貯金ができない人はなぜできないのか? お金の管理について学びましょう(写真:zak/PIXTA)

「実験経済部」それは韓国ソウルの中学に実在する部活動です。

中学生でもわかる、ゲームを使った活動によって世界中の名門大学へ卒業生を送り出し、法曹界や医学界など様々な分野に優秀な人材を輩出しています。2019年には13年以上に渡る活動が韓国政府からも評価され経済教育大賞を受賞しました。

顧問を務めるナ先生ことキム・ヨナン氏の著書『チョコレートパイは、なぜ1個目がいちばんおいしいのか? ――韓国最強「実験経済部」の生徒が学ぶ中学生でもわかる経済の話』より、実験経済部の活動内容を再現、5回目、最終回は「衝動買いを減らして貯蓄を殖やす」――お金の管理についてです。

衝動買いを止めるには、自分だけの消費の原則を立てる


「みんな、これどう? 数日前に買った新作のバッグなの!」

ナ先生は手に持った赤いハンドバッグを見せながら言った。

「テレビ通販で半額セールだったのよ! 欲しかったバッグがセールだったから、その場で買っちゃったの!」

「先生……無駄遣いしてはダメだって私たちにはいつも言ってるのに」

浮かれているナ先生の顔を見ながら、ソナはやれやれと頭を振った。

「そうなのよね。じつは服もバッグもたくさんあるのに、新商品が出ると欲しくなっちゃうのよ。映画やドラマで好きな俳優が身につけていたりすると、なおさら買いたくなるし。それって先生だけ?」とナ先生。

「僕もこのスニーカー、おととい新しく買ったんです。たくさん持ってるのに、はやりのスタイルだから、また買いたくなってしまって。おかげで、お小遣いがすっからかんです!」

「僕はスマホの少額決済で写真編集アプリをめちゃくちゃ購入するんです! だから毎月、携帯料金の請求のとき、お母さんに叱られます!」

シヒョンとジェジュンが、ナ先生の話に同意した。

「そうよね。無駄な消費を減らすべきだといつも言ってはいるとけれど、言うほど簡単じゃないものね」とナ先生。

「ホントに! しかもSNSやユーチューブは、こっちの好みをよくわかってて、いかにも好きそうなものを紹介してくるんです!」とジョエン。

「そうそう! オススメがずっと出てくるんだから」

というソナに続けてジェジュンは、こう言った。

「何をクリックしたか、どれだけ見たか、AIがデータを分析して、その人用にカスタマイズされた宣伝をするんだ。近頃は進化もすごくて。人が何に関心があるのか、すべてお見通しなんだよね!」

「そうよね。AIとビッグデータのおかげで生活が便利にはなったけれど、それだけ衝動的な消費も増えている気がします。私が買ったこのバッグも、前に検索したことがあったの。それでセールの情報がすぐに届いたんです!」

「精巧な顧客のオーダーメイド情報、一度クリックすれば翌日すぐに受け取れる便利さ! おかげでしょっちゅう衝動買いしたくなっちゃうよ!」

ナ先生の説明に、チャンミンが両手を挙げながら、ふざけて言った。

「まさにチャンミンの言うとおり。便利だけれどリスクも伴う状況ですよね! 自制する方法はあるのかしら?」

生徒たちを見渡しながら、ナ先生が目を輝かせた。

自動引き落とし、お金を貯めるいちばん簡単な方法

最初に、ギョンホがパッと手を挙げて言った。

「お小遣いをもらったら、まずは貯蓄する分を差し引いてしまわなくちゃ! 基本ですよ」

「私は毎月定期に3000円ずつ積み立てています。自動で引き落としにしているんです!」

ギュヒョンがギョンホの言葉にうなずき、さらに話を続けた。

「私はデビッドカードを使っているので、親が通帳にお小遣いを入れてくれます。もちろん好きなときに出し入れできる通帳です。最初は何日もしないうちに通帳残高がゼロになりました。何か買おうとしても残額不足で決済ができなかったんです! 月初めにじゃんじゃん使って、一週間も経たないのにお金に困ったりもしました」

