今回のお宅は、ゴミではなくモノが大量にある“モノ屋敷”。残されたモノには住人たちの歴史を感じる(写真:「イーブイ片付けチャンネル」より)

大阪市内にある築93年の長屋には、かつて11人の家族が同居していた。家族はモノを置いたまま1人ずつ家を出ていき、最後に残ったのは80代の男性だけだった。その家に残されたモノと、そこから浮かび上がる“住人たちの証し”とはーー。

本連載では、さまざまな事情を抱え「ゴミ屋敷」となってしまった家に暮らす人たちの“孤独”と、片付けの先に見いだした“希望”に焦点をあてる。

ゴミ屋敷・不用品回収の専門業者「イーブイ」(大阪府大阪市)を営み、YouTube「イーブイ片付けチャンネル」で多くの事例を配信する二見文直社長が、モノ屋敷となった長屋から見えた11人の生活を語る。

かつて11人もの人間が暮らしていた

イーブイに長屋の片付けを依頼してきたのは、住人の娘の「知人」だった。長屋に1人で暮らしていた80代の男性は高齢のため介護施設に入所し、その後入院。退院後はこの家に戻る予定だったが、ほどなくしてこの世を去ったという。

2階建ての長屋はモノであふれていた。というのも、10人の家族たちが1人家を巣立っていくごとに、モノを置いていったからだ。晩年の家には毎日、訪問介護の職員が残された男性の世話に来ていた。ほかの家族は遠方に住んでいるというが、家を片付けるときには誰も立ち合いに来なかった。「ゴミ屋敷、モノ屋敷となっている実家に帰りたがらない人は多い」と二見社長は話す。

「“もうあの家を見たくない”という本音もあると思うんです。実家が昔からゴミ屋敷またはモノ屋敷で、小さい頃からずっとストレスを抱えながら暮らしていた人ってめっちゃ多いんですよ。今回の遺族に関してはわかりませんが、“あのころに戻りたくない”という気持ちがあるんだと思います」(二見社長、以下同)


1階のリビング部分には片付けを試みた形跡があった(写真:「イーブイ片付けチャンネル」より)

男性の遺族が今どこに住んでいるのか。10人のうちいったい何人が健在なのか。依頼主もイーブイもわからない。同時に、そこにどんな事情があるのかもわからない。これ以上は第三者が首を突っ込むことではないだろう。

築93年とあって長屋はかなり古い造りだ。玄関の隣には土間がある。玄関の床は見えているものの、土間はモノで埋まっていて、中がどうなっているのか把握できない。生活ゴミはほとんどないが、とにかく大量のモノが散乱している。リビングには壁側に家具がズラリと並んでいて、タンスはいくつもある。どう見ても1人暮らしのモノの量ではない。


玄関から上がった土間。工具用品が大量に置いてある(写真:「イーブイ片付けチャンネル」より)


土間からリビングに入るとモノが大量に山積していた(写真:「イーブイ片付けチャンネル」より)

2階へ続く階段にもモノが散らばっている。どうやら2階の部屋にはしばらく足を踏み入れていなかったようだ。

「訪問介護の職員が毎日来ていたくらいなので、最後まで住まれていた男性は足腰が弱っていて、片付けなんて無理だったと思うんです。基本的に70代や80代になったら、部屋を片付けることは難しいと思っています。ましてやこの家みたいに2階があると、上がることすらままなりません。片付けてみてはじめて、家の中にあるモノの量に驚く高齢者の方は多いです」

2階は足の踏み場がなく、トイレットペーパーやキッチンタオル、オムツなど生活消耗品の備蓄が山のようにあった。衣装ケースやダンボールも天井まで積み上がったままだ。特にオムツの量はものすごく、軽トラック1台分はあった。

“モノ屋敷”から大量の現金が出てくる理由

モノ屋敷の特徴として、同じ用途のモノが何個もあるという点がある。ライター、洗剤、ハサミなど1つあれば済むモノが、とにかくいくつもある。過去には大家族でもないのに布団が20組も押し入れに入っていた家もあったという。

また、モノ屋敷の片付けでは、毎回と言っていいほど大量の現金が発掘される。合計すると200万円の現金が家の中に落ちていたこともあったし、金塊が出てきたこともあった。10万円が入った封筒がポンポン出てきたこともあった。



2階はさらにモノであふれている。そのほとんどが手つかずの生活用品だった(写真:「イーブイ片付けチャンネル」より)

