女性教員の皆さんが、現状の教育の制度や施策、慣例などをどう改善すべきだと思うのか、本音に迫ります(写真:ふじよ/PIXTA)

教員不足が加速し、採用倍率も低下の一途をたどる教育現場。“ブラック”ともいわれる労働環境の悪化に伴い、子育て中の女性教員の負担もより大きくなっています。

前回の記事(子育て教員「夫や実家の協力ないと破綻」のリアル)では、彼女たちが仕事と子育ての両立をどんな工夫で乗り切っているのか、その涙ぐましい努力と綱渡り状態の実態が浮かび上がってきました。今回は、女性教員の皆さんが、現状の教育の制度や施策、慣例などをどう改善すべきだと思うのか、本音に迫ります。

「地域の行事」に巻き込まないで!国は業務の線引きを

石田:ここまで2回の記事で先生たちのお話を伺ってきましたが、日々の生活は本当に過酷です。そんななかで年々、校務のデジタル化が進んでいますが、負担軽減の効果はあるのでしょうか。

(Aさん)
公立小学校教諭。小学1年生と3年生、1歳の子どもがおり、育休中。来年度に復帰予定。

A:成績や要録は、手書きしていた時代に比べると、かなり楽になっていると思います。今は過渡期で混乱が見られる面もありますが、デジタルに慣れた人たちがどんどん増えているので今後は楽になっていくのではないかと思います。

保護者との連絡もアプリやメールで可能なはず。ただ、確認の電話が必要な場面は今後もありそうです。また、出欠報告がデジタル化されると、学校に行きづらい子にとっては連絡の負担が減ると思いますが、一方で休みやすくなることによるトラブルも生まれそうな気がしていて、楽になることばかりではないかなと思います。

石田:Aさんは今育休中ですが、復帰後に何か学校に求めたいことはありますか。

A:育休明けの3年間は、主戦力としては期待しないでほしいですね。育休明けすぐに主任や研修担当を任され、辞めてしまった人や辞めようかと悩んでいる女性教員が身近にいます。若手が育っていないから優秀な中堅に重要な役を任せたいのはわかるのですが、言葉はきついですが、校長の成果達成のために貴重な人材が潰されている状態になっていると思ったことがあります。子育て中の女性教員には配慮をお願いしたいです。

石田:具体的にはどんな配慮が必要でしょうか。

A:例えば、復帰後は数年、通級の補助担当にするなど、担任を持たないポジションに置いてほしいと思います。教育委員会も人事に関わるのであれば、小さい子がいる家庭の事情を少しは考慮してほしいです。

あと、地域の行事ですね。うちの自治体は地域のスポーツ大会に子どもたちを参加させるので、年に2回ほど休日が潰れるし、朝練も大変。地域の要請が強く学校もやめられないとのことですが、教員や子どもたちを巻き込まないでほしいと思います。

石田:国に求めたいことはありますか。

A:残業代ではなく、校務分掌で主任になる人に手当を出してほしい。主任になること自体が地獄ですが、手当がないと周囲の人間も「任せてしまってごめんなさい」という申し訳なさをずっと感じなくちゃいけないので。また、教員は「何でも屋さん」になりつつあるので、将来的には国が学校の業務の線引きを明確に示してほしいです。

なぜ、外注できる仕事も教員がやらなければいけない?

石田:Bさんは、この春から復帰されました。辞令は新年度が始まる直前に出ると聞きますが、今回はいつごろ連絡がありましたか。

(Bさん)
公立中学校教諭。小学5年生と6年生の子どもがおり、今年4月から学級担任に復帰。

B:だいたい噂で3月頭ぐらいには異動先がわかるのですが、3月20日過ぎないと正式にはわかりません。私の場合、今回は担任を持つことは3月25日に初めて聞かされました。

石田:お子さんのこともありますし、せめて1カ月前には教えてほしいですよね。復帰後に、何か思うところはありましたか。

B:春休みは新年度に向けて本当に激務でした。入学式は1週間ほど予定を後ろにずらしてほしいです。なぜこんなにも短期間でいろいろな準備をしなければいけないのでしょうか。膨大な書類を1枚1枚、手作業で封筒に入れているとき、「これって教員の仕事なの?」と思いました。教科書も、書店と生徒が直接やり取りして準備すればいい。もっと子どものためにやりたいことはいっぱいあるのに、外注できる仕事もすべて教員がやらねばならずバカらしいです。

あとは教員数を増やしてほしい。私の場合、空き時間が2時間の日と1時間の日で心の余裕がかなり違うので、人が増えて空き時間が毎日3時間になったら辞める人は少なくなるだろうと思っています。

石田:GIGAスクール構想によるデジタル化についてはどう思いますか。

B:デジタル化は進みましたが、地域によって使っているソフトが違うんですよね。例えばそれまでGoogleを使っていたけれど、異動したらMicrosoftを一から覚えなければいけないといったことが起こる。そこはもう少し広い範囲で統一されたら負担が減ると思います。

また、1人1台端末が配布された割には教科書が変わっていません。基本的に中学校はテストに向けて教科書を進めていくので、このままでは授業を大きく変えることはできないです。デジタル教科書が普及してタブレット端末に合った形に変われば、もっと授業がしやすくなると思います。

多すぎる「書類」、少なすぎる「教育予算」

石田:Cさんは、どのような点が改善されたらよいと思いますか。

(Cさん)
公立小学校教諭。子どもは1歳と4歳。4年間の育休を経て、通級教室の担当として復帰。

C:学級担任だった頃のことを振り返ると、本当に忙しかったなと。教員の仕事は、第一に学力をつけること、そして心身ともに健やかに人間性を育んでいけるよう体力をつけていくことに重きが置かれていると思いますが、忙しすぎてそのことに向き合えないんです。会議や文書の提出などの事務作業がものすごく多くて、一番やらなければいけないはずの教材研究や、授業をどう楽しませようかといった工夫に割く時間がありません。