「それがどうして積み立てするようになったの?」

ソナがギュヒョンに質問した。

「節約しようと決心してもうまくいかなくて。それで初めからお小遣いが入った翌日に一定額が積み立てされるように、自動引き落としにしたの。そしたらいやでも貯まるようになったんだ」

「すごいな! オデュッセウスみたいじゃん」

シヒョンが感心したようにギュヒョンを見た。

「オデュッセウス?」とギュヒョン。

「ギリシャ神話に出てくる人物だよ。美しい歌声で船員たちを海に誘い込むセイレーンの誘惑から逃れようとして、自分の体をマストにしばりつけたオデュッセウス!」

「いい方法ね。自分の手をしばるなんて!」

シヒョンの説明にソナがうなずいた。


「僕も自動引き落としで貯蓄はしてるけど、相変わらず好きなゲームにお金を使いすぎて困ってるんだ」

「じゃあ、ゲームに使うお金の上限額を決めたらどう? 自分で『1カ月1000円しかゲームに使わない』って決めるのよ」

悩むギュヒョンに、ジェヨンがアドバイスした。

「そしたら、ゲームにお金を使うたびに記録しないとダメだよね?」

「そうよ。1000円までいったら、もうゲームのアイテムは見ないことにするの! 私もそうしてる」

封筒を活用した賢明なお金の管理法

「それと、消費計画を立てるとき、項目別にお金を管理するのも役に立つと思うわ。私はお小遣いをもらうと、その月の消費項目別に封筒を作って、お金を封筒に入れておくの。おやつ代として2000円入れたら、1カ月はその範囲内でおやつを買うの。使うたびに使った額を封筒に書いて。残りがほとんどなくなったら、あまり買わなくなるし」

ジェヨンが静かに自分なりのお金の管理方法について話した。


「時計のアラームみたいな感じだな。『もう使うのはおしまい〜』っていうアラーム!」
ジェジュンが言った。

「そうなのよ! 自分自身への警告。ほかの項目のお金から出して使うのは気が引けるから、それもしなくなったし」

「そうだよね。同じお金でも名前をつけておけば、ほかのことには使いづらいかもね。だけど、私みたいにカードを使ってると、なかなか思いどおりにいかないんだよね!」

ジェヨンの話に耳を傾けていたギュヒョンがこぼした。そのときソナが何か思いついたようにこう言った。

「だったら、ゲームアイテムの関係の決済は1000円までって、カードに設定しておいたらどう?」

「いいアイディアかもしれないね。最近は自分名義で発行する家族カードを使うことが多いでしょう。カードやスマホの手軽な決済で、項目別に利用額を制限できるシステムがあったらいいのにな」

「それいい考えね! 人によってどうしてもお金を使ってしまうものがあるじゃない。そういう分野に金額の制限をかけるの!」

ジェヨンに続いて、ソナも言った。

項目別の利用限度を設定できる?

「それなら、消費計画を立てるとき、項目別に利用限度を設定できるプログラムを作ったらいいかも!」

ジェジュンが目を輝かせて叫んだ。


「わあ、こちら、ぶっつけ本番でプログラム開発を行っている実験経済部の現場です!」

ギョンホが楽しそうに言った。

「みんなで一緒に設計してみようよ! プログラムの技術的なことは僕がちょっと調べてみるから。毎日、昼休みに15分だけ集まって相談するってのはどう?」

夢がプログラマーのジェジュンがそう提案すると、みんな喜んで賛成した。それから数週間、実験経済部の生徒たちとナ先生は、昼休みのたびに集まって話し合い、クレジットカードの消費支出を管理できるアプリ「使用分野別 自己コントロール金融決済システム」と「自動貯蓄システム」を開発した。これで実験経済部の生徒たちは衝動買いの無駄遣いを減らし、貯金を増やすことを目指すのだった。


(キム・ナヨン : 韓国・ソウルのヤンジャン中学校社会科教師)