北海道地盤のツルハHDはM&Aで規模拡大を進めてきた。傘下にはレデイ薬局やくすりの福太郎などがある(撮影:梅谷秀司)

ついに「モノ言う株主」が、ドラッグストア業界でも動き始めた。6月14日、業界3位のツルハホールディングス(HD)は、香港の投資ファンドであるオアシス・マネジメントから株主提案を行う旨の書面を受領したと発表した。

オアシスは2022年12月時点で5.29%だったツルハHDに対する保有比率を、5月8日時点で12.84%まで引き上げている。保有目的は「ポートフォリオ投資および重要提案行為」としており、業界内では「ファンドは何がしたいのか。ツルハはどうなるのか」と注目を集めていた。

オアシスはツルハHDに何を求めているのか

「求めるのは、コーポレート・ガバナンスと業績の向上だ」。オアシスのセス・フィッシャー最高投資責任者は、株主提案の狙いをこう語る。そして「よい取締役会を持つことは、よい経営判断につながり、ビジネスの収益性も改善する」と主張する。

具体的には、オアシスが推薦する社外取締役5人の選任、取締役会長や取締役副会長の廃止、取締役会議長を社外取締役から選出するといった定款の変更など、合計で9つの議題を株主提案で挙げている。

さらに業界再編について「(経営統合を求める)可能性もある。マージン(粗利)の改善、PB(プライベートブランド)の開発、技術面でのノウハウの共有など、事業統合から得られるシナジーは大きい」(フィッシャー氏)と語る。


経営統合相手の候補と目されるのが、業界首位でイオン子会社のウエルシアホールディングスだ。イオンはツルハHDに13.35%を出資し、イオンの岡田元也会長がツルハHDの社外取締役を務めてきたが2021年に退任している。

現在、取締役会長は創業家3代目で81歳の鶴羽樹氏が、代表取締役社長は会長次男で49歳の鶴羽順が務める。業界内では「ツルハHDの創業家によるイオン離れ」と見られていたが、再び両社は接近することになるのか。

他の株主の動きも活性化している。6月15日までに野村アセットマネジメントと共同保有者が5.02%へ買い増している。5月15日時点で7.59%保有するカナダの投資会社メイワー・インベストメント・マネジメントや、6月15日時点で5.62%保有するイギリスの資産運用会社オービス・インベストメント・マネジメントなどの動向も注目される。

イオンに加えてこれら株主が味方することになれば、オアシス側の持ち株比率は3分の1を超える可能性もある。オアシスのフィッシャー氏は「株主同士で意見交換は活発に実施しており、経営陣との会話もプロアクティブ(積極的)に行っている」と説明する。

三つどもえの業界再編も

オアシスは5月に、北陸地盤のクスリのアオキホールディングス(HD)の株式5.5%も取得している。目的はツルハHDと同様に「ポートフォリオ投資および重要提案行為」。クスリのアオキHD株式はイオンが9.98%、ツルハHDも5.13%保有している。ファンド主導による三つどもえの業界再編が、いつ起きてもおかしくない状況にある。


ドラッグ業界へのファンドの関心は高まってきている。例えばオービス・インベストメンツは、保有する日本株の10%以上をドラッグストア銘柄が占めている。

オービスの時国司・日本法人社長は「合併・統合による恩恵や、調剤薬局やスーパーマーケットからシェアを奪えるなど成長余地があるにもかかわらず、割安に放置されてきたセクター」と指摘する。

そのうえで「足元では光熱費の高騰等による利益率圧迫が懸念され、ドラッグストア銘柄全般が落ち込んだ。だが実際には価格転嫁やコスト管理に成功している銘柄もあり、割安感が強いとみてポジションを積み増した」と語る。

ドラッグ業界の中で、なぜオアシスはツルハHDの株を買ったのか。ツルハHDは創業家の持ち株比率が1割未満と少なく、ウエルシアのような親会社がいない。時価総額は5307億円(6月16日時点)で、売上高で業界2位を争うマツキヨココカラの1兆1760億円と比べて半分以下の水準だ。

業績も芳しくない。同社の2022年5月期の営業利益は、前年同期比で16.1%減の405億円に沈んだ。コロナ特需剥落が響いたことに加え、出店競争激化で既存店売上高が苦戦している。2022年5月期は159店舗の積極出店の一方、不採算店など退店57となった。

足元はマツキヨココカラとの2位争いに加え、業界4位のコスモス薬品が破竹の勢いで追い上げている。コスモス薬品は食品強化型の大型安売り店を軸に、M&Aなど行わず自力出店のみで地盤の九州から北上してきている。郊外型店の多いツルハHDも、価格競争に一段と巻き込まれることになりそうだ。

「攻めから守り」へ戦略転換

これまでM&Aで規模拡大を続けてきたツルハHDだが、戦略に変化が出てきている。2025年5月期にかけての最優先課題は「収益力改善」。出店数を抑制して赤字店舗の増加を食い止める方針で、攻めから守りの方針に転じている。

2023年5月期からは、配当性向を50〜70%へ大きく引き上げる方針を打ち出している。2022年5月期の配当性向38%も同業他社と比べると高水準だったが、さらに株主還元を積極化する方針だ。背景には株価上昇への期待に加えて「配当性向を引き上げれば、多くのファンドは口出ししてこなくなると考えたのでは」(ドラッグ業界関係者)とも言われる。

オアシスの乱入で業界再編の波が押し寄せるドラッグ業界。イオンやファンド株主はどう動くのか、8月開催予定の株主総会は波乱含みだ。

(伊藤 退助 : 東洋経済 記者)