石田:会議や書類で、なくてもいいと思うものはどれくらいありますか。

C:半分、いや、もっとあるかもしれません。子どもたちの作品の掲示や学級会計などの事務的な業務をやってくださる方がいると、私たちは学級担任としてもっと子どもたちと向き合うことができると思うんです。心にゆとりがないと、子どもたちの困っている顔などちょっとした変化にも気づいてあげられません。

石田:Dさんはいかがでしょうか。

(Dさん)
公立小学校教諭。3人の子どもを育てながら、特別支援学級で担任を務める。

D:私も、始業式や入学式はもう少し遅い時期にやれるといいと思います。できれば春休みも、もう少し長くしてほしい。本当に書類は多く、会計もやりたくないですね。一方、ICT化によって通知表やいろいろな書類はデジタルで管理できるようになり、その点はすごい楽になりました。

ただ、残念なことも。オンラインでいろんな地域の先生ともつながれるようになりましたが、お勧めのツールを教えてもらっても、自分の学校では使えないことがあるんです。例えばCanvaの共同編集などはすごい楽しそうで使いたいのですが、うちの地域のセキュリティーでは弾かれてしまうため使えません。

石田:セキュリティーが強すぎるのも問題ですよね。政策面での要望はありますか。

D:教育にもっとお金を割いてほしいです。例えばうちの地域は今年、教員用のデジタル教科書は使えますが、子ども用のデジタル教科書が入っていません。実は、一昨年は子ども用のデジタル教科書も全学年使うことができ、「すごい使いやすいな」と思っていたのに、翌年は予算の都合で高学年しか使うことができなくなりました。さらに今年は、子ども用のデジタル教科書は一切使えなくなったのです。

石田:そこは行政に任せず、国がちゃんとお金を全部出して普及させるべきですよね。

D:はい。研究の名目で「無料なので使ってみてください」と便利なツールを渡されても、単年度の研究だったりすると翌年度は使えなくなってしまう。もっと使いたいと思っても、継続性がなくては教育に生かせません。

「特別支援教育」や「不登校」も教員の負担増に関係

石田:Eさんは、小学校1年生の担任をしながら特別支援教育コーディネーターも担当しているそうですが、どのような課題を感じていますか。

(Eさん)
教員歴28年。公立小学校教諭。3人の子どもは成人し、現在は小学1年生の学級担任。

E:やはり特別支援教育や不登校の問題を解決していかないと、子どもに適切な支援が届かないだけでなく、教員の仕事は楽にならないのではないかと思います。

石田:具体的にはどうすればよいと思いますか。

E:インクルーシブ教育に反する部分はあるのですが、予算をちゃんとつけて固定の情緒学級をもっと小学校につくらなければいけないと思います。情緒に特性がある子というのは、その子本人のせいではないのですが、学級を荒らしてしまうんですね。着席学習が難しい子や一斉指導が難しい子はどの学級にもいて、固定の情緒級が少ない地域の教員は学級経営がとても大変になっています。しかも、その子たちを特別支援につなげようと思っても、そのための書類の量が膨大で、みんな放課後や土日に書類を作成しています。

本来なら、通常学級の人数も低学年であれば、1学級につき20人くらいにすべきです。このままの仕組みでは、学級どころか学校が崩壊しますよ。

石田:学級編成の問題はすべての教員に関わることですが、とくに出産後の女性教員が復帰する際には配置の配慮が必要ですね。

E:はい。不登校の子がいる場合も、定期的に連絡の必要があったり、スクールカウンセラーと連携を図ったりと、育休明けの女性教員は本当に大変だと思います。とくにスクールカウンセラーは17時までびっしり面談が入っていることが多く、それ以降に打ち合わせが必要になりますから保育園のお迎えなどに影響しますよね。

また、評価のあり方も変えるべきだと思います。通知表の必要性など、そういった根本的な部分から考え直し、働き方の改善を図ることも重要ではないでしょうか。

教育は「国の将来をどう考えるか」という本質的問題

石田:皆さん、ありがとうございました。3回にわたって子育て中の女性教員の過酷な実態や思いをお聞きしましたが、先生方のがんばりによって学校教育は成り立っていること、また、学校の問題はすべて、この国が教育にお金をかけないことにあると改めて感じました。

育休に関しては教員に限らず注目されているテーマですが、学校の場合なぜこのような声が広がっていかないのか。その理由について先日、小学校の校長先生たちが話す機会があったので、聞いてみたところ、「年配の教員が自分も昔は大変だったけれどもやってきたという文化がある」と言っていました。確かにそのような空気感もあると思います。また育休期間は一般的に数年であり、やがて子どもが大きくなるので、今だけ頑張ればなんとかなると思うことも、声を上げにくい理由かもしれません。しかし、現場の実態を為政者へと届けなくてはいつまでもこの実態は変わりません。

現在、教員不足が問題となっています。特に小学校は深刻です。そのような実態の中で、国の取る政策は何か表面的かつ一時的対応に感じられるのは筆者だけでしょうか。給特法を変えて手当を4%から引き上げる、教員採用試験の前倒しなどは本質的改革とは思えません。

教育は未来に対する投資、いわば国の将来をどう考えるかという本質的問題でもあります。公教育が崩壊しかかっている今、本気で先生方の労働問題の解決に取り組まなくては、その先にいる子どもたちへの教育を保障することは難しいと思いました。

(構成:佐藤ちひろ)


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(石田 勝紀 : 教育デザインラボ代表理事、教育評論家)