「アイオニック5」は2022-2023年の「インポート・カー・オブ・ザ・イヤー」を受賞。世界的にも評価は高くアメリカでは2022年に約2.2万台を販売している(写真:ヒョンデ・モビリティ・ジャパン)

韓国の現代(ヒョンデ)自動車グループは、トヨタ自動車とフォルクスワーゲンに次ぐ世界3位の自動車メーカーだ。2022年の世界販売台数は684万で、アメリカのゼネラルモーターズをも上回る。2030年までにEV(電気自動車)を年間200万台販売する目標を掲げ、電動化戦略を加速させている。

その現代が2022年2月に日本市場に再参入、5月からEV「IONIQ(アイオニック)5」とFCV(燃料電池車)「NEXO(ネッソ)」の2車種をオンラインで販売している。過去、販売が振るわず2009年に撤退した日本市場をどのように攻略するか。日本法人のヒョンデ・モビリティ・ジャパンの趙源祥(チョ・ウォンサン)社長に聞いた。

――日本市場で新車販売を再開しておよそ1年経ちました。ここまでの評価や手ごたえは。

この1年、ZEV(ゼロエミッションビークル)に絞った商品展開やディーラーを持たないオンライン販売など新たな挑戦ができた。ただ、販売台数については満足していない。

EVのアイオニック5は累計販売台数が約700台、EV市場でのシェアは1%ちょっとだ。希望していた販売台数には到っていないが、およそ700人のお客様ができたことには感謝している。「素晴らしい車だ」という声をたくさんいただき、昨年は「インポート・カー・オブ・ザ・イヤー」を受賞した。

FCVのネッソは、国内で水素燃料の値段がかなり上がっていて、それに加えてインフラの拡大が思ったとおりには進んでいないので、まだ厳しいのが実情だ。

ワンプライスの透明性や利便性を訴求

――なぜ日本でディーラーなしのオンライン販売としたのですか。

ヒョンデは欧米でもディーラーなしのオンライン販売で実績を上げている。

顧客調査をすると、ディーラーとの関係に不満がある方が特に若い世代や女性に多かった。ディーラーの店舗に行って話をしたり、その後に電話を受けたりといったやりとりがめんどうだという。アメリカではディーラーによって車の価格が違うため、価格交渉が嫌だという声もある。

対して、オンライン販売の値段はワンプライスだ。ディーラーとの価格交渉が不要で透明性が高く、顧客から高い評価を得ている。商品選びから納車の仕方、契約に至るまですべてをオンラインで行えるので「本当に便利だ」「車をこんなふうに購買できるとは想像もつかなかった」という声を聞く。

――自動車のような高級商材をオンラインで購入することに不安を感じる消費者は多いように感じます。どう浸透させていきますか。

オンライン販売を経験した方とそうでない方の認識のギャップが大きい。700人のお客様の中には、試乗を一切せずにオンラインだけで購入された方も何名かいた。一方で「試乗はどうするのか?」などといった不安もある。とりわけEVは、ガソリン車と違ってなじみがないので実物を見ないでオンラインで買うのは勇気が必要だ。

そこで、試乗については全国6カ所の「体験拠点」を設置した。こうした拠点では試乗だけではなく、EVに触れて「体験」できることを重視しており、お客様からも良い感想をいただいている。

日本でEVとFCVに絞った理由

――日本での展開はEVとFCVのみとし、ガソリン車を販売していません。

日本は現状、ガソリン車の販売が好調だ。そんな市場に遅れて参入して「何ができるか」を考えたときに「環境や社会への寄与」を強みとすることを決めた。


趙源祥(チョ・ウォンサン)/現代自動車グループでドイツ、アメリカ、中国で駐在を経験。2018年から本社のグローバルマーケティング室長などを歴任。2022年11月よりヒョンデ・モビリティ・ジャパン社長(撮影:ヒダキトモコ)

――とはいえ、日本は他の主要国よりもEVの普及が遅れています。

足元の数字では、EVシフトがまだ遅いかもしれない。が、われわれの車を購入してくれたお客様の様子を見ていると、どこかで爆発的に普及する時点が来ると思っている。ただ、充電インフラの不足や、補助金制度の安定性などがハードルになっている。さらにEVが中古車になったときの管理や残価などにも不安がある。

――そうした不安をどのように低減してEVを販売していきますか。

日本にとってEVはまだ新しい存在で、購入するにも勇気が必要だ。充電をどうするのか、整備をどうするのかなど、顧客にとっては不安も多い。少しでも不安を減らし、お客様にカーライフだけに集中して楽しんでいただきたいと、アイオニック5については、初回車検を含む新車登録後3年間の法定点検費用の基本料金とバッテリー冷却液の交換を無償にしている。カーライフは長いので、今後も整備のサービスの範囲を広げていきたい。

――EVの普及率が低いことで、むしろ「競合が少ない」というメリットを感じますか。

日本に先に進出したテスラを見るとメリットになるかもしれない。しかし、EV市場が大きくなれば、その分パイも大きくなるので、日本のEV産業にはインフラも含めてもっと早く成長してもらいたいと思っている。

ヒョンデは日本で認知度が低く、EVシフトが進まない中でお客様に関心を持ってもらうことは厳しい。現状、日本ではまだ「EVを受け入れる土壌」ができていない。社会的にEVに関心が出てくると、ヒョンデも選択肢になる。段階が必要だ。

難しい日本市場へ再参入した訳

――趙社長はこれまでドイツやアメリカ、中国に駐在してきました。各国と比べた日本市場の難しさをどうとらえていますか。

一番は輸入車に対するハードルの高さだ。日本における輸入車のシェアは約6%しかない。さらに輸入車市場はフォルクスワーゲンなどドイツ3社がほとんどを占めている。

欧米と比べても、日本のお客様は商品への「こだわり」がものすごくある。納車した車の状態をすぐチェックする細かさがあり、商品の取扱説明書をよく読んで勉強している。購入する車のことをすべて知り尽くしたいというお客様が多く、それらすべて対応しなくてはならないというのは、メーカーにとって難しさがある。

――そんな厳しい日本市場に、なぜあえて再参入したのですか。

一番厳しい市場で、一番目線の高いお客様の納得をもらい、満足してもらう。こだわりを持つ日本のお客様の要望に対応することができたなら、他の市場でも評価を高められる。ゆえに日本市場でお客様から認められることは、われわれの究極的な目標だ。


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(村松 魁理 : 東洋経済 記者)
(井上 沙耶 : 東洋経済 記者)