ひらめくまで空白にする)


第1象限(左上)=問い(欲しいアイデア、考えるべきテーマ)/第2象限(右上)=そのアイデアを成立させるための条件(狙いや、予算、期日など)/第3象限(左下)=過去の事例や、類似の例(既成のものの分解図などでもよい)/第4象限(右下)=ひらめいたこと、気付き(ひらめくまで空白にする)

SCAMPER法などの発想術で行き詰まってしまった人は、脳に任せる発想法をおすすめします。

脳は「質のよい貯蔵庫」のようなものです。

「問い」をいったん投げかけておくとひとりでに「熟成」をして、思いもよらぬ角度から高精度の答えを提示してくれます。

もちろん、問いを投げかける前にいったん考え抜く作業は必要です。しかし「何もしない状態」は、それ以上に大事なのです。

「発酵」こそクリエイティブの源

名著『思考の整理学』で著者の外山滋比古氏は、この「何もしない状態」「発酵」という言葉で形容しています。

手に入れた情報は、すぐに利用するのではなく、しばらく寝かせておく、つまり発酵させることで新たな価値を生み出せると説いています。

これと類似のことは過去の賢者たちも唱えてきました。よいアイデアを生み出すためには「一生懸命考える」という過程は必要ですが、脳に負荷をかけて必死に考えたあとはしばらく放っておく

そうすることで、脳内である種の化学反応が起こり、新たなアイデアが生まれるわけです。

実際、私もこの脳の性質を活用して、多くのアイデアを創出してきました。この「熟成」「発酵」のメカニズムを教育心理学の用語で「レミニセンス現象」と言います。たとえば次のような現象を指します。

●一人でなかなか乗れなかった補助輪無しの自転車が、練習の結果、ある日突然乗りこなせるようになる。
●それまで体得できなかったスポーツなどの技が、トレーニングの末、急にマスターできるようになる。
●楽器演奏の際、いつもつまずいていた箇所が、レッスンを続けるうち、ある日を境にうまく演奏できるようになる。

つまり「学習したことが、時間を経ることで(=熟成、発酵)、その内容が高度化する」という現象が起こりうるのです。

これは寝ている間に脳内で記憶が整理され、その後の学習を促進させた結果です。ですからアイデアが欲しいときも、時間を置くことが重要なのです。

時間をかけることで脳が整理され、既存の記憶が有機的に組み合わさり、クリエイティブなひらめきが舞い降りてくれます

また近年、「何もしていないぼうっとする時間」が、脳にとっては重要であることがわかってきました。そんなときでも脳は働いてくれているのだそうです。

そのような状態をDMN(デフォルト・モード・ネットワーク)と言います。このDMNは、睡眠と同様に、脳内の情報整理の機能を持っているようです。

DMNが働くことにより脳内の情報が整えられ、蓄えられた情報同士が結びつきやすくなり、新しいアイデアが生まれやすくなります

シートに書き込んだら、視界から遠ざける

マンガでよく見る、「主人公の頭上で電球がパッと灯るシーン」。そんな超弩級のアイデア醸成に伴走してくれるのが、この「4分割シート」なのです。

まずは、第1〜3象限までを書き込み、あえて第4象限は空白にしておきます。その状態で自宅の壁に貼っておいたり、畳んで枕の下に置いておいたり。お気に入りの本に挟んで、毎日のように見返したり。

どのような方法でも構いません。とにかくいったん距離を置いて、アイデアを熟成させます。

空白があると、人は自然とそこを埋めたくなります。

ひらめいたこと、気付きがあれば、それを第4象限に書き込んでください。

ともあれ、企画を出す際は「インスタントに数時間以内に答えなければいけないのか」、あるいは「数日間(数週間)の猶予があるのか」。その時間軸を見極めましょう。

前者であれば、SCAMPER法。後者であれば、A4・1枚「4分割シート」の活用をおすすめします。


まずは、第1〜3象限までを書き込み、あえて第4象限は空白にしておきます。その状態で自宅の壁に貼っておいたり、畳んで枕の下に置いておいたりして、アイデアを熟成させる。 ひらめいたこと、気付きがあれば、それを第4象限に書き込んでください

(池田 義博 : 記憶力日本選手権大会最多優勝者、世界記憶力グランドマスター)