「住んでいる方が認知症の場合、小銭をポケットに入れてそのまま寝てしまい、小銭が散乱してしまうこともあると思います。ただ、趣味のモノであふれているモノ屋敷の住人は、単にお金に無頓着な傾向があるように感じます。お金をあまり大事にしていないというか……」

きっと、お金もあくまでモノの1つにすぎず、「お金だから大事にしておこう」という意識が薄いのだと思う。同じような感覚で、モノの優劣がつけられず、「とりあえず取っておこう」と、どんどんモノが増えていくのではないか。

家が広くてモノが多い分、片付けにかかる時間も長くなると思いきや、見積りの段階で想定していた2日間を大幅に巻いて、たったの6時間で長屋は空っぽになった。

「8LDKの一軒家や忍者屋敷みたいに広い家もありましたが、部屋の面積にかかわらず、やり方は基本的に一緒です。まずは入り口からどんどんゴミやモノを出していきます。人数が多ければいいというわけでもなく、狭い家に人数をいっぱい入れても邪魔になるだけ。逆に広い家なら、たくさんスタッフを入れても各部屋に振り分けられます。だから、広くても狭くても、片付けにかかる時間はそこまで変わらないんですよ」

今回動員されたスタッフは計7人。14人を導入すれば3時間で終わる……というわけではなく、むしろそれでは6時間で終わらない可能性も出てくる。



土間からどんどんモノを出していき(上写真)、最後に2階にある大量のモノを片付ける(写真:「イーブイ片付けチャンネル」より)

広い家こそ“モノ屋敷”になりやすい

この家の片付けを見ていて気付いたことがある。広い家ならスペースが確保されているので、ゴミ屋敷やモノ屋敷にはなりにくいのではと思っていたが、むしろその逆かもしれないということだ。

「その通りで、広い家はかえってモノ屋敷になりやすいです。やっぱり広いからこそ、モノが増えても最初はあまり邪魔にならないんです。収納スペースも多いので、ストレスを感じないんですよね」

しかし、モノが収納スペースに入りきらなくなった頃には、もはや手遅れになっている。広い家にはすでに大量のモノが溜まっていて、すでに引き返せなくなっているのだ。そして、あまりの多さにどうすればいいかわからなくなってしまう。



台所のビフォーアフター。30〜40分ほどで片付いた(写真:「イーブイ片付けチャンネル」より)

田舎の広い実家に高齢の親が住んでいるという状況は、“モノ屋敷予備軍”と言えるかもしれない。しばらく実家に帰っていない子どもがいたとすれば、一度見に行っておいたほうがいいだろう。

大家によれば、この家族は少なくとも70年前からこの長屋に住んでいたという。それだけの期間モノを捨てなければ、当然溜まっていく一方だ。

11人の生活が確かにあったという証し

キッチンからは、メスやハサミなど手術で使用する道具が出てきた。11人の中に医療従事者がいたのだろうか。プレパラートや虫眼鏡のセットに石の標本も一緒にあることから、いろんな分野に研究熱心だった医者の姿が浮かんできた。


台所から見つかった医療器具。医療従事者が暮らしていた痕跡が見える(写真:「イーブイ片付けチャンネル」より)


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別の部屋にある衣装ケースには、無数の工具が眠っていた。衣装ケースは約10個。そのすべてに工具がパンパンに詰められていた。カンナ、砥石、ありとあらゆるパーツがある。使い古された軍手もしまってあったので、日曜大工を趣味にしていた人がいたのだろう。

工具を仕分けしているスタッフも、「めちゃくちゃ工具が多いので、なにか自分で作っていたのかな」と言っていた。

紙類のモノが多く散らばっているエリアには、割り箸が入っていた袋がたくさんまとめられていた。印字を見てみると、日本各地に旅行へ行くたびに、訪れた店から持って帰ってきたみたいだ。乗車記念のチケットが何枚もあるので、鉄道旅行が好きだったのだろうか。オリンピックや万博といった記念硬貨は、コレクターと言っても差し支えないほど集められていた。



古い工具や割りばしの袋。住人たちの趣味関心が感じられる(写真:「イーブイ片付けチャンネル」より)

長屋に残されたモノたちから、顔も名前も知らない11人の生活がなんとなく見えてくる。ゴミ屋敷やモノ屋敷はただの迷惑な存在でもなければ、ただの社会問題でもない。そこには確かに人が住んでいたという証しでもある。



片付け完了後のリビング(上写真)と2階和室。ゴミは少なかったため、部屋の傷みは思ったよりもない(写真:「イーブイ片付けチャンネル」より)

(國友 公司 : ルポライター)