誰かと友だちになるのは価値がある(写真:mits/PIXTA)

友人をつくるとはどういうことか。それは科学的に定義できるものなのか。

神経科学の学位をもち、科学雑誌『ニュー・サイエンティスト』で長年コンサルタントを務めてきたジャーナリストのヘレン・トムソン氏。彼女が科学的エビデンスを調べ尽くしてたどり着いた、賢く、幸せに、ストレスの少ない人生を送るための包括的なガイドである著書『人生修復大全』の第4章「友人をつくるためには」から一部抜粋、再構成してお届けします。

一緒に90時間過ごすと友だちに

私たちは誰もが友人を必要としている。この言葉を軽く受け取ってはいけない。友人は、予定を埋めるのに必要なだけではない。私たちのメンタルヘルスを増進し、身体的健康を維持し、早期死亡のリスクさえ防いでくれる。一方、社会的に孤立すると、身体的苦痛やストレスを感じ、病気にかかりやすくなる。実際、友人がいないと、重大な生物学的欲求が満たされていないかのように身体が反応する。

とはいえ友人をつくるのは、とくに人生の後半になってからは、必ずしも簡単ではない。友人は大勢いるが、もう少し増やしたい、あるいは違う友だちがほしいと思う人もいるだろう。または新しい町に引っ越して、一からはじめることになるかもしれないし、時間がまったく取れなくて、友人のためにどう時間を使えばいいのか知りたい人もいるだろう。

場を和ませる、一緒に過ごす、社交辞令を使いこなす――こうしたことは自然に身につくものではない。友人をつくるには時間がかかる。新たな町に越してきて、友人をつくりたいと思っている成人を対象にカンザス州で調査したところ、ちょっとした知り合いになるには、50時間ほど一緒に過ごさなければいけないことがわかった。

90時間で友だちという認識になり、200時間以上で親密な友人になれる可能性がある。その過程を早めることはできなくとも、科学が力になれることはある。科学は即席のBFF、つまり「生涯の友(Best Friend Forever)」を提供することはできないが、友情が人生に与える影響や、いまある友情を維持する最善策、新しく出会った人と打ち解ける方法などを探ることはできる。

そして最終的に、現代においてもっとも軽視されている公衆衛生の問題のひとつ――「孤独」を防ぐことにもつながっていく。2018年の調査によると、イギリスでは約900万人が孤独を感じているという。孤独のサイクルから抜け出すのは容易ではない。友人がたくさんいても孤独を感じることはめずらしくない。

だが、対処法も存在する。自分のために、労力を使ってでも、こうしたすべてを理解する価値はある。これはあなたが誰かにとってのいい友人になるだけでなく、健康を増進し、寿命を延ばし、生涯の幸福を保証する確実な方法でもあるのだ。

友情を理解する

友情と母乳育児を関連づけるのは変に思うかもしれない。しかし私たちの友人への愛は、ここからはじまっている可能性がある。赤ん坊が乳房に吸いつくと、母親の脳下垂体からオキシトシンが分泌される。これにより、乳房の筋肉が収縮して母乳が出るようになるのだが、その際、不安感や血圧、心拍数なども低下する。

オキシトシンに関連して生まれる感情は、赤ん坊にお乳を吸うことを促し、母子のあいだの強い、愛情に満ちた絆を築く一助となる。これはすべての哺乳類に共通して見られる現象だが、人間をはじめ、仲間をつくる種族では、このシステムが拡大して使われている。

進化は、無駄な労力を省いて経済的に行われてきた。母子の絆以外にもかかわるようになったオキシトシンは、ハグや軽い触れ合い、マッサージなど、他者とのポジティブな身体的接触の際にも分泌されるようになったのだ。そしてその心地よさが報酬となり、触れた相手にまた会いたいと思わせる。友情の芽生えだ。

友情の原動力となる化学物質はそれだけではない。友人は、幸福感をもたらすエンドルフィンの分泌を誘発する。友だちと一緒に活動すると、ひとりのときより多くのエンドルフィンが分泌される。この感覚は非常に優れたもので、脳スキャンをしながら友人の写真を見ると、依存に関連する領域に活動を示す点滅が現れる。友情は、喫煙者やドラッグ常用者に見られるのと同様の、強化と報酬のシステムによって突き動かされているのだ。

また、エンドルフィンの分泌を誘発する行動にはグループでできるものもあり、複数の個人が同時に友人としての絆を深めることができる。うれしいことに、笑いもそのひとつだ。歌、ダンス、ただの会話でさえも、多くの人と一度につながる機会を増やす。

私たちはみな同じ神経生物学的プロセスをもっているが、ほかの人より友人をつくるのが得意な人がいる。単純に「一緒にいたい」と思わせる才能があるのかもしれないが、それより、化学的に大きな見返りがあるから、友人をつくろうというモチベーションが高いのかもしれない。

わかっているのは、人懐っこい人たちが社交的なのは、遺伝子がそうさせているということだ。同じ遺伝子を共有する一卵性双生児と、およそ半分の遺伝子を共有する二卵性双生児のソーシャルネットワークを比較したところ、仲間内での人気の高さの違いの46%を遺伝的要因が占めていることがわかった。

しかし、どんなに社交的な人でも、すべての人と友人になれるわけではない。では、日常で出会う多くの人のなかから、どのように友人を選んでいるのだろう?

