採用選考の面接で、なぜ面接官は“不適切質問”をしてしまうのか(写真:takeuchi masato/PIXTA)

まだまだある、絶句する面接質問

就活の面接で、こんな質問をする面接官がいる。

「恋人はいるの?」
「女の子だからすぐやめるんじゃないの?」
「家族構成は?」
「本籍地はどこ?」
「尊敬する人は誰?」
「どの新聞を読んでいるの?」

読んでいるだけで腹がたった人、ゾワゾワした人もいることだろう。そう、これは採用選考の面接としては、すべて不適切な質問である。

「尊敬する人物」「購読している新聞」などは一見すると普通の質問だと感じる人もいることだろう。しかし、これらもまた、思想・信条に関わる質問であり、NGである。

厚生労働省から「公正な採用選考の基本」が発表されている。採用選考に当たっては、応募者の基本的人権を尊重することが大前提で、応募者の適性・能力に関係のない事柄について、応募用紙に記入させたり、面接で質問しないことが重要とされている。

具体的には、次のような項目が、就職差別につながるおそれがあるとされている。

<a.本人に責任のない事項の把握>
・本籍・出生地に関すること
・家族に関すること(職業、続柄、健康、病歴、地位、学歴、収入、資産など)
・住宅状況に関すること(間取り、部屋数、住宅の種類、近郊の施設など)
・生活環境・家庭環境などに関すること

<b.本来自由であるべき事項(思想信条にかかわること)の把握>
・宗教に関すること
・支持政党に関すること
・人生観、生活信条に関すること
・尊敬する人物に関すること
・思想に関すること
・労働組合に関する情報(加入状況や活動歴など)、学生運動など社会運動に関すること
・購読新聞・雑誌・愛読書などに関すること

<c.採用選考の方法>
・身元調査などの実施
・合理的・客観的に必要性が認められない採用選考時の健康診断の実施

しかし、日本労働組合総連合会が5月31日に発表した「就職差別に関する調査2023」によると、採用活動の現場で不適切な質問が繰り返されていることがわかった。上記の質問に関連した項目を確認してみよう。

「女性だからどうせ辞める」「恋人はいる?」」「かわいいね」など採用試験の面接で、不適切だと思う質問や発言をされた割合:19.5%

「家族に関すること」を
応募書類やエントリーシートで記入を求められた割合:37.2%
採用試験の面接で質問された割合:37.7%

「本籍地や出生地に関すること」を
応募書類やエントリーシートで記入を求められた割合:43.6%
採用試験の面接で質問された割合:28.3%

「人生観、生活信条に関すること」を
応募書類やエントリーシートで記入を求められた割合:20.4%

「思想に関すること」を
採用試験の面接で質問された割合:15.2%

人権に関する意識が高まる中、またここ数年、就活に関するハラスメント行為が問題となる中、絶句する調査結果だ。もちろん、設問により選考で問われた割合は異なるものの、令和の時代において、選考でいまだにこのような質問がされていることに驚く。

なぜ、面接官は不適切質問をしてしまうのか?

なぜ、面接官は“不適切質問”をしてしまうのか? 注目したいのが、この連合の調査における不適切質問の出現率は、設問によっては書類選考よりも面接において多く発生している。ここがポイントだ。

書類選考において、エントリーシートなどの要件は主に人事部の採用担当者が決める。人事部の視点で不適切な質問がないかチェックが行われる。しかも、書類は証拠が残る。不適切な質問をしていることが証明されやすい。大学のキャリアセンターなどに相談が入る可能性もある。

これに対して、面接は人事部だけでなく、現場の社員も動員される。面接官には研修が実施されるのだが、必ずしも徹底されない。人事部は、社内に人権啓発を行うミッションを担っている。しかし、現場の面接官には必ずしも浸透していない。そのため、面接官が悪気なく、極めて普段どおりに、採用面接の現場では面接官から不適切発言をする可能性がある。問題だという意識すらないのである。

中には、本人を深く知るため、会社や職場とのミスマッチ防止という意味で聞いていることもある。たとえば、「尊敬する人物」に関しては、質問する側からすると「思想・信条」という意図はなく、価値観や、どのように成長してきたかを問う質問だと位置づけている可能性がある。

残業ができるかどうか、転勤ができるかどうかという質問についても、入社後のミスマッチ防止の意図がありそうだ。仕事について、あえて過酷な部分を示し、ミスマッチを解消する手法をリアルスティック・ジョブ・プレビューという。入社後、想像以上に忙しく早期退職してしまうことや、勤務地・居住地に無理がないか、実情を確認するという意味もあるだろう。

もっとも、残業や転勤について可能かどうか質問すると、求職者は「はい」と言わざるをえない空気感となる。全身全霊を企業に捧げられるかどうかを聞いているかのようにも感じられる。できるかどうかではなく、実態を伝えるのであればいいのだが、面接ではそうはなりにくい。

このように、採用における不適切質問は、人事部と現場との距離の問題でもある。悪気がなく、ときには「よかれ」と思って、不適切質問がされる場合もあるのだ。

不適切質問の裏技

一方、面接官には不適切質問を、合法的に行う裏技がある。それは、自然な流れで相手に話してもらうという技だ。つまり、面接官が質問したのではなく、求職者に勝手に話してもらうのだ。

昔も今も使われている質問は「就活(あるいは転職、転身)について誰に相談していますか」というものだ。この質問をもとに、傾聴姿勢をとると、家族や友人・恋人など、身近な人間関係の話がボロボロと出てくる。この質問を掘り下げていくと、直接的に聞かなくても家族構成、家族との関係、価値観などが明らかになる。

この質問は、内定辞退防止のために用いられる。求職者が内定先に納得していたとしても、周りが反対することがある。その際、とくに保護者の意向は気になるポイントだ。

最近では、採用の現場では「親確」という言葉が存在する。たとえば、両親が地方公務員などの場合、ベンチャー企業などモーレツに働く企業に内定した場合は、不安から妨害してくる可能性がある。その際に、保護者を説得するための、労働時間や離職率などのデータを開示し、インプットすることにより、内定辞退を回避する。

これは、保護者以外にも有効だ。たとえば、大学の名門ゼミに所属しており、周りに日本の大企業に行く同期が多いとすると、ベンチャー企業に内定した人は周りの内定先をみて、悩むかもしれない。周りに誰がいるかを確認する質問は有効なのだ。想像がついた人もいると思うが、要するにこの質問の本質は周りにどのような人がいて、その中で自分はどんな存在であり、どんな影響を受けているかということである。

「尊敬する人物」なども、思想・信条をチェックするという意味ではなく、どのような価値観、思考回路、行動特性を確認するという意味では面接官にとって知りたい項目である。「人生を変えた体験」など、いかにもよくある質問の中で、掘り下げていくということで、確認するという手もある。

このように、不適切質問には抜け道もある。面接官は出自の確認、思想チェックをしたいのではなく、働くうえでの本人の価値観を確認するという意図だったりするのだ。不適切質問にならないような意識と工夫を、面接官側が行っているともいえる。

求職者も不適切質問をわかっていないという問題

ここまで読んできて、読者の反応は大きく2つに分かれるに違いない。「けしからん」「こんな不適切質問が行われているなんて」という立場と、「これの何がいけないの?」という立場に分かれることだろう。そう、不適切質問について悪いと感じない求職者もいるのではないか。

実際、今回の連合の調査でもその点は明らかだった。各項目をみてみよう。

求職者が「不適切だと感じている割合」は次のとおりだった。なお、カッコ内は前回の調査での割合である。

「宗教に関すること」56.7%(前回66.5%)
「支持政党に関すること」50.1%(前回61.9%)

「本籍地や出生地に関すること」や「購読新聞・雑誌・愛読書などに関すること」などは低位にとどまった。

私も大学で教え子に、不適切、不愉快だと感じる質問であるという前提の同意を行ったうえで、質問してみた。すると「彼氏はいるの?」「女性だから、結婚したら辞めるんじゃないの?」という質問は、セクハラ質問として全員が不適切だと答えたが、家族構成の話になると不適切だと感じない学生が3割程度おり、出身地、尊敬する人物、購読紙に関しては不適切だと感じた人がゼロに近かった。

ブラック企業に行くことを防ぐ意味でも、内定取り消しや求人詐欺、さらには就活ハラスメントから身を守る意味でも、大学ではワークルール教育が強化されている。政府からも就活における「オワハラ(就活終われ、終わらせろハラスメント)」に関して注意喚起が行われ、相談窓口の強化などの方針が発表された。一方、採用活動において何が不適切なのかをより明確にし、求職者に伝えることも大切ではないだろうか。

Z世代は人権に関する問題意識が高い。不適切な質問を繰り返すような企業には人が集まらない。採用氷河期が続く中、人権意識が低い企業は人が集まらず、未来が閉ざされるのだ。

(常見 陽平 : 千葉商科大学 准教授、働き方評論家)