その答えは、一見シンプルに見える。自分と似た人と友だちになるのだ。同じ年代、性別、仕事、倫理観。この自分と似た人に惹かれるという傾向もまた、遺伝に関係していることがわかっている。実際、あなたとあなたの4親等のいとこが似ているように、あなたと友人も遺伝的に似ているのだ。

これは、友情という大きな謎の一部を解き明かすための答えを提供する。協力は、私たちの健康やウェルビーイングにとって不可欠だ。しかしなぜ、見知らぬ他人に対しても簡単に協力できるのだろう?

進化論的には、友人ではなく親族に協力すべきだ。というのも、親族との遺伝的類似性によって、間接的に利益を得ることができるからだ。共有する遺伝子が多く受け継がれるほど、あなたも別の人間によって次世代に引き継がれていく。

友人が偶然にも、予想以上に似通った遺伝子をもっているとしたら、その人はまったくの他人ではなく「任意の親戚」なのかもしれない。

誰かと友だちになるのは価値がある

遺伝的に似ている人をどうやって識別するかは、また別の問題だ。さまざまな研究によると、顔の特徴、声、ジェスチャー、匂い、またはこれらすべての類似性に起因する可能性が示唆されている。性格は遺伝子によって形成されることから、性格が似ている友人は、共通の遺伝子をもっている可能性が高い。

人を惹きつけるものが何であれ、ひとつたしかなことは、誰かと友だちになるのは価値があるということだ。映画『テルマ&ルイーズ』や『40男のバージンロード』を観なくても、人生における友情の大切さは明らかだし、何十年にも及ぶ実証研究に目を向けずとも、友情が幸福や健康に関連していることは間違いない。

これは性別、民族、文化グループ、いずれにおいても一貫して同じことが言える。実際、実証研究に目を向けると、あまり社交的でない人は、一定期間内に死亡する確率が、社交的な人に比べて50%も高いことがわかっている。のちほどもう一度触れるが、社会的孤立は、飲酒や喫煙と同じくらい身体に悪く(ある試算では、1日15本の喫煙に匹敵すると言われている)、運動不足や肥満よりも健康を損なう。

一方で、私たちが必要とする友人の数や、実際にもつことのできる友人の数ははっきりしない。猿と類人猿の社会グループには、およそ50匹という上限がある。人間の結束行動なら、もう少し多くてもうまくやれるはずだ。

オックスフォード大学の進化心理学者で、友情の専門家ロビン・ダンバーによると、人間は平均して5人と親密な関係をもっており、彼はこれを「悩みを聞いてくれる」関係と呼んでいる。また、親しい友人が15人、家族がパーティーに招待するような仲のいい友人が50人、葬儀に参列してくれる人が150人いる。

しかし友人の数はたいして重要ではない。重要なのはその質だ。まずは「フレネミー(友人を装った敵)」に気をつけてほしい。信頼できない友人との付き合いはストレスになる。嫌いな人といるより「フレネミー」といるほうが、血圧は上がりやすい。

一般的に、人間関係の質はそこにどれだけ時間を費やしたかによる。かぎられた時間のなかで多くの人に投資しようとすると、友情の質は低下する。私たちの社会的グループは不安定で、壊れやすい。ダンバーによると、友情を維持するには――対面にしろ、電子機器を介すにしろ――親友とは1日おき、つぎに親しい5人とは1週間おきに連絡を取る必要があるという。

友人と共有する6つの重要な基準

つぎの15人は月に一度、そのつぎの50人は半年に一度で、最後の150人は1年に一度会えればいい。それ以下の頻度だと、友人たちはすぐにソーシャルネットワークの層から脱落していく。ただし、10代後半から20代前半に築いた親密な友人関係は例外だ。何十年経っても、当時の関係に戻れることが多い。


こうした友情を築くための確実な方法はない。大半が学校や、子ども時代に所属していたグループのなかで形成され、大人になってからは仕事や付き合いのなかで生まれる。だがもし友人を増やしたいなら、共通の趣味をもつ人々の集まりに参加するのがいちばんだ。

友情に関する研究では、友人と共有する6つの重要な基準があることが示唆されている。

言語、仕事、世界観、ユーモアのセンス、地域性、教育。性格は、好きなバンドや本やジョークといった文化的好みほど重要ではないようだ。実際、ライブに行ったり、バンドや合唱団などの音楽活動に参加したりするというのは、友人をつくるもっとも簡単な方法かもしれない。同じ音楽が好きかどうかは、見知らぬ人とうまくやっていけるかどうかの最大の指標となるからだ。

そこからつぎのステップ――「最初の一歩」を踏み出すことへとつながっていく。

(ヘレン・トムソン : フリーランスライター)